10回目 旧世紀時代人
ガチャチャチャ、ガチャチャチャ。ゴトッ。 パカッ。
「部長。サインの横に必要な印が漏れています」
「アッと驚く為五郎~♪」
「何ですかそれ」
「昭和は遠くなりにけりか。『ハナ肇』のギャグだよ。課長。君、ハナ肇を知らないのか?」
「もちろん知りません」
「やっぱりな-。平成生まれの子はハナ肇を知らないんだー。スマホなら「はなはじめ」で予測変換もできるのに」
「ですから何ですか?それ」
「クレージーキャッツのリーダーだよ」
「クレージーキャッツ?」
「クレージーキャッツも知らないのか。じゃあドリフターズならどうだ」
「ドリフは知っています。専門チャンネルで見てましたから」
「専門チャンネルか。じゃあ仮面ノリダーは?」
「知りません」
「新世紀ヱヴァンゲリオンは?」
「知ってます。でも、あれって旧世紀ですよね」
「たしかに。まあ、それは置いといて。そのドリフの初期メンバーの芸名を決めたのがハナ肇なんだよ。いかりや長助とか、加藤茶とか」
「へー、そうなんですか。部長ハンコお願いします」
「ああ、そうだった。ポチッとな、と」
「ありがとうございます」
「じゃあ、定時になりましたんで、私は帰りますね」
「はいはい、お疲れさん」
「さすが、課長。ゆとり世代」
「新人くん。人生に大切なのは、まずゆとりだよ。では部長、失礼致します」
「ほーい」
「部長。僕は残業頑張りますよ」
「お、やるな新人君。Oh!モーレツ社員がここにいた」
「でも、明後日は有給使わせてもらいます。連休と合わせて海外に行きますので」
「"有給"って新語?流行語?」
「部長。国語辞典に載っていますよ」
「有給なんて口にすらできなかった旧世紀の人類からすると、うらやましい限りだねぇ。♪サラリ~マンは~、気楽な稼業ときたも~んだ」
「そういえば、旅行用のキャリングケースのコロが壊れてるんだった。帰りにショッピングセンターに寄って、新しいのを買って帰らなきゃ」
「新人くん、ジャスコって知ってる?」
「残念ながら知りません。いにしえの呪文か何かですか?」
「会社を滅ぼす破滅の呪文なんだよ」
「縁起が悪い事言わないで下さい。入社したばっかなんですから」
「ハハハ、めんご、めんご~。そうかぁ。ジャスコは、国語辞典にも…………載ってないか~」
おわり
※オヤジギャグはコミュニケーションの潤滑油ですからスベってなんぼなんです。
その潤滑油の効果についてですが、それを確かめるためには、もう一度同じギャグを繰り返さないといけないというのは、皆さんも御承知の通りと思います。