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SAKICHI  作者: ていきょー
6/15

#6 タンレン

「サキエル。この世はな、簡単じゃねーんだ。妬み、嫉み、僻み。こういうもんが蔓延ってんだよ。下らねえよな。人間って、まだまだ弱えぇ。わかるか?おい。」


今日もベニーニュ司祭様が俺に剣を教えてくれている。


パキン!パキン!


「だからな、よく聞け?強く成れ。それしか道はない。その両手で、片手で戦う俺に勝ってみろよ、ほれ。」


「酒くっさ・・・いつもいつも。くっそ!」


「うひひひひ!お前が弱すぎるから、これはハンデってやつだ。ほれ、早く来いよ。」


ヒュバッ!

ヒュババ・・・

片手のくせに、この酔っ払いの剣捌きには歯止めが無い。

一体どうなってるんだ???


「ばーか。わからないって顔してるよな?そりゃそうだよ。毎回お目目瞬きしてるじゃねーか。」


はっ!と、俺はこの司祭にまさか木刀で殴られることは無いと思いなおし、瞬きしないと、決め込んだ。


「よし、そうだ。相手の動きは常に監視しろ。肩の動きだ。肩の動きは片時も見失うな。肩だけに片時も、ね。うひひーー油断したら⋯ほれっ!」


強烈な速さで回転し、強烈な木刀が、強烈に尻にヒットした。

司祭ってこんな職業だっけ・・・・?


「うぐうっ!!!!」


回転していると思ったら、次は急に喉元を突いてきた。


「ふっふーん。喉笛突かれると痛いだろ。急所なんだ、あらゆる人間の、な。覚えとけ。」


ふざけやがって。

俺はすかさずその木刀を掴んで、自分の真剣を横切りで切って、司祭を真っ二つにしてやろうとした。

しかし、司祭は木刀を手放していた。・・・と、気づいたら俺の目に砂が入っていた。


「うがあああ!!!」


「あーーっ!はっはっは!お前は・・・ふぐぐぐぐぐぐ・・・本当に・・・!! あっはっはっはっは! !」


「な、なに笑ってんだよぉ!」


「だって、昔の俺そっくりなんだもん!あーっはっはっは!!」


ベニーニュ司祭様は、その場で笑い転げる。


「はあ、はあ、いや、わりぃ。ごめんな。お前がほら、クソ真面目だからさ・・・うあーーーーーっはっはっははあっは!!!」


「い、いい加減にしてください・・・せっかくかあさんに時間貰って剣教えてもらってるんです!!時間が無いんです!」


「いーーーーっひっひっひっひ!!!クソ真面目!クソ真面目過ぎるぞお前!!!」


俺はこの男にいつか一矢報いようと、日々頑張っていた。

この人の強さは、ずる賢さだ。そう思わせておいて、実はそうでない。

その"実は"も疑わしい。まるでサッカーで言うところのクリスティアーノ・ロ〇ウドだ。

司祭は虚実の名士だった。


「くっそぉ!」


持っている真剣を振り回す。

司祭の顔から、急に笑顔が消えた。


「・・・お前、舐めてるのかー?戦いを。」


ドがッ!!!


「ぐふぅ!!!!!」


どえらい強烈なサッカーボールキックが腹に入り、しばらく息を吐ききった状態で、呼吸できずに死ぬ思いをした。


「なあ、それで大切な人を守れると思ってるのか?お前。俺がお前に何の名をあげた?水の天使の名だよなあ?ええ?その意味、分かってんの?」


は?

と思いながら、ドンっという音と共に、目の前に細かい星が出たと思ったら、真っ白な世界に俺はいた。


「おい、こっちを見ろサキエル。」


「え?え?ここどこ?」


「ココはな、深淵だ。生死の。ようこそ。」


「うわああああ!!」


剣を振り回す。なんなんだこいつは!!!


「俺はな、お前を天使だと信じてその名を名付けたんだ。水の天使。」


何言ってんだ?こいつは。


「水はさ、誰に何を言われようと、何も見えて無かろうと、剣がいくら突き刺さろうと、同じリズムで、同じ速さで、セーヌ川を流れるだろ?」


は?何言ってんだか全くわからない。


「その流れをつかめ。お前はこの世の者とは思えないような力を持ってると、俺は踏んだ。水の流れのように。時の流れのように。時は、時として、人の感じる刹那の隙間を縫うことができるんだ。それを知った時、その刹那。何もかもを避けることができる。」


気づくと見慣れた天井の下のベッドで寝ていた。


「うわっ!朝??」


日は45°くらい。9時くらいだろうか。

朝飯なんてとっくに無いだろう。収穫に行かねば。


「母さん・・・」


「おやサキエル。またこっぴどく司祭様にやられたねぇ。昨日は。」


はあ、またやられたのか、俺は。

司祭様は度々家に来ては稽古をしてくれていた。

とーちゃんも子供の時からの傭兵育ち。とーちゃんの稽古はまるでスパルタだった。

吹っ飛んでも吹っ飛んでも、「起き上がれ。」しか言われない。

お前は俺の血を引いていると言わんばかりに。それ故か、俺はタフだった。


しかし、司祭様のそれは全く違った。

言葉で、俺のそれまでのプライドをつぶす、容赦ない強さだった。

ぶっ倒れる前の、司祭様の言葉がよぎる。


「お前、カレンの事、好きだろ。」


カレンは幼馴染で、何故か俺に懐いていた。一個違いの幼馴染。


「⋯サキエル。あたし、人が嫌い。目付きが怖い。今日なんて、オクタって男の子が私の事『ブスでのろまの豚』って言ってきた。それって、私の事嫌いってことだよね・・・?もうこの間なんて・・・」


泣き虫カレン。

涙でいつも目がうるんでいる。


「気にすんな。人は好きなだけ好きなことを言うもんさ。ほれ、葡萄食う?」


勝手に取ったブドウを、カレンに投げた。


「葡萄ってさ、粒粒ついててみんな同じ粒のように見えるだろ?でも違うんだ。大きさとか、形とか。一粒一粒が栄養を取り合って必死に生きてるんだって。人も同じように見えて全然違う。みんな必死なんだよ。きっとそのオクタってやつも、なんか家で嫌なことあったんじゃない?」


カレンはキャッチしたブドウをしばらく眺める。


「あいつも、大変なのかな。」


オクタの父親は、このカストルム・ディヴィオネンセの議員だった。

厳しいしきたりに縛られた家だった。


「私ね、決めた。大変なのか何なのか知らないけど、これからこの葡萄を投げつけてくる。」


颯爽と丘を駆け上がって、街の中心部へ向かっていった。

そして翌日、晴れ晴れとした顔でまた俺の前に戻ってきた。


「ありがと、サキエル。あたし、負けないよ。誰に何と言われようと気にしないことにした。昨日ね、オクタの顔に葡萄を投げつけてやったの。『なんでも人のせいにすんな!その葡萄はな!一粒一粒必死なんだ!みんな一緒なんだ!』って言ってね。そしたらね、なんか、泣いてた。あいつ。変な奴だよね。」


ふはははは!と声を高々に上げて、またどこかに去っていった。

丘の上の方へ。俺はいつも、カレンが駆け上がっていく丘の急斜面のほう、その度に、斜め上の方へ顔を向ける。

夕日と共に消えてゆくカレンの姿を思い出した。


「なーに斜め上を見てるんだい、サキエル?」


「いや、司祭様・・・いいや、あの司祭。あの人は・・・なんて・・・」


「あっはっは!サキエル?恨んでるのかい?あのお方はね、国王直属の聖騎士団長、あと、お姫様の騎士様でもあったからね。きっとお前の親父よりもいろんなことを知っていて、誰よりも誰かを愛して守ってきている人だ。ちゃんと学びな。ワインが好きでよかったよ。」


そうして、毎日稽古つけてもらったのに、結果がこれだ。

カレンはさらわれ、司祭の元へ、助太刀することもできなかった。

悲鳴が兎に角、怖かったから。


俺の青い目は、悔しさの涙で溢れた。

何を恐怖してるんだ。大切な人も守れないで。この両手は何のためにあるんだ。

早く、強くならなければ。早く。

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