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SAKICHI  作者: ていきょー
22/22

#22 アナング

母と兄は、あの巨大な岩を目にして、ミーサが以前集落で描いた絵を思い浮かべた。

まさにあれが、大陸の中心に描かれた丸の形だと悟った。

それを理解したミーサが目を合わせて頷く。


今なお続くアナング族の集落は、この家族を暖かく迎え入れた。

母は村長の名、「ジジン」の話を伝えた。

母は幾度となく聞かされた村長の武勇伝を知っている。彼は集落の中では英雄だった。

アナングの人々はジジン村長のそれを耳にすると、目を見開いた。


おそらくジジンの子であろう青年が母に近づいては、跪く。そして顔を上げた。


「父は、お元気でしたか?」


「ええ。私の集落を去るまでの、あの時までは。」


青年の目から、ぽろぽろと大粒の涙を地に落すと、同じくその身もまた、地に落とす。

村長の妻と思しき女性が母の元に恐る恐る近づき、目と目でその人格を悟ったのか、母の手を優しく包んだ。


「よくぞ、その話を伝えに、ここまで来てくれました。さぞお疲れでしょう。どうか、休んでくださいまし。」


ミーサ家族は大いに歓迎された。

そして3年の月日が経ったある日の事。

物凄い土埃りと共に、赤い旗の群衆が迫ってきたのだ。


集落の若い衆たちは主に弓を武器としていた。

蓄えてきた無数の矢を、次々に弧を描き、奴らに放つも、赤いその群衆の進撃は止まるように見えなかった。


「ミーサ!逃げなさい!」


「やだ!母さん!」


「お前はまだ小さい。早く逃げろ。」


弓の狩猟の戦士となっていた16くらいになったであろう兄も、落ち着いた面持ちで、逃げることを催促してくる。


「兄ちゃん!」


「ミーサ、察しのいいお前はもう、わかっているだろう?俺の気持ちを。」


獣の胃で作られた、兄の持っていた縄で括られた水袋をすべて、8個ほど押し付けられた私は、全速力で岩場へ向かい、身を潜めた。

そして程なくして、お手上げの集落の皆は、多くの言葉を赤い彼らに投げかけるも、縄で縛られるのを目にしたミーサは、悲鳴にならないようとにかく声を殺し、声にもできない嗚咽を吐く。


日の暮れる頃、密かにミーサはエーアズロックへと向かっていた。

言葉は時に無力だ。ならば私は絵を描き、多くの人が必死に生きた証を残したい。

自らも、もう終わりは近いと確信していた。


そうして何日もかけて、絵を書いた。丁寧に。丁寧に。丁寧に。。。

トカゲを追いながら、捕まえては生のまま食らいながらひっそりと、ただひたすら時間の許す限り描いた。


さらに数日が経った。水もなくなった私は、食べものも取る気力もなくなって、絵に描いた優しかった彼らに見守られながら、静かに餓死した。


・・・いつか、この思いが遠い未来に伝わることを祈りながら。生きた証がいつか・・・

ーーーー。


一同は美しい絵を横目に、そそくさと名古屋を後にした。


そして、到着。東京駅。


「ほえええ・・・」


ワミコは圧巻だった。

大阪もすごいけど、東京もすごい。


「こうした街並みはすごいが、一体何を目的に貧弱な体でこんな高層の建物を作ったんだろうな。なにか熱意を感じる。お前もいつか何かしら、今のお前と同じように、誰かの心を動かす猫になれ。」


タロがポンっと、ワミコの頭に手を置いた。

朝の青い空、清々しいけど少しガス臭い空気。ちゅんちゅんカーカー鳴く鳥の声。

駅員と思われる彼らは一体何をしているのだろう。

猫である彼らは、大阪の駅の人間たちと同じように忙しなく動く人間たちを見て漠然とそのように思っていた。


「ところで、なんでこんな形にしたんだろうなー。人間は。面倒よね。これ作るの。」


「知らん。知らんが人間はそれぞれ違う目的をもって行動している。お前はリュウをものにしようと躍起になっているのだろうが、そのあとはどうだ?ものにして、そのあとのことを考えているか?なぜリュウとそこまで一緒になろうとする?」


デリカシーのない父親の言葉に、ワミコはムッとした。


「す、好きになることに理由なんてある!?いろいろよ、いろいろ!!!」


「あっはっは!それはそうだな!・・・しかしまあ、リュウの奴ならそうだな・・・きっと自分の想像のできないような大きな夢を持った奴に惹かれるだろうな。」


大きな夢・・・か。私にはそんなものは無かった。

うーん、世界征服とか?うーん、じゃあ世界を征服したらそのあとは?

きっとリュウはそんな夢には靡かないだろうな・・・


「父ちゃんは、なんで母ちゃんと・・・その、仲良くなったの?」


「ふん。それを聞いてどうする。真似をするのか?」


「そ、そんなつもりはないけど。まあ・・・参考までっていうか・・・」


「じゃあ参考までな。アイツは出会ってすぐに俺にこういった。『アンタは弱い』と。」


ん?父ちゃんが弱い?


「あんたは物理的には強いのだろうけど、それは本当の強さではないと、俺の1/2くらいしかないその体で、真っすぐな目で俺に言うのだ。その時の俺には理解が出来なかった。」


「強さとは、己に勝つ事。己こそ最強の敵。己の傲慢、驕り、慢心こそが最大の弱点。お前はメス猫一匹でさえ、完璧に守りぬことはできるのか、と。今まで俺は、手を振りかざせば他者が朽ちてゆく姿を散々見てきた。がしかし、そこには空虚しかない。」


「は、はあ。」


「リュウと一緒になりたいならこう言え。お前は弱い。と。そして、私には夢があると。」


「あたしには夢なんてない。」


「いいかよく聞け。これはジレンマだが、誰かとくっつく事だけを最終目的としていては相手は靡かない。もっと遠くに、もっと大きな目標を持つことだ。そういう存在に、生命は靡く。エサだけを追い求める奴に、何の魅力がある?そんな輩は、エサにもありつけないだろう?よく考えな。」


ワミコは家族の中でも一番の面倒くさがりだ。

はあ、ダルイ。でも、この父の言葉には、確かな深みがあった。


「俺には前世の記憶がある。お前の姉兄たちも何匹かそういうのが居る。小さいお前にはまだわからんかもしれんがな。少なくとも俺は前世で、誰にも負けないくらい、大きな目標を持つことの大切さを経験している。お前もゆっくり経験すればいい。」


ゆっくり?

そんな悠長なことしてちゃ、リュウはどこぞの馬の骨やら泥棒猫に持っていかれてしまう!


「大きな目標って何さ!?」


「今のお前にはまだわからないだろう。この世はお前が想像する以上に広いんだ。

宇宙って、知ってるか?それが分からないなら、俺の大きな目標を語るのは今ではない。」


ウチュウ。

確かリュウが以前、前世の話をしているときにその言葉があった気がする。


「う、ウチュウって何!?」


「この星の外の世界だ。あの新幹線をひねった、蚤のような奴ら、居ただろ?あいつ等は外、宇宙から来た。」


「外の世界・・・ホシ・・・外の世界って、どれくらい広いの?」


「お前は大阪で暮らしているだろ?その大阪の外の世界が、今いる、こういった場所だ。そして、ここ東京と大阪含め、実はここは海に囲まれた島になっている。さらに、この島はこの星の中で言えばちっぽけな島だ。・・・ええと、海は分かるな?海に囲まれた陸地を、島という。」


「うん。海は知っていたけど、島は知らなかった。でも何となくわかったよ。じゃあ、ホシってなあに?」


「星ってのは、まあ、青くて、丸くて、うーん、この島だけでなく、大陸があり、海があり、そのすべてが存在する丸い粒だ。」


ワミコは今一分からなかった。

粒・・・?話が壮大すぎる。そしてだんだん疲れてきた。


「あー、もう、しんど。」


「ふふふ。そうだろう。だから夢についてはゆっくりでいい。1つ1つのあった出来事、経験を学び取って、元気よく成長してくれさえいれば、この父は幸せだ。」


ワミコは怪訝な表情を浮かべる。

何かごまかされたような。


「はっはっは!まあ心配するな。リュウもきっとお前の事を好きだろうよ。安心しな。」


父が私の額を優しく舐める。

その微笑ましい情景を眺めていた佐吉が近寄ってくる。


「いい父ちゃんの元に生れ落ちて、幸せだな。ワミーコよ。」


「ワミコだよ!間違えんな!」


「かっかっか!ええど!多分な、夢だか何だかよりもリュウの奴はお前のそういう元気でパリッとしたところが好きなんやと思うで!自信持てや。なあ!あっはっは!」


ワミコの頭に火が走った。リュウが私の事を好き?

・・・クソっ!という顔をになった。


「はあ、ジジイ、マジでダルイわー」


「ワイも、そんなツンデレなお前も好いとうよ。そのままでええ。焦ることはない。」


一同は新宿の駅からほど近い雑居ビルの屋上に集まった。

空調設備の、温かい空気がでる室外機設備のある屋上だ。


「では、作戦会議や。心して聞け。」

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