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SAKICHI  作者: ていきょー
21/22

#21 コトノハ

「でもさー、人間もそうだけど、どうしてああいう個体が生まれるんだろうね?」


ヨカゼが風を切りながら俺に言う。


「欲望は尽きないってことだよ。どこか1点の目的に向かって突っ走ってる。今の俺たちのようにな。」


どどどどどどど・・・

タロの重量が地響きを立てている。


俺たちは新宿に向かって走っている。

何しろ新幹線はおじゃんだ。今頃ニュースになっているだろう。


「あいつらがどんな目的でこの星に降り立ったのかは知らんが、結局のところ何かしらの欲望があったってことだ。たしかタフエの話によると、あいつらは何万年も前からこの星のような色んな星々の生物を食い荒らして、この地球という星もいわば畑のように扱っているらしい。」


「何のために生きてるんだろうねえ?つまらない生き方してまんなぁ・・・もっと崇高な何か目的があるんやろか?」


「知らん。俺の目的は我が子たちを腕っぷし一つで解決できるように育て上げることだ。それを邪魔する奴はひねりつぶす。」


「ホンマ筋肉の塊みたいな発言さな。単純で楽そうなそんなとこに惚れたんだけど。」


線路を沿って、清州城のそば、五条川のあたり。

距離にして約70㎞。1時間足らずでここまで来た。なかなかの持久力だ。

もうすぐ名古屋。真っすぐで平らな線路の上をひた走る。


「あんたはなんでそんなに子供たちを強くしたいんだい?」


「その方が一生を悔いなく謳歌できるからだ。」


ヨカゼはそこまで考えていると思ってもみなかった。

タロはちゃんと子供たちの将来の事や幸せを考えていた。


「何かの目的に向かい、一心に行動することこそが充実した幸せな時間であると悟っている。」


タロを見直した。なんて単純で美しい肉体で、はっきりとした答えだろう。


「筋肉こそが正義だ。鬼になってでもこいつらの筋肉を鍛え上げる。」


筋肉?うーん、筋肉かぁ。と、なんかちょっと違う気がした。

左手の空が少し青くなってきた。夜明けだ。


だんだん大阪のような建物が多い場所になってきた。

名古屋の駅では新幹線が走りだすのを待つ人間が群がっていることを見越して、シロが切り出す。


「名古屋駅ではホームの下の影に隠れて移動してください。人の目につく。」


サミノは相変わらず無口なまま、シロのそれを聞きながらカレンの横を並行する。


サミノは内に秘めるタイプだ。全くの無口。

だが、想像力や優しさの大きさは姉として知っている。

カレンはそんな妹を慕っている。すぐに、優しさが態度に染み出しているからだ。


サミノは突然、物凄い速度で走り出した。

それに追従するカレン。


「サミノ、何を考えてる?」


「・・・」


一足先に名古屋駅についたサミノは、肉球に牙を立て、自らの血でホームの下の陰に、UAP円盤の絵を描く。その先に、大勢の猫が走る絵を描いた。

サミノは絵が好きだ。カレンはその絵を見て先ほどの出来事の事だと悟った。


「あんたは絵が好きだね。どうして、こんな誰も見ないような場所に、絵を描くんだい?」


「・・・」


サミノは、前世のことを思い出しながら、絵を描いていた。

ーーーー

約61000年前のこと。

ミーサと呼ばれる少女が、オーストラリア大陸の極北集落で暮らしていた。

元気が良くて、おしゃべりで、天真爛漫。

動物や集落の人たちの事が大好きで毎日が幸せだった。

鳥にも動物にも、植物にだって、いつも同じ場所に居るそれらや場所に行っては、毎日話しかける。


おしゃべりなのだけど、しかし言葉は統一性がなく当時の大陸文化は言語という文化が散り散りだった。

思い思いの言葉を、心を込めて、動物にも人にも関係なしに放つ。

しかしその目には気持ちを、言葉通り目いっぱい込めて、しゃべるのだ。

表情や感覚だけで何を言いたいかを伝える。そんな集落が250程大陸には存在していた。


言葉なんてものは、結局表現の一つであって、通ずればなんでもいい。

喜怒哀楽さえ伝えられれば、私達はもうそれだけで幸せだ。


ミーサが育った大陸は、そんな大らかで、雄大な感覚の、ゆっくりとした時間を過ごす優しい人種が生活する場所だった。

隣の集落の誰かに伝わらなくたって、心さえ伝わればいい。

それさえ守っていれば、我々は幸せだ。

これが彼らの文化だった。


・・・しかしある時に悍ましい事態が発生した。


海の向こうからそれはそれは大きな、見たこともないような帆が沢山浮かんで、こちらに近づいてきているようだった。


ミーサはこの後何が起きるのかも知る由もなく、海の向こうの無数のそれらを捉えると、好奇心で一杯な気持ちで、目をキラキラさせながら村長のところに走って行った。


「◆△x*%&)}+!!!」


ぱあっ!と、きっと素晴らしいことがこの後に起こる!と確信しながらわけのわからぬ言語で、白髭が長くほったらかしな村長を外に連れ出し、必死にその方向を指さす。


浜辺をについた村長は驚愕し、顔をゆがめた。

長く生きてきたが、こんな光景は初めてだ。彼は戦慄した。

歳をとるにつれ、今までになかった光景を目の当たりにすると好奇心よりも不安が勝るものだ。

定期的に来る交易船と違う。帆が真っ赤に染まっている。


「ミーサ、逃げなさい。」


いつになく村長の目は深刻だった。


「+}@!? ・~^ー¥!?」


何か恐ろしいことが起こる。そう言っているのか?なんで??と言ったつもりだった。

村長は頷きながら、そして優しい目でミーサの頭を撫でながら、傍にあった枝をもって、地面に絵を描いた。

それはこの大陸の地図。ちょうど大陸の中心に丸を書く。

村長は周囲の集落から伝わる、この大陸の地図を把握していた。


そして震えを隠しながらゆっくりと、大陸の北部の海辺を指し、今ここが、私とお前が居るところだ、

この中心の楕円の形の場所へ急いで向かえ、お前の大切な人と共にと、示す。


絵には、母と手をつなぐミーサの姿があった。

感受性が人並外れて高かったミーサは、村長の震えや、見せまいとする不安な表情を見て、すべてを悟っていた。


村長が優しい目と木の枝とジェスチャーでそう伝えると、ミーサは涙を流した。

何を思ったのか、ミーサは何も言わず、静かに頷く。


きっとあの多くの海に浮かぶあれらは、危険なものなのだと。

集落の方へ走りだす。


息が切れ切れなのに、母を見るや否や、手を必死に引っ張る。

しかし母は?だ。困惑の表情を浮かべる。


「ミーサ、村長、聞いた!逃げる、皆!海、危険!」


ミーサは家に着くまで、必死に伝わる言葉を考えながら、繋げる思考していた。

今まで必要とも思わなかったそれらを紡いでいた。


きっと全速力で走ってきたくらいの疲労と、それでも大事な何かを伝えようとする娘のその焦り具合から、母はこれは一大事だと悟った。

ミーサは見よう見まねの、村長が描いたものと似た絵を描き出す。それに加えて、多くの船の帆を描く。


母はすぐに皆に知らせるために動き出した。

全力で木の角笛で危険の音を集落へ響かせる。

なんだなんだと皆が集まり、ここに向かえと、村長の似顔絵が木の枝で大陸の中心を指し示している絵をミーサは見せた。


「ミーサ、村長、聞いた!逃げる、皆!海、危険!」


それだけ見せて、木の枝を投げ捨て、兄と母の手を思い切り引っ張って海とは逆方向に走り出そうとする。

しかし、絵だけを見せても半信半疑な輩も当然現れる。


「ミーサ、お前大丈夫か?争いなんて起こるわけがないだろう。きっとこれは定期船だ。」


”定期船”というその言葉に、はっ!と振り返り、描いた絵の方に戻っては、焦った顔で固まりかけた指のかさぶたをかじって、帆を赤く染めた。


「赤かったのか。うーん。村長の心配性ではないか?」


彼らはそれでも、言葉のわからぬ娘の言葉を信じない。


村長は知っていた。

村長が子供の頃、人間は時に恐ろしいものであると知らしめるある出来事があったのだ。

それは一艘の船から降り立つ、剣という鋭い金属を持った男の記憶。

ーーーー。

見たこともないような細長い船と、大きな帆。

彼が話す言葉の意味は詳細まで分からなかったが、当時の村長少年は彼が助けを求めていることは理解できた。

何も知らぬ少年は彼の手を引っ張る。優しく、笑顔で。

集落の人々も、彼を迎え入れ、食事を振る舞った。


数日たったある時のこと。

川辺で事件が起きた。まだ13くらいの村娘の腹が、大きな傷口で切り裂かれていた。


犯人はその男に相違なかった。

食に満たされた男は強烈な性に飢え、おそらく拒んだ娘は剣によって切り裂かれたのだ。

偶然それを目撃した10にもならぬ少年も、足を切られた。


しかし少年はこの危機を一刻も早く伝えようと体を引きずって懸命に集落へ向かった。

少年は友達だった当時の村長少年に、川の方と男を指さし、間もなく出血多量で絶命した。

まずは男よりも、川に辿り着いた当時の村長少年は青ざめた。孤児の自分を養ってくれた義理の姉が赤い血のしみわたった石たちの中に、倒れていた。


『この切り口は・・・』


しばらくして少年は何ということをしてしまったのだろうと、何故彼を招いてしまったのだろうと後悔した。


涙でまともに前も見えないまま、急いで集落に戻ると、村人のほとんどが腕無し、斬首と、無念の死を遂げていた。

男は足を切られた少年の亡骸を見て、事に及んでいたのだ。


慎重に、涙を抑えながら、男に見つからないよう、川に沿って海から離れた。

この事を何とか他の集落に知らせなければならない。

そう心に言い聞かせながら川辺に沿って南へ走る。


日が暮れると、夜は危険な獣が蔓延る。

奴らは血の匂いに反応することを知っている。

自然にできた洞窟に入り、明かりが漏れないように注意を払いながら、火をおこし、はだしで懸命に走りながら付けてしまった足の裏のケガを消すために、悲鳴を抑えながら、焼いては川に晒して、臭いを消した。


1か月は経っただろうか。

杖を突きながら目についた集落は全て回り、食事をもらいながらとにかく南に向かって移動していたが、10歳くらいの少年は精神的にも体力的にも限界が来ていた。


そんな中初めて、恐ろしく巨大な岩を目にする。


その周辺に集落があるのを確認し、そこにもまた自分の集落で起きたことを伝えようとした。

しかし彼らは首をかしげるばかりで伝わらなかった。

そこで、優しい彼らは、時間をかけて言語を授けてくれた。

彼らは一様に、自らを「アナング」と名乗っていた。


30年に及ぶ生活だった。子も授かった。

しかしこの集落をまだ、自分の本当の故郷とすることはできなかった。

あの北の果てにはまだ、生き延びた集落の人たちの待つ、自分の故郷がきっとある。

アナングの彼らに精一杯のお礼をして、北へ向かう。


30年前にも立ち寄った、村に目をやる。

そこに足を踏み入れると既に廃村と化していた。

そこで、齢40程となった村長は目を見開いた。


そこにあったのは、あの男の剣が突き立てられた墓だった。

この村もあの男に襲われたのだろうか。いや、少し違う。

散らばった人骨だらけの廃村となった今や、真実は分からない。


・・・が、手厚く埋葬されているということは、あの男もこの集落で何かを守ろうと生きたのだろう。

授かった子供だろうか。

アナングの集落で学んだ祈祷で、いろんな思いを込めて、弔いの儀を行い、翌朝そこを立った。


数週間後、川を沿って北上してゆくうちに広くなっていき、いずれあの懐かしい風景にたどり着く。

岩々の先には以前と変わらない洞穴と、人々がいた。

そして、言葉を学ばせた。


彼がそこの村長となるのに、そう時間はかからなかった。

ーーーー。


村長は、いつもと違うことが起こったら、警戒すべきことを知っていた。

そして今、ミーサは「言葉」の大切さを身に染みて感じていた。

絵だけでは伝わらないのだ。この思いが。


とにかく、血で赤く染めた帆を示して、その男の目を真っすぐに見るや否や、村長から聞いた南へと母と兄を連れ動き出した。

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