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SAKICHI  作者: ていきょー
20/20

#20 セイレツ

「おい、蚤ども。相手にしてやらぁ。

・・・八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに・・・」


「おーいタロー!ちょいまてー!それやったら全滅しちまうやろー?!」


「何か問題でもあるか?こいつらを消すことに何の躊躇があるというのだ?」


「大事なんは、情報や。あとほら、そのルミネスらとやらは、蚤みたいな小さい奴らやろ?ちょうどワシの霊に、蚤がおんのよ。なあ、ジム。」


「へえ。旦那。お呼びで?」


「おうジム。タロ、こいつは霊体の蚤だ。お前さんの強さは分かるがな、奴らが雲散霧消しよったら厄介なのは、分かってるやろ?1匹も逃しちゃならんねや。まあ、焦らんと、このジムに任せときや。」


「ふむ。いいだろう。」


「このジムからしたら、時間の流れが他の生き物に比べて異常に遅い。おい、ルミネスとやら。お前さんたちゃ長い長い時間をかけて宇宙の航行で時間を費やし、きっと寿命は俺たちよりもはるかに長いと見た。つまり、周りを忙しない存在と思っていることだろう。」


「nani wo warera ni shirashime tai noda?(何を我らに、知らしめたいのだ?)」


「つまりなあ、この世の生物のシステムってのは不思議でよ、寿命が短ければ短いほど、学ぶ速度が速いってことだよ。そしてこのジムは、俺の師匠でもあるハチロク親分のさらにひいひいひいひい・・爺さん?よくわからないけど、この蚤すらもいつ死んだか分からないくらい遠い昔の、何千年も前に生きた猫に、命を救われて宿った霊や。意味が分かるか?」


「nen・・・?(年・・・?)」


「あー、時間という概念がそもそもこっちとちゃうか。まあええ。」


ものすごい速度で、学習する生物。


「蚤の寿命は、数週間から数か月や。分かるかいな、お前さんに。数日で大人の知能になるちゅーこっちゃ。そしてそれが霊になって、そのまま思考が生き延びたらどうなるか、想像してみい。格がちゃう。ワシとて遠く及ばん。」


カレンとサミノが戻ってきた。


「琵琶湖にいた霊達から話は聞いた。文明は滅び、また再生し、また滅び、また別の生物の文明が現れては破壊され、そうこの星で繰り返したと霊達から聞いた。彼らの思念は、ルミネス達への怨念の塊だった。いったいこの星の文明をどれだけ滅ぼしたの?」


「warera ni suuzi to yara no gainen ha nai ga,,,,,, (我らに数字とやらの概念は無いが、とらえた者たちの概念でいうなら、5度か。ここは我らにとってはエロヒム様が管理している、ただの畑だ。)」


「ふん、そうか。自分の種を長らえさせるために、この星の生物をなぁ。生きるために、ほかの生物を巻き込むしかない生き方。生物ちゅーもんはいつの世も弱肉強食、一緒じゃのう。ほんじゃやれ。ジム。永遠ともいえるほどに長い時の中で学んだお前の能力と力を、この種に叩きこめ。」


「へい。」


「そして、ルミネスさんら。知るがええわ。お前さんもカルマのなかで生きとるちゅーことを。世の中ん広さを。生命の尊さを。霊の力を。」


無数の蚤の霊達が、こちらもまたみるみる霧状になって現れる。


「せいれーーーーーつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

ひっとらええい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ジムの声なき声があたり一面の雰囲気を鋭くする。

霧の渦が一瞬にして新幹線と奴らどもと故障したUAPを覆いつくす。

霊なので、一瞬だった。物理的な干渉ではなく精神的な干渉だ。


「おい、リュウ。お前さんの家の施設と接続は出来とるか?」


「ええ。稼働してます。」


リュウの大豪邸の地下には、量子コンピューターのデータセンターが存在する。

ジムとほかの蚤の霊達の思考はそこで1つに結ばれている。行動の一つ一つが全てジムにハッキングされた量子コンピューターによって制御されており、憑依されたルミネスたちの思考や行動のデータが恐ろしい速度で流入する。


リュウの首輪が緑に点滅している。これは接続状況が正常であることを示している。

それを横目にしたタロが口ずさむ。


「ふん。点で分からんな。筋肉さえ鍛えればすべてが解決するというのに。だが面白い。一人では成し得ぬことがあることが、何か懐かしい。色んな思いが一つになって、まるで俺がヨカゼに靡いたように、家族を持った時のように、組織が一丸となって新たな感覚が芽生えてくるこの状況。悪くないもんだ。」


「よーやっと分かってきたかえ、タロさんよぉ(笑)また少し大人になったな!この脳筋がぁ!」


「ふん。口の減らねえジジイ猫が!」


みるみると、ジムの部隊が奴らを覆いつくす。


「佐吉さん、膨大な情報がなだれ込んできました。これをご覧ください。」


リュウの首輪の、緑に光る粒からビジョンが広がった。


「新宿の・・・ターゲットともつながっているようです・・・そんな奴らがこの日本、いや世界各国に点在しています。こりゃちょっと骨が折れますぜ・・・」


俺は、心底面倒くさい顔をしている。

ええ、めんどくさい・・・


「世界?って。はあ、しんど。広いねんで!世界って!はあ!!!めんどくさ!!!」


「佐吉さん。世界にとどまらないかもしれません。この星のように、そう、奴の言う『畑』がこの宇宙にいくつも点在しているようです・・・そして天の川銀河系だけでなく・・・」


「ぐああああ!知らんがな!この星の世話だけで精一杯っちゅーーに!!」


「damare katou seibutu. wareware ha kokoni iru dakedeha nai,,,,,,(黙れ下等生物。我々はここにいるだけではない。大いなる意思の赴くままに存在し・・・)」


ルミネスの声が途絶えた。

ジムの部隊が、そこの群衆をすべて丸のみしてすべての意思を消し去ったようだ。


「よし、終わったようだな。新宿へ向かうぞ。ずぉぉぉぉ・・・」


タロは大きく息を吸い込んだ。


「にゃあおああああああああああああああああああああああああ!!!うおにゃああああああああ!!!(子供たちい!!!!!!!!!!!!!!!!ヨカゼええええええええええ!!!!!!!!!!!!集まれえええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!)」


バカでかい声だ。

辺りがビリビリと振動している。


停電の真っ暗闇の中、新幹線から何とか逃げのびた人間たち、近隣の人間の家家から、何が起きたのかとざわついているのが分かる。

空を見るとヘリも続々とやってきた。ヨカゼ一家はそれよりも早く、タロの元に集まる。


「よしお前ら!点呼ぉ!!」


「にゃあああ・・・?」(ナソエ・・・ちゃんといるね。みんなも大丈・・・アレ?)


「にゃ・・・」(数が・・・)


「フ―・・・ ・・・?」(・・・?)


「・・・」


「にゃあ!・・・?」(アドカ姉、ちゃんと心配してくれてた。・・・あれ?タフエ姉は?)


ヨカゼが異変に気付き。慌てふためく。

タロが透かさず皆をいなす。


「続き!まずは点呼だ!」


「ぬぅぁ。・・・。」(は、腹がへった・・・それよりタフエ姉は・・・)


「ニャハ!(お父様!タフエ姉がおりませぬ!)」


「うう・・・まーたか・・・リュウが居るってのにうちの親は・・・でも、この点呼って本当は大事な意味があるのかな。」


ヨカゼの顔が心なしか、真っ青に変わっていくように見える。


「タフエ・・・?」


バッチがあたりの様子をうかがって戻ってきた。


「ここいらにはいやせんね、タフエちゃん。」


「おかしいよ。タフエは集合が掛かれば誰よりも真っ先にここに来るはずだ。あの足の速さなら何とか・・・死んではいないと思うけど・・・いつまで鬼ごっこするつもりだい・・・」


その時だ。


しゅばばばばば!


「はあ、はあ、ごめんみんな!」


「タフエ!!!!!!!!ゴツン!!」


頭すりすりが強すぎて、頭蓋を貫かんばかりの勢いでまるで頭突きをするヨカゼ。


「・・・何してたんだい!心配かけて!」


「あははは!痛ってて・・・ごめんね、母さん。琵琶湖の子達と遊んでたの。それでね、こっちの騒動が収まったことが分かって、みんな行き場を失ってて。だから、連れてきた。」


「え・・・?」


巨大な猿やら、恐竜人やら、すばしっこい鋭い羽根の蜂のような蝶のようなのやら、、

元々地球で文明を築いてきた、そして絶滅させられてきた霊達がタフエの背後に浮かび上がった。


「えへへ。仲良しになってね。今後は私について行くって聞かなくて。・・・というか、なんて言ってるか言葉は分からないけどそう言ってる気がする。」


「やっぱりゲフ。タフエ姉はすごいゲフ!」


「えっへへ。」


マジデブのハラデが、おデブちゃんで天真爛漫で超俊敏なタフエを頬ずりする。


「はあ、、、しかしね、あんまり心配かけるんじゃないよ!まったく。この子ったら。」


「はあい。ごめんなさい。」


「よおし、みんな揃ったな。人間たちが集まってくる前に新宿へ向かうぞ。」


「せやな。亡くなった人間たちには悪いがの。」


佐吉は心の中で、手を合わせた。

きっと間もなく葬られた後は空気となり何かの分子となり、悠久の時を結合したり分裂したり、彷徨って、彷徨って、何千年、何億年、何兆年先かは分からないがいつか幸せな命と結合することを、切に祈った。


「これも輪廻。前世のどこかで悪いことしてきた結果じゃろが、その魂はいつか報われるはずや。安らかに。」


一同はその場を、影のように後にした。

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