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SAKICHI  作者: ていきょー
18/18

#18 ルミネス

あっちとは打って変わってシンとしている、夜の琵琶湖沿いの通り、さざなみ街道に一番に現れる。


「あれは・・・憎悪に満ちているけど、恨みの先は1点に集中している。人間に危害を加えようとしている存在じゃないみたいだね、サミノ。」


カレンを一瞥して、頷くサミノ。


サミノは無口で一体何を考えているのか分からないがカレンはなぜか、サミノの仕草や目線、動きなどで気持ちを読み取っていて、もはや言葉は不要だった。本当に何故なのか、表情を変えないサミノを見ただけで、何故サミノのことが分かるのか、ヨカゼとタロ一家の他の誰もが、わけが分からなかった。


すぐそばの民家からはいい匂いがしていて、車も道を普通に走っている。

みな人間たちは琵琶湖の方にも新幹線の方にも気づいていない。そもそも、爆発が起きていない為に新幹線があんなことになってることすら、まだ事が起きて10分ほどしか経っていないので、メディアじゃ報道にもしていないだろう。


琵琶湖のあれは、霊だ。人には見える者と見えない者がいるらしいが・・・。


しかしあと数分もすればメディアの各社が大騒ぎになるだろう。

普通、新幹線があんな状態になるわけがない事態。超常現象だ。人もたくさん亡くなっている。

大勢の人間がこっちの方に集まってくるに違いない。

どうなるのだろう・・・


「あれ?彼氏がいない・・・!どこ?」


リュウの姿をうかがえないワミコがうろたえる。


「はあ、なんだい・・・。みんなこの戦々恐々に興味がありすぎて、収集つかないねぇ。どうしたもんか・・・。佐吉にゃ家族を守れって言われたが、なんせ好奇心じゃ誰にも負けないあたいの子達やもんなぁ・・・。ねえ、子供たち。兎に角死ぬんじゃないよ。怖くてあたしに着いてきたきゃ着いてきな。あっちの方に興味があるなら行ってもいいが、死ぬんじゃない。これは命令。死んだら呪うよ。何度生まれ変わってもね。わかるね、この言葉の意味を。湖のあの巨体らはどんなんか分からんけど、とにかく業を背負った輩に違いない。特に新幹線の傍には手に負えるか分からない怪物が佇んでるよ。」


「大丈夫。私がついてる。」


長女のアドカが真っすぐに母を見る。

すかさず普段は物静かな四女のナソエも声を上げる。


「アドカ姉が行くなら、足手まといにならないように、もしそんな状況になるなら一目散に逃げる。」


「本当に逃げるんだよ。何をしてでも。」


「えへへ。」


アドカが心配してることを悟り、デレるナソエ。表情にすぐ出てしまう。

ナソエは長女のアドカが大好きだ。


性格はサミノに似て、少々無口。そしてサミノと違って特殊な能力もなく、泣き虫だった。

軟弱で、ほかのオスやら人間から襲われ傷だらけで、血の固まった鉄のような匂いと、傷にハエのたかる惨めな子だった。


ーーーーー。


最近は、悪ガキ人間の小学生3人組のオモチャだ。特にひどかったのは、何があったのか、片目の下が大きく膨れ、その目は外斜視気味のガキ大将的な男の子。見つかれば、すぐに虐待されていた。


「臭えなこいつ!きんもっ!おえっ・・・!」


まだ小さいナソエは、石を投げつけられては、しかし、抵抗をすれば家族に迷惑がかかると、住処から離れながら何とかその日その日を過ごしていた。


しかしヨカゼはそれの虐待を、教育とした。


「この世は過酷だ。学んで、学んで、学んで、この世を知りな。そうしなければ生き抜けられない。」


と。怪我をしてズタボロになったナソエを一切甘やかさなかった。

まだ、生まれて2か月程度だった。


ナソエは六つ子の中で一番先に生れ落ちた五女。

アドカはその1年ほど前に、四つ子のうち最初に生まれ落ちた長女。

そんなナソエの傷を、アドカはヨカゼのスパルタの目が届かぬ陰で舐めて舐めて舐めて、愛情をこめて舐めて、慰めた。


「ナソエ。あんたは優しい子だね。どんな辛いことがあっても、私は一生、あんたの味方だよ。能力がないからって、生き方を教えてるからって、酷いよね、母さん。愛情の裏返しってやつなんだろうけど。でも恨んだりしちゃだめだよ。母さんはこの過酷な世を生きる(すべ)(すべ)を、あんたに教えたいんだ。私も厳しい訓練をうけてきた。そりゃもう、毎日血みどろで朽ち果てるほどにね。なんせ長女だったから、私は。昔の自分と重ねていたのかもしれない。」


ナソエは、右も左もわからず、一体何が起きているのかも分からぬまま、痛みに耐え、ただ一つ、家族への思いを大事にしてきた優しい子だった。


そんな家族と同じくらい、大切な存在ができた。

それがアドカ姉。アドカ姉が持ってきたイワシを頬張りながら、自分の存在意義はアドカの元にあるんだと悟った。こんなポンコツだけど、でも、アドカ姉にだけは幸せになってほしい。泣かせてはいけない。その為に、自分が泣いている場合ではない。もっと、強く成らなきゃ。母さんが何も言えないくらいに。


ある日の午後、また例の小学生が現れた。


「おい、また居るぞあの臭ぇ猫。」


傷も癒えかけていて、その傷跡を見てアドカ姉のことを思い出したそんな時、この小学生3人組が目に入ってこんな思いがよぎった。


『この子たちも、わたしのように何か孤独なのかな。きっとそうや。だって、そうじゃなきゃこんなことせーへん。きっと何かに苛立っているに違いない。いったいそれは、何だろう。』


石を投げつけられる中、ゆっくりと小学生たちに近づく。


「・・・にゃあ」


その声は、非常にか細かった。

しかし力強かった。


「な、なんだよ・・・」


額に小石が当たっても、その小さな足は立ち止まらなかった。

ナソエの目はまるで、女神のような輝きを呈していた。

しかし、震えていた。


「にゃあ!」

(何か、あったの?!)


「にゃぁ・・・にゃあ!」

(どうして・・・石を投げるの?)


勇気を振り絞って口にする。

それを見て、小学生の一人が口にする。


「な、なあユウヤ、もう辞めね・・・?」


ブルブルが止まらない。でも辞めない。辞めたらすべてが終わる気がしたから。


「にゃあ!にゃあ!」

(私は、貴方たちと仲良くしたい!)


3人は何処かへ行ってしまった。


その翌日は雨だった。

神社の縁の下の柱を支える石の淵で寝ていたら、昼間からずっと変わらなかった雨音に人の足跡がして、耳がぴくッと動いて目が覚めた。あのガキ大将がこちらを見ていた。今日は連れ一人と、二人だ。


雨が降っていようと関係なかった。

しかしふと、鋭い速さで飛んでくる石つぶてを思い出しては、また震えた。

しかし立ち上がってガキ大将に近づく。


一緒にいた弟の次男であるマシンと、三男のラレンが、声をかける。


「俺ならひねりつぶせるけど、どうする?」


「・・・ほほぅ。こうするとイシツブテが強烈に飛ぶわけだ。試してもいいか?」


「だめ。そこに居て。」


二人を横目に、すたすたと小学生の方へ歩きだす。


「にゃあ・・・!」


ヨカゼ家族の中でも口数が少ないほうのナソエが精いっぱいの声を上げる。

ガキ大将は俯いて、30秒くらい黙って、顔がゆがんで、「おい、いくぞ」とまたどこかへ行ってしまった。


「あの子たちもきっと、何かを抱えている。」


さらに翌日はキリッとした冷たい風が時折吹く、空と斑な雲が半々の日だった。

紅葉がザーッと音を立てて、姿を見せたガキ大将と目が合って、立ち上がるとガキ大将は去ってゆく。

その日から、弟二人、マシンとラレンはナソエの傍から離れず、何かを学ぼうとするようになった。


そんな日が何日か続いた。

ある時、今度はそのガキ大将と仲間の二人が大喧嘩をしたようなボロボロの姿で現れた。

立ち上がってこちらに向かってくるナソエの姿を見つめる少年達は、しとしとと泣き出した。


『こいつは、俺と同じだ。』


その気持ちを悟ったナソエは、まだ震えながらゆっくりとそいつに近寄っては、そのガキ大将の足に、愛情を込めた頬ずりをした。


「なんでだよ・・・なんで・・・」


その小学生は崩れて、傷跡だらけのナソエを抱きしめた。


「なんでこんな俺を?なんで恨まないんだ?俺は母さんのこと恨んでたけど、なんで猫のお前が俺よりも、母さんよりもやさしくて、大人な行動するんだよぉ・・・!!うあーーん・・・!!」


一緒にいた小学生たちも泣き出した。


「僕ももう、塾なんて行きたくない!なんで医者になんてならなきゃいけないんだよぉ・・・!うえええーん・・・!毎日、一緒に食事もしてもらえず、部屋に閉じ込められて。なんなんだよぉぉぉぉおお・・・!」


「俺なんて貧乏すぎて、風呂もまともに入れねえよ・・・。節約節約って・・・。少しでも金持ちの雄太にすがらないと、まともに飯すら食えねえよ。だって・・・!小学生は働けないだろ!でもせめて、自分の食いぶちだけでも減らさなきゃって、知り合いのばーちゃんにお菓子せがんでたけど、亡くなっちまってさあ・・・」


これらの結果はすべて、長女のアドカがこう教えてくれたからだ。


「ナソエ、人も猫も一緒なの。何かをつらい過去を抱えて生を受ける。これはね、ないしょだけど、私の守護霊が教えてくれたこと。この世はね、広いようでちっぽけ。でも裏では生命の流れは過去・現在・未来とすべてつながっていて、原因さえ紡げはすべてが変わる。そう教えてくれたんだ。お母さんも、それを言いたいんだと思う。」


「わかった?マシン、ラレン。おそらく危険と言われているやばい奴も、本当はそうしたくてそうしているのではなくて、過去に何かあったからなんだと思う。」


ーーーーー。


まだそうはなれていない新幹線で何かがうごめいている。


「hmm… kono tanpakugen ha bimida. ryoushitu ni sodatte iru. 3dome tomo naruto...」


言葉にならないその思念が周囲を異様な空気にしてギラギラと放たれる。


「kaishuu suru ni husawa shii. ano okatani kenjou shiyou...」


「おい、ちょっとまてや。おら。姿を見せぇ。何を言うとんねやこいつ。言いたいことはなんとなく分かるが・・・なあ、バッチ。猫語に通訳できるかあ?」


「任せてくだせえ!佐吉兄ぃ!ええとまず、すぅぅぅ・・・(姿を見せぇ!ボンクラあ!)」


一度新幹線の周囲に霧となって、纏わりついた形になった。


「ware ni sashizu suruno ha omaera ka?(我に指図するのは、おまえらか?)」


「ああ、せや。何してる?おまえさんは。誰や!旅の途中やちゅーのに!」


「omae ni rikai dekiru hazumo nai.(お前に理解できるはずもない。)

omaera katou syuzoku ga shiite mo imiga nai.(お前ら下等種族が知っても意味がない。)

tadano kachiku ni suginu mono ni.(ただの家畜にすぎぬ者に。)

omaera ga katudou dekiru nomo ato sukoshi no aida dake da.(お前らが活動できるのもあと少しの間だけだ。)」


「ほほぉ。通訳あっても何を言ってるのかさっぱりだが、そう簡単にいくかねぇ。ほんで、どこから来たんや?」


「doko? zahyou wo ninshiki dekirunoka?(どこ?座標の事か?) 

chisei ga hattatsu shite irutoha na...(ここまで知性が発達しているとはな…)」


「場所言えいうてんねん阿呆が。あの琵琶湖から近づいてくる奴らは皆、お前らの手下か?」


「…? naniwo itte irunda? ano mizu tamari ga douka sita noka?(何を言ってるんだ?あの水たまりがどうかしたのか?)」


「? む?お前たちには見えていないのか。あの有象無象たちが。」


「naniwo wakeno wakaranu kotowo...(何をわけのわからぬことを・・・)」

sakini nikuhen ni shite yaru.(肉片にしてやる)」


新幹線から蒸気ように霧が舞って、佐吉の前に集約した。

それも・・・蚤のようにわずかなサイズでかろうじて見える程度だ。


「はあ?!お前は何や!光る蚤か?!」


父親そっくりの次男のマシンはあの時の事を思い出しながら、頭上の()()を眺めた。

普通の人間には見えないだろう()()


「かーちゃん、見えてるか?」


「ああ、新幹線のアイツがぎゅうぎゅうに詰まってるようね。おそらく厄介だよ。私の霊たちが囁いてる。ルミネスだとさ。この地球の者達じゃない。」


やっと報道らしきヘリがやってきた。だが、架線は切れて、新幹線の状態は暗くて何も見えないだろう。しかし生き残った誰かが携帯でこの有様をアップしたのだろう。たかだか15分程度で、人間たちの好奇心とこの行動力は称賛に値する。ただ・・・


「ああ!ヘリがきたおおおおい!!!たすけてくれーーー!!!」


スマホにライトを焚いて、振り回す。


どっかーーん!!


「え・・・嘘だろ・・・?」


ヘリは脆くも、空中から湧く一瞬の光の線によってオレンジ色に爆ぜた。


ウウゥゥーーーーー・・・

カンカンカン・・・!


「doushite konnanimo hayaku kono kachiku domo no nakama ga atsumatte kita noda?(どうしてこんなにも早くこの家畜どもの仲間が集まってきたのだ?)

hmm… masaka denryoku wo kiyouni atsukatte irunoka...(フム…まさか電力を器用に扱っているのか?)」


その瞬間、空に浮いたアレが謎の波長を出して、辺り一帯の電力が失われ、闇と化した。

多くの車両たちも光を失った。


「もう遅いぞ。世界に知れ渡っている。」


「yatsu no zyouhou to chigau na...(奴の情報と違うな。)

wazuka %&'$+#!"* hodo mae niha onazi shu doushi ga arasou teido no chinou shika nakattahazu.(僅かxxx程前には同じ種同士が争う程度の知能しかなかったはず。)」


「そりゃ誤算だったな。お前さんらの時の流れの速さは知らんが、人間はその血塗られた歴史の上に、人のあるべきを学び、人成らざる者も学び、生き物以外の目の前に広がるあらゆるものを学び、応用し、高度な技術を器用にも発展させたんだ。ここ数100年でな。ふん。100年と言っても分からんか。」


次々と、新たな救急車と消防車、警察、ヘリの物凄い数の赤いピカピカが群がってくる。


バババババババーーーーーン!!!!


「きゃあああああ!!!」


空中から無数の糸のような光線が救急車や消防車に刺さって、消防なのに、皮肉にも炎を上げた。


「やめえ!無駄やで?まだまだ来る。」


「muuu...naraba…(ムウウ・・・ならば・・・)」


「ふううう・・ せいやああ!!!!!」


・・・・ずっばあああああああああああああああああん!!!!!


物凄い轟音と光と衝撃波があたりの草木をたなびかせた。

狙うは誰も居ない田畑の上に半壊した、虹色に輝く()()の実態があらわになった。

カカシは吹き飛び、助けを求める人々だけでなく、ヨカゼ家族も突然の事でびっくりした。


「ああ、やっちまったなぁタロ・・・おい、なんでも壊しゃええってもんや無いでホンマ・・・」


「ふんっ、透明になろうとも、この鉄拳の前じゃ所詮はオモチャ同然だ。何者か知らんが、正々堂々と戦え!虫けらどもが!」


「gyaaaaaaa! naniga okotta!?」

「nanigoto da! hayaku shuuhuku da!」

「guaaa! tasukete! lumines samaaaaa!」


蚤どもが音ではない、言葉にならない思念のような波長で、悲鳴を上げているのが分かった。


「na...nanto iu kotoda...」


「お前、ルミネスちゅーんか?ツイて無かったのう。人間ならまだしも、この猫様方を舐めとったなあ。ワイらは通常見えんものもみえよんのよ。透明にしとるのも、温度を周りと同じにしとったり、音を消そうとしとったり、なんやねん。全部こっちにゃ丸見えやわい!」


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