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SAKICHI  作者: ていきょー
17/18

#17 ゲンジツ

新幹線の上の各車両にいくつかある小さなくぼみに、何車両かに分かれてワシとヨカゼ一家が蹲っている。

ここから数時間、ポカポカと温かく快適な移動をする。


奴は歌舞伎町というところに居ると、あの事務所で確かに聞いた。

ハチロク親分を葬ったアイツが。警棒使いの禍々しいアイツが。


身の毛もよだつあの血走った目と、人とは思えないあの動き。

今でも忘れない。あいつと一瞬だけ目が合った。落ち着きながら、しかし怒りに満ちていたからその時はほとんど気づかなかったが、おおよそ人とは思えない、思えば冷酷な目と憎悪が詰まったあの無の表情だった。

あの時、既に俺はハチロク親分から学び取った幽世の世界を知った俺は、まだ半猫前だった。そう、ほんのわずかだけ見て知った新たな世界に舞い上がり、天狗になっていたのだ。何が「・・・一閃!」だ。

一瞬でぶちのめされた。まだ若かったワシはこの世のことを理解していなかったのだろう。

苦悩に満ち満ちたあの顔。あんな奴は前世でも見たことがない。


「違います。それは前世ではありません。貴方はまだ、知らなかったの。」


「ゆいはん?なにいうとんの?」


「その記憶が前世かどうかって、どうやって分かるのです?過去とは限りません。その記憶は過去の記憶なのか、はたまた予知なのか。そう、未来かもしれへん。貴方のそれは過去の記憶?本当に?ハチロク親分が言っていたことをよく思い出して。あの時、言っていたでしょう?私をあなた達に紹介するときに。」


「ワシに、予知能力があるっちゅーんかい?この老いぼれに。」


「老いぼれ?それは肉体の事?何を歳をとった気でいるの?あなたの主体は肉体ではありません。あなたはまだ幼い。時間というものを理解していない。ゆっくりと、思い出して、考えて。時間は、縦の糸よ。それを、横の糸で交互に絡める。その横の糸こそ時間なのだけど、縦の糸はまだ横の糸が詰まっていない純真無垢、無数に広がる似たような多くの世・・・」


「結や。おやめ。それ以上は理に反する。」


中将姫が割って入る。


「その話は、この佐吉にはまだ早い。」


神の言うことは今一ぴんとこねーや。


「時間は巻き戻せない。もちろん、その想像も、ね。」


「ははあ、じゃあこの記憶は予知だってことかいな。ほんなら、この経験や、そこから培われた考え方は何や言うねん。」


「それは・・・与えられた試練みたいなものね。私ではない、とある存在の・・・ごめんなさい、これ以上は言えないの。ゆっくり理解していって。そのうち、理解できる時が来る。その存在もちゃんと見ているから。ほら、おいでなすったわよ。しっかり生きて。」


がっしゃーーーーーーーーーん!!!


新幹線が前の車両から、まるで捻じれハチマキのように、捻じれる。


「う、うううわあああああ!!!!」


同じ車両の上にいる、一緒に来たリュウがうろたえる。


夜を貫くようなメキメキという物凄い怒号が前から後ろへ轟き響く。


激しい回転で宙を舞った俺たちの目には、琵琶湖が見えた。

高架下に着地した猫たち。

京都と名古屋の間にある、そこはきっとのどかな、場所。彦根あたりか。

夜の19:00。ところどころに街灯があるが、暗い。少し雨も降っているが、俺とヨカゼは夜目が効く為関係がない。しかしカレンやヨカゼの霊体もパニックで動き回っていて多少邪魔なくらい。


俺たちの世界は、夜でも全体的に白くて、明るい。

そこに濁った霧のような空気が新幹線をねじっていた。


「お出ましか?こいつかえ、佐吉。」


ヨカゼが着地をする俺のすぐ横に着地していた。


「うーん、わがらん。なんやろな、この白いのは。」


ピタッと車両が上やら下やら向いた状態で、やっと静止したとおもったら、轟音の代わりに高架上から、割れた窓の内から人間たちの断末魔が聞こえてくる。


「キャー!いやあああ!」


「キャー!キャー!」


「ぐあああ!いでええええ!」


「おがあさーん!おがあさーーーん!!!


「いたいー!助けてー!あああああ」


「うわああ・・・!うでがあああ!!!」


「ばあちゃん!ばあちゃん!」


「だれかあああ!!」


架線はちぎれ、真っ暗になった新幹線に閉じ込められた、生き残った人間たちが叫んでいる。


「おーい、タロ!人間たちを助けてやんな!見てらんないよ⋯」


「ふんっ だから新幹線などという乗り物に乗らずに走って行こうと言ったんだ。軟弱な乗り物め。」


ムキムキムキ・・・

タロの異常に発達した筋肉が固く膨らんだと思ったら、パンッ!と土の音がしたと思ったら、目の前から消えあっという間にあの高い架線の上によじこぼって、まだ割れてない窓をパリンパリンと次々に割っていった。


これは現実か?夢だ。夢に違いない。


そう思っている人間は数知れない。

無情にも快晴で、満月が明るく、星はきれいに瞬く。しかしすぐに鉄のような血なまぐさい臭いが、割れてゆく窓と共に充満し、これが現実であることを知らしめてゆく。


すぱーーーーん!⋯

すぱーーーーーん!⋯


二重の窓。しかもタロ程の小さい窓かち割る音は普通の以上にうるさい。普通じゃない剛速剛腕のダイヤのような肉球で、とんでもない猫パンチが夜の静けさを破る。


「うっうわ!なんだ?!」


「ごろにゃあ。」(フンッ。軟弱どもめ。)


「ん?猫????何故か、窓が、割れたぞ!」


一通りの窓を割り終わった頃、タロは高架下に降り立った。


やっと5分後、外に出てきた車掌が後ろの車両から出て前の方へ走って、大声で乗客に向かって声を上げる。


「乗客の皆さま!幸いにも窓が割れています!ゆっくりと押し合わず外に退避してください!おちついて退避してください!」


「みんな!外に出れる人は順番に出て!」


血だらけの女性が大声を上げて、救助活動を必死に行っている。


「助け合ってください!この電車は危険です!」


「よーし、かわいい子たち!おいで!あたいらの一家はまあ、やわな育て方してないから、当然無事だろうけど念のため。点呼!」


「にゃあああ」(ナソエは大丈夫かな・・・)


「にゃ。」(ふんっ。変な空気ね。まるであの時の様。)


「フ―・・・」(・・・)


「ごろにゃんっ」


「にゃー!!」(アドカ姉!!大丈夫!)


「ぬふぅぁ。ゲフッ」(カレン姉は何をキョロキョロと、何を探してるんだ?しかし死臭が酷い・・・)


「ごろにゃぁ」(アドカ姉無事ですか。おのれ何奴・・・ムキムキムキムキ)


「にゃーあ。」


「ニャニャッハ!母様も無事ですかっ!」


「だから、なんでいちいち点呼なんてすんの?みりゃわかんじゃん?カレピも居るのに恥ずかしいっつの。おなかすいたよー」


ヨカゼはふうっ、と一息ついた。


「よしっ・・・ちゃんと9匹無事だね。だけど、戦いはここからだ。あんたたちはあの線路を跨いで向こうに見えるあの森に逃げな。全速力で。」


ヨカゼたちが今無事なのはいいが・・・


「おいヨカゼ。気づいとるか?」


「ああ、ビリビリと、あの琵琶湖の方から無数の霊が来てるね。あの霧はなんだろうね。。。」


「おまえの子供たちはお前が守らなあかん。そっちに専念せえよ。ちゃんと安全なとこへ。」


「ふんっ かっこいいじゃないか。恩を売ろうってのかい?そりゃ必ず返すけど、あんたたちだけで手に負えるかしら?まあいいよ。ツケといて。」


闇に溶けるように消えるヨカゼ。

真っすぐと琵琶湖の方を見つめる俺とバッチとリュウと、颯爽とこちらに着くタロ。

次女のカレンと、三女で無口なサミノは、母ヨカゼが「ついてきな!」と前を向いた瞬間に、母のそれに従わずに互いに目を合わせて、影に消えた。


っっぱーーーん!!!


「ほほう。筋肉がうずく。何かあっちにいるんだな。」


車両の一通りの窓を割って、こちらへ来たタロの膨らんだ筋肉がまるで鋼鉄のように固くなって、電信柱を一本を吹っ飛ばした。


「おいおい、興奮すんなや。人間はんらが困んでしかし。ほんで、地平線から近づいてきたあいつらは普通の霊とちゃうな。見覚えのない形した生き物もおる。でけえのもおるな・・・赤い目。奴はたしか、俺の記憶によると、地底人だったような。温厚なあいつらが、どうして亡霊になってしもーたんやろな・・・」


彼らは6千年も前にこの地球に潜り込んだキングコングの10倍ものデカさの猿星人。


「誰にあやつられとんねやろ。アイツは。」


新幹線から退避してきた人間たちが、まるで近寄って来るかのような振動と足音に、慌てふためく。


「今度は何だって言うんだよ・・・こんな新幹線がひしゃげるような奇怪な事件があった直後に・・・」


「・・・にゃんっ。にゃ。」


さっ!!


ヨカゼについていく間際に何かを感じ、まるで稲妻のように素早く、いや、それよりも素早く、楓のマブの、四女のタフエが琵琶湖の地平線の方へ見えない速度で消えていった。


「ねえ、そこに誰かいるの?私はタフエ。私には見えないけど、うちら姉弟の中では一番人懐っこいんって言われるの。」


「ちょ、ちょっとタフエ・・・?!」


ずどーんっ・・・!!!


たふえは何かを感じたらしく吸い込まれるように、その霊の集団に話しかける。


「あははっ!遊びたいのー?いいよ。鬼ごっこね。姿は見えないけど気配は感じるからダイジョブ。つかまえてごらん!あっはっは!」


"kono hoshi niha kawatta nouryoku wo motsu ikimono ga iru"


「タフエはあっちに行ったゲフが、あいつ等は宇宙人だよ。お母さん。」


「宇宙?なーに訳の分からない事いってるんだい、ハラデ。」


「ぼくは知ってるんだ。はあはあ。ああ、暑い。ぼくは前世の記憶があるゲフ。多分、タフエ姉さんは速さに自信があるゲフから、鬼ごっこしてるんだと思う。でも、ぼくは助けに行った方がいいと思うんだ。カレン姉さんも消えちゃって気がかりだし、ぼくも琵琶湖の方に行ってみるゲフゥゥ」



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