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SAKICHI  作者: ていきょー
14/18

#14 カノレマ

その男が空に殺されたのは、因果応報。

過去世できっと悪さをした故の出来事。

俺はそう確信していた。


自分を貫くことほど、大切なことは無い。

たとえ法律的に罪を犯したとしても、貫く。正しいと思った道を歩むべし。


これはハチロク親分の教えだ。

さすれば霊体も生身の仲間もいつか、ついてくるっちゅーもんや。

それが、この猫生で学んだ唯一のバイブルだ。


諦めるな。自分の歩んできた道を曲げるな。筋を通せ。


本当にそれだけで、希望に満ち満ちた人生を歩める。

そしてその信念は誰が何と言おうと覆ることは無い。誰かに何をされたとて。

どんなにダサくてもいい。人から何と思われようと、気にするこたぁ無い。

これを、多くの若もんに言いたい。


どんなに経済的に裕福だろうと、どんなに貧乏で、辛い日々でも、守り通すもんだけ

守っていけばええんや。どっちも幸せの量は変わらない。たとえ

一生がゴキブリだろうとフクロウだろうと、それなりに幸せもあれば辛いこともあるんや。

なあ、分かったか?リュウよ。


根性みせてくれや。俺はそれだけでうれしいよ。

俺は最近いつもそんなことを考えている。

ダメだったらそん時は俺の出番だ。いつでも相談のんで。

お前の歩む道、それが誰かにとって良しも悪しきもや。


リュウは、たった数分だったが、その佐吉親分の熱い気持ちを感じた。

本当に、この大先輩猫に出会えてよかった。精進します。

梅婆を見ながら、そう思った。


「ねえリュウ。何梅婆に見とれてんの?」


ヨカゼさんの末っ子、ワミコが俺のことを終始見つめていた。


「わっ!やめろって。びっくりするだろ、急に話しかけてくんな!」


「ケラケラケラ!ほんとリュウっておもしろいね!」


小ばかにするワミコ。でも憎めない。こいつは心根は優しい女の子だ。

めんどくさがりだけど。


「とりあえずー、四の五の言わないで、ついてきて。センシティブなリュウくん。見せたいものがあんのー。」


何だ?こいつは。何を見せたいって言うんだろう。


「何をそんなめんどそうなしんどそうな顔してんの?早く、行くよっ!」


俺は河原のはらっぱへ連れていかれて、そこにはワミコの父がいた。


「なんだこのひょろひょろは。真っ白じゃねーか。何食って生きてんだ?おまえは。白いもんばっか食ってんのか。」


脳筋すぎるだろこのじじぃ。うるせぇな。と思うワミコ。


「これ、あたしの彼氏。紹介したくて。リュウって言うの。純白の、リュウ。」


え゛っ?

いつから?俺が彼氏?ってことはワミコが彼女ってこと?えっ?

俺はなんも言ってないんだが・・・


「父ちゃん。私、この猫と結婚します。何が何でも。そして黒縁とかシマシマとか、とにかく白黒の元気な子を産もうと思いますよろしく。」


何だこいつは本当に。


「おいリュウとやら。ササミ食うか?男っちゅーもんは、もやしじゃいけねえ。お前を鍛えてやろう。とりあえずこの河原を20キロ走ってこい。そうじゃなきゃこいつはやれん。」


うっわーマジか。

しかしなんとなく、この人は割と筋が通っている気がする。


「へい。ちょっくら自分の根性叩き直してきやす。」


「ちょ!あたいらのデートの時間をじゃますんなよ、とーちゃん!」


「デート?なんだそれは。知らぬ言葉だ。」


はあ、とため息をつくワミコ。女心がわかってねーな、いや、女も男を分かってないし、自分とそれ以外としか思ってないんだった。ごめん、そういう猫だったと、3歳児にして、呆れた顔をする。


「はあ、はあ、なんでずっと全速力なのー!はあはあ・・・まってよー!りゅううううううう!!!」


リュウはまるで白い、風に乗った雲のように止まらぬ速さで走り続ける。


「ふんっ。別に無理してついてくることは無いぞ!俺は今、何もかもを忘れて走りたい気分なんだ。」


はああああ???!!!!とぶち切れるワミコ。


「あんた・・・今日、デートの日、あんだけ毎日、はあはあ、約束したのに、はあ、ああ、もう忘れたわけ?あたしのお母さんから目を盗んで、リュウが行きつけの夕方の行きつけのラーメン屋さんに通って、毎日雨の日も風の日も行ってやっと約束したのに・・・?オスって何なの?意味わから・・・はあ、はあ、はあ、ああ、あれ、無理・・・・」


ワミコは一生分のエネルギーを使い切ったかのように、その場に力弱く横たわった。


リュウはそこから100M先まで全力疾走してしまったが、Uターンでまた全力疾走で戻ってきた。

あの、とめどないおしゃべり、止まるなんて言う不自然は、滅滅、滅っ多に無い。すぐに戻ったリュウが心配そうに声をかける。


「無理すんなって・・・なんで俺なんかを・・・」


ペロッと頬を舐める。


土手の道の上だったので、川と逆の方の、柔らかそうな草むらの布団の上へ、首根っこ加えて持って行った。


ドキドキ


「ったく。あんだけ無理すんなって言ったのに。俺はな!メスとデートなんかより、男を通してーんだよ。」


キリッと、エジプト座りする。


「でも、ごめん。」


ドキドキ

独り言言ってる・・・


「お前が一生懸命だったってことは伝わった。なのに、無視するような仕草して・・・ごめん。」


乾いた風を


・・・

しばらく、片割れはすぐ後ろで寝たふり、もう片割れはエジプト座りの状態で、乾いた風を心地よく浴びる。


「今はメスだの恋だの、そんな難しいこと、できねーんだ。こんな身も心も未熟なもんでよ。だから、少しでも早く、まず甘ったれた自分を叩き直して―んだ。」


ああ、ドキドキドキドキする。なんてカッコいいんだろう。『  好 き  』


「俺はさ、前世のことを覚えててさ。」


ん・・・?何の話だろう。


「古代ローマの時代に生きていたんだけど、未熟でさ。この世界の俺とあまり変わりはない。未熟で未熟で、もっとこの世界のことをしって、学ばないとって、必死なんだ。」


ろーま?ってなんだろう。ぜんせ?

若干3歳のワミコはよくわからなかった。


「血で血を洗う時代だった。でも、一人の女性を幸せにしようとずっとそれを胸に戦ったんだ。なりふり構わず、その女性の為だけに、わがままに、生きた。」


何だろう、この感覚は。少し背中の毛が逆立った気がする。


「でもね、その心底愛する女性は、俺の姿を見るや否や、静かに泣いたんだ。そして飛びついてきて、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして?って、どうしてそんなに自分を傷つけるの?って。生きていてくれれば、それでいいのにって。」


「それで、どうしたの?」


気づいたら私は泣いていた。何故だろう?自分で自分が分からない。


「・・・俺は、知らなかったんだ。人が、自分ほどに思考を回して同じくらい考えて、思って、悩んでいることをな。自分が一番考えていると、思いあがってたんだとおもう。だから、その声を聴かされて、また新たな未熟さを感じて、声を上げて泣いた。こんなに優しい女性を、何故放って仕事に明け暮れてしまったんだろうって。」


思い出した。この猫の前世を。この人の事を。覚えている。

どうして、どうして、どうして、ってこの世の全てに聞かせる様に、脳が爆発するくらい泣いて、叫んだことを。


私はやっぱり、この人のことを好きなんだ。運命なんだ。


「さっきさ、佐吉の親分に聞いたんだ。曲げるなって。この世界は仮想世界で、ちゃんとこの上にいる存在は、お前の物語を見てるんだって。そんな存在の度肝を抜くような、喜怒哀楽を掻き立てるような、激動の猫生を歩めって。だから、今は、もっと自分の世界を広げなきゃいけないんだ。周りの誰かを、どん底のような不幸にしないために。」


リュウはその場を去って、走り出した。

私はその場で横たわったまま、泣いていた。

またなの?と。

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