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オタク少女、夏のころの話

作者: 人参大根

 「ねー、一口ちょーだい」

友達の沙也加はおもむろに私のお弁当箱にお箸を向け、今日のメインディッシュというに相応しいであろう輝きを見せる、一際大きいサイズの唐揚げをとっていった。


 「ちょっとー!なんで一番いいやつを!?」

 「守りが甘いんだよ」

私、立花香織は激怒した。必ずかの邪知暴虐のオタクを除かねばならぬと決意した。そして私は彼女のお弁当箱のそばにあるデザートであろうプリンをかっさらった。

 「あぁ!!私のプリン!」

 「とっていいのは取られる覚悟のある奴だけだ!!」

プリンをとることができたことがうれしかったからか、思ったよりも大きな声が出てしまい、教室にいるクラスメイト達が私たちをみた。あーあー、こんなんだから友達ができねーんだよな。そう思っているのを察したのか沙也加が、

 「ギアスの力は人を孤独にするぜ(笑)」

なんて言ってきたので、プリンをできるだけ美味しそうに食べてやった。沙也加は悲しい表情を浮かべながら話題を変えた。


 「そういえばさ、最近学校でアニメのキーホルダーとかだけが盗まれるって事件が何件かあったんだっ                                        

  って。こわいよねー」

 「知ってるよ。朝のホームルームで先生が言ってたやつでしょ。私だって朝のホームルームいたんだか

  ら(笑)」

 「あーそっか(笑)」

幼稚園からの親友にいなかったことにされている。悲しい…。

 「気を付けないとねー。私たちカバンにくっつけてるやつも取られるかもだし。」

 「だねー」

返事をしながら自分のカバンにある少し大きめのキーホルダーをみた。

そんな話をしているうちにチャイムは無情にも明るい音を鳴らして、楽しい時間の終わりを告げた。

  

 放課後帰ろうと手を伸ばすと私のカバンについていたキーホルダーがなくなっていた。周辺を探してもない。割と大きいサイズなものがなくなり困惑していると。

 「どーしたの?」

 「なくなった…。」

 「何が?」

 「私のアクキー。」

 「えー!?先生が言ってたやつじゃん!」

 あぁ、気をつけなきゃねーなんて言ってたのがフラグだったのか…。

 「とりあえず、先生に報告しにいこっ!」

 

 職員室に行くとすぐに沙也加が

 「せんせー!かおりんのキーホルダーなくなった!」

 「あー、またですか。分かりました。先生達のほうでも探すから、あなたたちももう一度自分の荷物

  確認してね」

 「分かりました。」

 

 家に帰って今一度探してみるもののない。なにものはない。今あるものは何だというように割り切れればいいが、そうもいかずあきらめきれない。

 よし、久しぶりに頭を使おう。キーホルダーがなくなったのはいつだろう。昼休み沙也加と話したときはあった。その後にカバンから離れたタイミングは5時間目の後だ。沙也加と、お手洗いに行ったタイミング。ここで、盗まれたと考えていいだろう。

 頭を使おうといった割に、ほとんど使ってはないが一応隣の席の佐藤君に明日聞こうと決意した。

 

 「ねぇ、佐藤君昨日さ、五時間目の後の休み時間に私の机の近くを通った人っていた?」 

 早速私は次の日の朝、佐藤君が来るや否や昨日思いついた質問をした。

 「き、きのうですか?その時間は席で本を読んでいましたが、いやぁあんまり記憶にはないですね。」

 「そっかー」

 「は、はい。不審な人がいたらさすがに記憶にあると思うし…。」

 

 うーん。まぁ、覚えてるだろうとは正直おもっていなかったよね。私も昨日佐藤君の机の周り事情はまったくもって覚えていないし。どうしようかなぁ。

 「かおりんー。おはよー。キーホルダーどう?」

 「ん-ない。」

 「私ね思ったんだ、かおりんがカバンから離れたのは五時間目のあとだけだよね?私とトイレに行った

  とき。きっとそのときに盗まれたんだと思うの。」

 「うん、そう思ってさっき佐藤君に聞いてみたんだその時の話。けど、覚えてないって。」

 「あーね、でもでもかおりんの机の近くを通らなかった人が一人もいなかったわけではないでしょ?」

 確かに。キーホルダーも取ろうと思えば十秒もかからないだろう。

 「そこでね、思ったんだ。机の近くにいてもあんまり怪しまれない人なんじゃないかって。通った人

  がそこにいても不審に思わない人なんじゃないかって。」

 「ん?」

 「だから、佐藤君なんじゃないかって」

んー、わかんないな。

 「佐藤君が盗む理由は?」

 「そりゃ、もちろんかおりんの気を引くために決まってるじゃん。」

なんでだよ。

 「かおりん、かわいいもんねー。ちょっかいかけたくなるにきまってる。」

 「私がかわいいのは否定しないけど、そんな子供みたいなことするかなー」

 「私たちだって子供でしょう?まだまだ小学生ですよ。」


予鈴が鳴り、沙也加が自分の席に戻った後に

 「佐藤君私のキーホルダーとった?」

やはり、私は率直に問う。佐藤君は一瞬ぎょっとした顔をしたが、すぐに観念した顔になって

 「うん、そうです…。」

 「私以外のものも?」

 「いや、それは違います。ぼくがやったのは君のだけ。」

 「模倣犯だったってこと?」

 「うん」

そういうと、カバンの中からジップロックの袋に丁寧に入れられた私のキーホルダーを取り出し、申し訳なさそうに渡してきた。

 「どうして、とったの?」

 「立花さんがかわいかったからです。」

おいおい、恥ずかしいじゃねーかよ。純情な小学生の恥ずかしさを隠し切れない頬の紅潮は、目の保養になるなぁ。まぁ私も小学生だけれど…。

 「立花さんのいろんな表情を見てみたかった。ただそれだけです…。」

うん、将来有望な気持ち悪さだなぁ。

 「あーそっかー…」

チャイムの明るい音が鳴った。本鈴だ。初めてチャイムの音に心の底から感謝した。

 

 昼休みになり、沙也加に事の顛末を伝えると。

 「かわいいって、罪だねぇ。人を狂わせるんだね!」

と明るく言われ、なんだかなぁ。


 結局、連続キーホルダー窃盗事件も解決してないし、気持ち悪さだけが残る、小学生夏の頃のお話。


 

 


 

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