逢魔が時の女学生
「ねぇ、逢魔が時って、知ってる?」
学校帰りの川沿いの道。スカートをふわりと回し、こちらを振り向く友達。
「あー。ちょうど、今みたいな?」
自転車を押しながら、私は答える。
薄闇に浮かぶ、奇怪な入道雲。夕日の朱色は、迫る夜を押し止めている。・・・・・・ようにも見えた。
「こういう時って、なんか出そーじゃない?」
などという友達の、オバケのポーズが微笑ましい。
「よしなよ。そーいうの。言うと『出る』って、言うよ?」
信じてもいない迷信。二人でクスクスと笑う。
『おーい』
対岸で、誰かを呼ぶ、誰かの声。
そちらを見る。
私たちと同じように、先を歩く誰かが、自転車を持って立ち止まる誰かを、呼んでいた。
少しのシンパシー。
彼女たちも、オバケの話をするかもしれない。そんな予感。
すると、友達が口元に手を当て、私に内緒話をしてきた。
「見て見て。あの人とか、怪しくない?」
「それは流石にやめなー?」
友達のやり過ぎな悪ノリに、呆れて注意する。
私たちを挟んで、川と、反対側。高架下の暗がり。友達が小さく指さすところには、白いパーカー姿の男性がいた。
通過する電車の影が、モノクロ映画のノイズに見える。
目深に被ったフード。こんな季節に長袖の服。彼の扱うスマホの明りでは、フードの中の顔さえ、窺い知れない。
確かに、怪しさはある。
(あれ?)
だが私は、怪しさとは別の、違和感に気付いてしまう。
スマホの明りが、フードの内側を、照らしているのだ。
顔は昏く、影に覆われているのに。
スマホを見ていたフードの頭が、ゆっくりと上がる。
夕日は、最後の報せとばかりに、朱く、紅く、赤く、その光を細めていく。
警告の光が、私の心臓を刺し、早鐘を打つ。
『みるな』 『にげろ』 『はしれ・・・・・・』
鼓動の命令に反して、動くことも、顔を背けることも、出来ない、私。
彼の顔が、こちらを・・・・・・。
「おーいって!!」
肩を掴まれ、驚く。
先を歩いていた友達が、心配して、駆け寄って来てくれたのだ。
(あれ?)
「ずっと声かけてるのに。めっちゃガン無視じゃん?」
対岸を見る。
私たちに似た、誰かなんて、どこにもいなかった。
「おーい。まだぼーっとしてるー?」
ぞわぞわと、得体の知れない何かが、手先から全身に這いまわっているような、感覚。
「ううん。何でもない。行こ?」
私は、ソレに、気づかぬフリをした。
口に出したら、本当になるような気がして。
X(twitter)のお友達に、マシュマロとして送ったもの。それを少し修正してみました。
ところで、私はタイトルに『女学生』といれました。
個人的なニュアンスなのですが、『生徒』とした場合は「先生と『生徒』」「どこそこの学校の『生徒』」という、教える立場とセットのイメージを持ったからです。
『女学生』であれば、関係のない第三者から見ても、正しく学生だと伝わりますね。
はて?関係のない第三者とは、作者の私か、読者の皆様か、はたまた・・・・・・、何者でしょうね?
みなさま、逢魔が時には十分、お気をつけください。