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朝起きるなり届いた()()を読み、普段なら絶対にしない、それをすぐさま破り捨てるなんてことをしてから、普段のように教室へは顔を出さず保健室登校ならぬ、薔薇園登校をしたクレス。


今日はてっきり昨日のようにミリアがやってきて、昨日以上に昼寝の邪魔でもしてくるのではないかと思いつつウトウトしていたら、そんなことはなかった。


2時限目、3時限目の予鈴が鳴っても彼女は姿を現さなかった。


まあ、彼女もこんな奴と関わることに飽きでもしたのだろうと思い、クレスがほっと安心感を覚えると、いつの間にやら本寝へと移行していたらしい。


先ほどクレスが目を覚ますと、太陽はすっかりと真上を通り過ぎていた。つまりは昼時をしっかりと過ぎていたのだ。


まあ、それは普段ならば別に構わないことなのだが、今日はそろそろ昼食は摂らないと、久々に母と夕食を摂るというのに、入らなくなってしまうだろう。


やれやれとクレスは薔薇園を出て、いつものように平民の生徒が利用する学食へ。


すると、なにやら女子生徒に絡んでいる男達が目にし…。


「げっ…。」


…クレスは見かけた相手に思わずそんな声をあげた。


クレスの反応からもわかるようにそこにいたのは、碌でもない人物たち、アレックスに…クレスの公務倍増の元凶たるピンク髪のゲームヒロイン…とその他攻略キャラの取り巻き2人。


ゲーム主要キャラであるジルベルト他約半分なんかがいないのは幸いかもしれないが、それでもやはりクレスにとって目にもしたくない危険人物たちだ。


本当のところを言うならば、クワバラクワバラとでも口にして去りたいところ。


しかしながら、その絡まれた、俯き加減の女子生徒がどうにも身に覚えがあることに引っかかり、クレスは身を翻すのをやめた。


彼女の特徴、それは大きな胸に、正直クレスとしてはストレートにした方がいいと思う髪型のもはや代表格の金髪ツインドリル。


その彼女は、明らかにクレスが昼寝を邪魔しに来ると思っていた相手、ミリア・シュトラだった。


クレスには俯いた彼女はどこか震えているように見えた。


「ちっ…。」


それを見たクレスは舌打ちをした。


正直、彼女を助けるほど、クレスと仲がいいわけではない。だから放っておくのが、適当なのは間違いない…ないのだが…クレスの心の内で真っ先に出たのは次の言葉。


(…どう助けたものか…。)


すでに助ける手段に頭を悩ませていた。


クレスはこう見えてお人好しというやつなのだ。


困っている人がいたら…とまではいかなくても、知り合いが困っていたら助ける。前世では、それをほぼ無意識に行い、貧乏くじを引いては、よく後悔なんてものをしていた。


そんな経験をしょっちゅうしていたからか、クレスは流石に自分の性格というものを少しは理解している。


だからこそ特に酷い目に遭うであろう悪役令嬢たる人物たちとは出くわしたりしないようにと気をつけていたのだが…今回ミリアに遭遇してしまい、そのミッションは少し失敗してしまったのだ。


そんなクレスが、嫌がらせを受けているのがミリアだとわかり…。


『最近、授業をサボっているらしいな。アムニアから聞いたぞ。なあ?』


…彼女がこんなことを言われてるなんて聞いたら、放っておけるはずもない。


遠くから覗き込むのではなく、しっかり身をさらして、その場へ…そして…。


「そんなところで何をしている、シュトラ嬢。」


…などと声をかけてしまった。


この行動はゲームストーリーなんてものには関わり合いになりたくないクレスとしては大失態に違いない。


まあ、そうは言っても、やってしまったからには仕方がないので…。


「これは兄上…あなたもいたので?」


…と、とりあえず兄であるアレックスに声をかける。


アレックスはクレスがそう語りかけた途端、ひどく居心地悪そうに眉をひそめた。


「…く、クレスか…いや、なに、なんでもない。お前には関係ないことだ、うん…。」


落ち着かない様子で口元に手をやり、さっさと行けとでも言いたげなアレックス。どうやら彼はまだミリアに用でもあるらしい。その下らない用件にはクレスも心当たりがある。なので…。


「…そうですか…ではお教え願っても?なんでもないこと…なのでしょう?なに、下らないことでも構いません。あくまで後学のために…なので。」


「うっ…。」


どうやらアレックスの用向きはクレスの予想通り、ミリアに強く当たること…つまりは授業をサボったことをネタに糾弾するのだろう。


しかしながら、どうやらアレックスは同じ王子であるクレスに婚約者と不仲などという弱みを見せたくないとでも思っているらしい。


あのピンク髪にご執心で別れたがっているのは、もう周知のことだろうに、本人はまだ隠しているつもりらしいとはなんとも…。


そんな様子のアレックスを見た取り巻きの大柄な方がクレスに噛み付いてくる。


「貴様…アレックス殿下になんてことを…。第3王子の分際で!!」


「?それを言うならば、貴様こそ誰に楯突いているのかわかっているのか?俺はこの国の第3王子なのだが?」


「うっ…。」


「…それにしても最近の小姓は随分と生意気な口を利くものだな?」


「こ、小姓だと…貴様…このニーズリッカー侯爵家の生まれであり、次期五将軍の筆頭となる私に向かって…。」


「ほう?あの勇猛と名高いニーズリッカーの?…しかし、貴様のような小姓のことなど、寡聞にして聞いたこともない。…ああ、もしかして妾の子というやつか?」


と、クレスが軽く煽ってやると、煽り耐性がゼロなのだろう。即ブチギレ。


「き、貴様っ!!」


怒りに身を震わせ、そのまま突撃でもしてきそうなライオネル。


「ライオネル、それくらいにしておけ。」


それをアレックスはそのように窘め…。


「しかし、殿下!!……わかりました。」


…ライオネルは不承不承といった様子で受け入れた。


「…クレス、すまなかったな。ライオネルにも悪気はないんだ。」


この言いよう…どうやらアレックスはクレスとの会話をさっさと終わらせることを優先するらしい。その場を後にしようと、ぼ〜っとしていたヒロインの腰を抱いて、取り巻きどもと共にこの場を後にしようとした。


まあ、これで終わりでもいいのだが、刺した釘はすぐに抜けてしまうほどにゆるゆるだ。もう少し王族としての自覚を持って貰うために、もう少し深く釘を刺すことにしよう。


「悪気はない?王族批判と受け取られても仕方のないことのように思えるが?」


王族批判という言葉を聞き、顔を青くするライオネルに対して、自分が折れたことを蔑ろにされたと勘違いしたアレックスの顔は真っ赤になっていく。


「……クレス、貴様…。」


「…しかし、まあ、どうやら俺のことがこのやりとりの発端のようなので…ね。今回は聞かなかったこと…つまり不問とするか…。」


その言葉に気持ちがよくなさそうにするアレックスと、ほっと胸を撫で下ろしたライオネル。それに対し、小柄な取り巻きはどうやらクレスの言葉に気になる部分があったのか聞き返してきた。


「……っ!?どういうことです?クレス殿下?」


「なに、つまらないことに過ぎない。シュトラ嬢は単にサボっていたわけではなく、俺のところに来ていたということだ。」


というクレスの言葉に一瞬空気が凍った。


「「「……。」」」


そして、少し後…。


「「「なっ!?」」」


…という言葉がアレックスたちの口から発せられた。


クレスの発言は婚約者のいる女性が他の男の所を訪れていたというもの。それは間違いなくスキャンダルだ。それも公爵令嬢という立場のミリアの行動と言うならば、言うまでもないこと…。


「……どういうことです?」


ヘイズは事の重大さを知っているのか、真剣な様子で聞いてくる。


そんな様子になにか思ったのか、アレックスたちもクレスの言葉を一言一句聞き逃してはと、眉を引き締めたのを見て、クレスは内心釣れたことに安堵した。


「勘違いはしないでほしい。逢引とかそんな色気のあるものではない。…ふむ…まあ、あえて言うならば、説教という言葉が適当かもしれないな?」


「は?」


小柄な取り巻きの間の抜けた言葉に、ポカーンと口を開く面々。


クレスはそれを予定通りだとほくそ笑み、もう少しばかり話を続け…。


「俺が授業に出ないことをどこからかその噂でも聞きつけてきたのだろう。まったく真面目なことだ…っと、もうこんな時間か…これでは折角の昼寝の時間がなくなってしまう。それでは失礼、兄上。」


…と、クレスは隙を見て、ミリアの手を取ると、その場をさっさと離脱した。



「ふう…なんとかなったか…。」


と薔薇園に着き、一息つくクレス。


すると、どうやらミリアは正気に戻ったのか…。


「クレス殿下!!どういうつもりです!!」


…と詰め寄られた。



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