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ミリアがようやく正気に戻ったのは、寮の自室に着いてしばらくした頃。
リリアンがその頃を的確に予測し、お茶なんかをそっと出してきた。
なんともできるメイドである。
…いや、というよりも、そこまで主人のことを熟知しているとは、ある意味完全にそれも自覚すら許さないほどに手玉に取られそうで怖いメイドだ。やはりもう少し注意の必要があるだろう。
…しかし、まあ、お茶にはなんの罪もない。
ミリアは一服すると、ほんわかと心が穏やかになる。
なんか物凄いことがあった気がするけど、この時間が一番落ち着くわね。
「流石ね、リリアン。とても美味しいわ。」
「ありがとうございます、お嬢様。お茶請けは如何いたします?」
「ううん、いいわ。もう夜中だもの。太ってしまいます。」
「ぷくぷくしたお嬢様も私は好きですよ。」
「……ありがとう…とでも言えばいいのかしら?あとその擬音やめなさい。なんか微妙にありそうな雰囲気ですから。」
ミリアはお茶に一目送り、お茶は太らないわよねと確認した後、ふと夜空の星が目を入って、ベランダへと出た。
そのまましばらく星を眺め、中に入る前、その下を見ると、魔力灯がパチッと…ん?
「……ぱちっ?」
……これって雷?
「……あっ…。」
そして、先ほどのことを思い出すミリア。
「………っ!?り、リリアンっ!?」
「はい、なんでございましょう?」
いつものように笑顔のリリアンにミリアは思わず尋ねる。
「さ、さっきのあれは一体…。」
しかし、それはなんとも要領を得ない言葉。まあ、普通本当の思わずなんて、尋ね方をすればこんなもののはずなのだ。恥じることはない。
寧ろこんなわけのわからない尋ね方で的確に正答を引き当てるリリアンとの関係性こそ称賛に値する。
「さっきのあれ…ですか?ふむ…もしかしてクレス殿下のことですか?それならば納得でしょう。」
「え?ど、どういうことですっ!!」
「あら?ご存知ありませんか?ふふふっ…いえ、失礼しました、お嬢様。」
「なにか知っているのね…というか、リリアン、あなた知っていたのねっ!!」
リリアンの誂うような反応に頭を抱えるミリア。これはなんとも失態の匂いがする。
基本的に彼女は大きな痛手となる場合以外には誂うばかりでまともな助言などしてはくれない。今思い出してみると、クレスたちとのやりとりの間、もしくはそののやりとりの後、彼女はやけに言葉少なだったように思う。
ヤバい…なんかよくわからないけどヤバい気がする。
ミリアはリリアンを問い詰めようと顔を上げた。すると…。
「…って、もういないっ!?」
…リリアンの過ぎ去った跡、その机の上に1枚の紙が置かれていた。そこには…。
【明日の朝刊をご覧ください。面白いことがわかりますよ。尊敬すべき知識人たるお嬢様へ】
「あ、煽ってる…これは煽ってます。……面白いことって、一体どんな…。」
そんなミリアの声は誰にも届かない。
―
そして次の日、目を覚ましたミリアは朝刊を読むなり、家を飛び出した。
「…リリアン行くわよ。」
「ふふふっ、かしこまりました。お嬢様♪」
「……。」