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王の命令内容。
それは急に現れた王都近郊の魔物の討伐だ。
脅威となる魔物はそれほどいるわけではないのだが、王族の民への点数稼ぎのため、軍や部隊を送ることなく、クレスが単騎で送られることになった。
普段ならクレスが高速化魔術【始雷】を使って行って、チャチャッと片付けて終わりのこの任務。
しかしながら、今回はギャラリーとは言い過ぎかもしれないが、サボりのセーナの他にオマケが2人ほどついてきた。
ミリアにリリアン。
ミリアは私が見ているから、言い訳としてでしょ?とでも言いたげな雰囲気に、でも感心ねなどと多少の称賛を含めたような様子で…。
またリリアンはずっと笑顔でなにを考えているのかわからないが、魔物を相手取るからかミリアを守るため、薄いが妙な殺気を滲ませた様子でこちらを窺っていた。
正直、リリアンの殺気の方こそどうにかしろと本能がうるさいのだが、これはどうしようもないことなので、どうにか無視する。
2人がいるから、久々に馬車なんかで来ては見たが、おかげで監視塔から送られてきた資料はしっかりと目を通せて、概ね意図は理解した。
「迎撃ポイントに到着しましたよ。」
御者のそんな声が聞こえて、4人がそこを降りる。
敵の姿はまだ見えないが、そこはなにもない平地。
「…つまりは素材がほしいということか、キール。」
「流石殿下です♪一目でわかるなんて凄いですね♪」
どうせまたあのオッサンがわけのわからない武器でも買って、食費がなくなりでもしたのだろう。困ったオッサンだ。
キールも微妙に痩せこけてるし、食べられるオークはできるだけ食べられない部位ができないようにしないとな…。
「世辞はいい。さて、さっさと片付けよう。回収は任せていいんだよな。」
「もちろんです!!後10分もすれば、荷物持ちが来ますから。」
「ああ、ならいい。」
2人のなんとも緊張感のないやりとり。
それを自分も戦うぞとばかりに持ってきた杖を取り出したミリアが不安そうに見ていると、魔物の大群が見えてきた。
「殿下、来ました!」
「っ!!」
ミリアの視界に入ったのは、100は下らない魔物の群れ。武装したオークやゴブリン、さらにはBランク相当のドラゴニュートという竜と人間のハーフのような存在までもがいた。
どうやらドラゴニュートが指揮官らしく、先行しようとしたゴブリンを一喝して、隊列を整えている。最低限の統率が取れているのが見て取れた。
ミリアは杖を握りしめ、クレスの方に来たぞと戦い慣れていないのが見え見えな戦闘モードになりきれていない、瞳の奥が揺らいだ視線を送る。
すると、クレスは池面に手をつき、すでに詠唱を開始していた。
「【其は天のみならず 地を伝う次なる雷 次雷】」
一瞬クレスの5本の指先からバチッと雷が走ったように見えたミリア。
すると、クレスは立ち上がり…。
「さて、帰るか。早く馬車に乗れ。」
「なにを言ってるのっ!!だってあんな大群がっ……え?」
大群にミリアが視線を送ると、それらは次々と倒れ始める。
本当に何が起こったのか意味がわからない。
でも、ただ本当になんの前触れもなく、崩れ落ちていくのだ。…魔物はうめき声を上げることすらなく。
付け加えていうなら、外傷はまるでなさそうに見えた。
「…一体なにが…。」
驚愕の視線、困惑の視線をクレスへと送るミリア。
ミリアがそんな視線を送ってくるものだから…というか、説明をしないと馬車にいつまでも乗りそうにないことから、仕方がないと高弁というやつを垂れることにした。
「あそこで寝ている奴らの死因は心臓麻痺。俺はさっき地面に雷魔術の火種を撃ち込んで、それが魔物共に届いた瞬間、術式が発動し、一気に心臓を機能不全に追い込むように設定した。」
「…え…魔術の火種?設定?」
なんとなくミリアの困惑が広がった気がしたが、まあ、オリジナルの術式だから仕方あるまい。設定なんかも普通は瞬時に行ったりはしないしな…というか、俺もさっきみたいに補助で使った【三雷】を使わないとできないしな。
「この魔術のいいところは、魔物本体ややつらの装備品なんかを傷つけないところ。それを知っていたランバルト将軍は、周りに引火する可能性がほぼないこの場所で迎え撃つことを要求してきたというわけだ。」
まあ、他にも利点はあるが、今の敵ならこれくらいの説明で十分だろ。
「……。」
…もう大混乱で言葉すら話さなくなったし…しかし、これは寧ろ都合がいい。
「ほら、わかったらさっさと乗れ。帰るぞ。」
ミリアの手を取り、馬車に放り込むと、残り2人も馬車へと乗ったので、キールに馬車を出すように命令する。
道中、回収班らしき存在とすれ違ったりなんかもあったのだが、ミリアはどこか魂でも抜けたかのようなボケ〜っとした様子。一方リリアンは心底面白いものが見えたとご機嫌で、話し相手をさせられているセーナは迷惑そうな様子だった。
これなら授業でも受けていた方がましだとでも言いたげにクレスへと助けを求める視線を送ってくる。
でもまあ、同じ使用人同士仲良くなるのはいいことなので、手助けは少し後だなとちょっとしたSっ気を出したクレスはそれを放置し、行きとは違い、のんびりと馬車の外を眺めていた。