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それからクレスはミリアがせっかく教えてくれたのだからと、姦しく挨拶しに来てくれた令嬢たちを流しながら、今回のパーティーの主催者のところへと向かうことにした。
もちろんあの老害のところになど行きたくはなかったのだが、ちょうどそれが見当たらず、割と素直な足取りで向かった次第である。
すると、相手方もこちらへと向かって来ており、クレスが気がついたあたりから、ちょうど中間あたりで、久々に顔を合わせた。
「久々だな、ドリス。」
「これはこれは殿下、お久しぶりです。今回も遠いところ…。」
「気にするな、あのジジイが原因だろう。」
「いやぁ…ははは…申し訳ありません。」
「気にしないでいい。壮健でなにより。それじゃあ、これで…。」
周りの目(第一王子派や第二王子派の人間のそれ)もあるので、そう短い挨拶を終え、さっさと立ち去ろうとしたところ、「待つのじゃ!!」と、嗄れていながらもどこか力強い声が聴こえた気がした。
「「……。」」
クレスとドリスは無言で見つめ合い、ほぼ同時に額に手を当て…。
クレスは片手を上げると、先ほどの声をなかったことにして、「それじゃあ!」と再び立ち去ろうとしたわけだが、かの【雷の奇行…貴公子】の異名を持つ存在が、まるで【魔王からは逃げられない!】かの如き、電光石火の廻り込みを見せたことにより、それは止めさせられた。
「儂への挨拶がまだじゃろう、クレス殿下?」
「…いたのか…気がつかなかった、老が…老公。」
「ホッホッホ、本音が漏れておるぞ、クソガキ。」
どちらがだ…と、取り繕いすらしなかったその場に似つかわしくない、アロハシャツを着た老人を見ると、これで挨拶は十分だろうとミリアの手を取り、その場を後にしようとしたのだが、やはり今度もまた、老人の言葉により、その行動はキャンセルされる。
「どうせ坊主のことじゃ。連れの1人もできなかったのじゃろうて…っと…おや?」
「お久しぶりです、御老公。」
「ホッホッホ、久しいな、娘っ子。…ふむ…しかしシュトラの小娘か…なるほどのう…。」
爺さんがニヤリと悪戯をするガキのような顔をしたのを見て嫌な予感がしたクレス。
彼がどういう意味だと問い詰めようとすると、注意がそちらへと向いていたからか、無防備だったクレスは、急に目の前が真っ暗になり、珍しくも本気で驚く。
「だ〜れだ♪」
それは女性の声であり…。
「こ、こら!なんてことしているんだ、プリシラ!」
…と、ドリスの言葉が耳に届き、いわゆるネタバレをされ、クレスはその存在を理解する。
「…プリシラか…。」
「うふふ、正解です。はしたないことをしてごめんなさい、殿下。」
長いストレートな紫髪の美女は茶目っ気たっぷりに小さく舌を出し、そんなふうに気安く謝ってきた。
彼女がやはり美人になったか…と納得すると同時に、その仕草なんかに懐かしさに目を細めるクレス。
「…なに、気にするな。久しぶりだな、プリシラ。5年ぶりくらいか?」
「ええ、だいたいそのくらいですね。お会いしたかったですわ。」
「なっ…。」という隣から女性の声が聴こえ、それから間もなく、ドリスの困惑したような声が聴こえてきた。ちなみに爺さんもなにか喚いているが、もうガン無視で耳にすら入らない。
「えっと…2人は知り合いなのかな?」
「ああ、ジジイが教師(笑)をしている時、ちょくちょく王城に来ていてな。その時によく遊んだんだ。」
この遊びというのは、本当のところ遊びではない。
完全なる外交などの政治の話し合いだった。
確か主としたのは、外交関連だっただろうか?
良好な関係の維持、農産物の輸出入など。
外交とは本当に面倒なのだ。まず国内の事情を網羅せねばならず、それだけでなくいわゆる前年の交渉の勝ち負けが次年の有利不利の大義名分となったりと…もうあんなのは正直子供がやるべきことではない。
というか、俺含め王子にとやらせるなと言いたい。
おっと…それはともかくとして…。
「…帰ってきてたのだな。」
「ええ、殿下…そちらの方はもしや…。」
プリシラのどこか手探りな様子に、おそらく聡明な彼女のことだ口調などを気遣って、せっかくの再会に不純物を混ぜてしまうだろうと考えたクレスは微笑みつつ、事実のみを伝えた。
「彼女…シュトラ嬢は友人でな…エスコート相手がいない俺に付き添ってくれたのだ。」
「なっ…。」
「そう♪友人なのですね♪」
プリシラはそれに微笑む。
「ああ。」
確認に対し、そう断言すると、プリシラはその笑みをさらに強めた。
「♪」




