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クレスの内心は重々しく…しかしながら、そんな彼の思いとは裏腹に軽やかどころか、馬車は全速力で道を駆け抜け、夜の帳が降りる前にシュミット前伯爵の誕生会の会場へとたどり着いた。
その玄関口には多くの馬車が行き来しており、華麗な装飾のされたものから、質素なそれ、はたまた異国情緒溢れるものまで取り揃えられた見本市。
この分なら、国内の貴族だけでなく、他国の有力貴族…下手をすると王族まで来ていることだろう。
バリエーションだけで言うならば、王家のパーティーに肩を並べるのではないか?
流石、地方貴族の首領なだけはある。
やれやれ、それなのに、どうして俺みたいな他国への献上品まがいがそんな人物のパーティーに呼ばれなくてはならないのか…。
伯爵へのご機嫌伺いするべき存在なら他に2名ほどいるだろうに…。
クレスは前伯爵との対面などしたくないという気持ちから、そんなことを考えてはみるが、今回はミリアにエスコート相手の紹介まで頼んでしまったのでと無理やりにでも背中を押し、馬車を降りて、玄関へと…。
玄関口で数人の女性がパートナーを待っている様子。
クレスは忙しかったため、その相手の名前どころか顔すら知らないが、おそらく彼女たちの誰かがクレスのエスコート相手となるのだろう。
そして、クレスが玄関口へと足を向け、そこに近づくと目の前に立ち塞がる存在が現れた。
「なにか御用か?…もしかして私のエスコート相手か?シュトラ嬢に頼まれた…。」
クレスが話し掛けた彼女は金色の長い髪を持つ女性だった。
その髪は艷やかで美しく、館から漏れ出る光がそれをどこか儚げに彩っている。もしかしたら夜の闇の中でさえ、輝きを保つのではと思うほど綺麗な髪。
顔立ちはうつむき加減なためわからないが、ドレスは水色の下品にならない程度に衣装細工が凝らされたもの。
…まったくミリア。
なんて人物を寄越してくれたものだ。
こんな見るからに清楚な美人を用意するとは…。
クレスとしては単にジジイに馬鹿にされないようにと一日限りのエスコート相手を欲していただけだったのだ。
これでは後腐れなく別れることができないかもしれない。…具体的に言うと、何日か自己嫌悪に駆られるかも…。
クレスが彼女を見ながらそんなことを考えていると、ふと彼女はクスリと笑った。
「クスッ。まだわからないのですの、クレス殿下?」
「?」
クレスが頭に疑問符を浮かべていると、彼女は種明かしとばかりに顔を上げ…。
「「「「……どちら様?」」」」
どうやらクレスとアメリアに合流した残りの姉妹たちとともに首を傾げた。
「……ぷい。知りません。」
彼女の言葉の通り、クレスたちの反応はどうやら機嫌を損ねてしまったらしい。
明らかになったのは少し幼さの残る綺麗な顔。それはどこか自信ありげで…まあ、いわゆるドヤ顔から、拗ねる子供のようなそれへと変化した。
顔まで披露したのに相手にわかってもらえないのだ。これは彼女からすれば当たり前のことに違いない。
タッタッタ。
彼女のことをよく知る人物が来たらしい。大声がこちらへと向かってくる。
「お嬢様〜!中で確認してきましたが、クレス殿下はまだ…って、おや?」
クレスたちはそちらへ視線を送り固まる。
「「「「……お嬢様?」」」」
そして、クレスと三姉妹、4人は互いの顔を見つめ合い……。
「「え?……ええぇぇぇぇ~〜〜っ!!?」」「…(驚きのあまり固まる。)」
「……マジか…。」
全員が全員それぞれの方法で驚きを露わにした。




