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私はリリアン。
シュトラ家にお仕えしているデキるメイドです。
今日もお嬢様に頼まれた案件を早々に終え、今はお嬢様の部屋で一服中。
ドタドタドタ。
どうやらお嬢様が帰って来たようです。
しかし、足音が一つ。
はて、あのダメっ娘メイドのサチはどこへ行ってしまったのでしょうか?またはぐれたとか?
あははははっ♪
……さてさて、そんなことはともかく、お嬢様は帰ってくるなり、なにやらせせこましく動き回っておられる。
「どうかなさいましたか、お嬢様?」
「大変!大変なのよ!リリアン!私、パーティーでクレス殿下にエスコートしてもらうことになったの!」
どうやら彼女はサチがいなくなったことには気がついておられない様子。
可哀想なサチ。
私は覚えておりますから、安心して、道にお迷いなさい。
「落ち着いてくださいませ、お嬢様。パーティーとはいつの?」
「1週間後よ!」
「……大変言い難いことではございますが、お嬢様。それならば、時間はまだまだあります。なので、そのように乱雑に衣装棚を掘り返したりせずともよろしいのでは?」
「……こほん。それもそうね。」
どうやらお嬢様も落ち着かれたご様子。
私はデキるメイドらしく、さっとお嬢様に提案。
「新しいドレスを仕立てたいようでしたら、仕立て屋をお呼びしますが?」
「う〜ん…そうね…でもそんなに早くできるものかしら…。」
「確かに普通なら時間が掛かります。ですが、シュトラ家には専属の者がおりますので、やってやれないことはないかと…。」
まあ、仕立て屋は不眠不休になるかもしれませんがね♪
「…いえ、やめておくわ。とりあえずここにあるもの…もしないようなら、屋敷の方で探してみることにします。」
どうやらミリアはリリアンの邪気のようなものを感じ取ったらしく、そう告げると、リリアンは少し残念そうにしたのだが、大して興味はなかったのか、すぐに話題を変えてきた。
「そうですか…ところで、クレス殿下に伴を頼まれた件についてお聴きしたいのですが?」
「そう!そうなのよ!!いや〜、私も驚いたのだけど、クレス殿下ったら、エスコート相手を紹介してくれなんて回りくどく私を誘ってきて…。」
長くなりそうなので、とりあえずこの辺りで耳を閉じて…っと。
さてさて、お嬢様がご機嫌さんなのはやはりクレス殿下に起因するらしいですね。
クレス殿下…なんて罪作りな御方…。
まさか…あの…あのお嬢様の心をお奪いになるとはっ!?
……まあ、お嬢様って結構チョロそうなので、イケメンで有能で性格も良ければ、ホイホイ着いて行きそうではありますけど…。
これって、私がお嬢様を出し抜いて、最後はクレス殿下のお嫁さんになるルートですね♪あは♪
…なんて、一割程度の冗談はさて置き、それって別に…。
「…恐れながらお嬢様。」
「なによ、リリアン。人がいい気分で浸っているときに…。」
「おそらくですが、お嬢様は(都合良く)勘違いなさっておられるかと。」
「勘違い?」
「ええ、おそらくクレス殿下は本当にエスコート相手を紹介してほしかっただけかと…。」
「………………………えっ?」
「いや、それほど驚かないでいただけますか?正直(ほんの少しですが、)罪悪感に駆られてしまいます。」
「あっ、ごめんなさい。リリアン、でも…。」
「お嬢様、でも…ではありませんよ。クレス殿下はお嬢様ではなくご友人の誰かを望んでおられるのです。」
「そ、そんな…。」
へんにゃり。
な、なんとおいたわしい、お嬢様ががっかりされておりますね♪
「クリナ様やハンナ様なんてよろしいのでは?確かどちらも…。」
「ううう〜…ダメなの…。」
「なにがダメなのです?も、もしかしてお嬢様ご自身がクレス殿下にエスコートしていただきたいのですかっ!?」
リリアンが大げさに驚くなんてことをしてやると、ミリアはすっかり俯いてしまった。
「……。」
それから無言でしばらく。
すると…不意に肩をピクリ。
そして、なにか思いついたのか、うつむき加減に軽く顔上げると、口を開いた。
「……クレス殿下はプレイボーイ。」
「?」
「そう!クレス殿下には悪い噂があったはずです!そんな噂のある方を友人に紹介するなどできるものですか!」
「あっ、その件でしたら、ここに全て根も葉もない噂だと証明する報告書が…。」
「……ぷく〜。もうリリアンなんて知らない。」
ビリビリビリ。
クシャクシャクシャ。
「…失礼しました、お嬢様。このリリアンともあろうものが、手が滑ってしまいました。」
「……よろしい。」
やっぱり今のところこの方しかいませんね。
お嬢様、これからも末永くよろしくお願いします♪
ぷっ…あはははは♪もうダメ…。
「た、ただいまです。リリアンさん、お嬢様見つかりませんでした。」
おお…これはこれはご苦労様です……えっと…サチになにか頼み事してましたっけ?




