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そして、パーティー当日、クレスは…。
「殿下っ!退避終わりましたっ!!」
「…ああ、わかった。【其は天のみならず 地を伝う次なる雷 次雷】」
…再び魔物討伐へと繰り出していた。
今はミリアに頼み事をして、1週間ほど。
あれから数時間と経たず、いくつかの貴族からほぼ同時刻に、救援要請が届いた。
普通ならば、各地へと五将軍それぞれが向かい、それを解決すればそれで万事解決。被害も最小限となる…はずなのだが、今はそれができない事情がこの国にはある。
各派閥の王子の擁立…いわゆる王位争いだ。
それもこの争いには五将軍まで絡んでいて、不運にも第一王子派閥と第二王子の派閥にそれぞれ1人ずついるという状況。
武力や暴力はかなり大きな力。
これは子供でも知っていること。
もしこの状況にどちらか片方、もしくは両方がクーデターなんかを起こしてしまえば、王都は大混乱になってしまう。
それは魔物の動きが活発となりつつある現在、国をも滅ぼしかねない。
それで、必然的に中立派の2部隊までもが王都に在中となり、自由に王都を離れられる中立派の五将軍の部隊は一つのみとなっていた。
…つまり、それは数々の救援要請にその一大隊で当たることになるわけで…。
…まあ、そんな事態となれば当然、使い潰しても構わない戦力であるクレスにもお鉢が回ってくる。
本当に迷惑な話だ。
…ホント、マジで、どっちでもいいからさっさと王太子を決めろ…。
さてさて、一応、これで最後の救援要請地。これでクレスの1週間にも渡る強制労働に終止符が打たれることと相成る。
クレスは戦いの終わりを伝えるべく、この領地の管理者たるピーニー子爵と、五将軍のオッサンことランバルト侯爵のもとへと向かった。
「ピーニー子爵、これで一応の討伐は終わった。」
「は、はいっ!!あ、ありがとうございますっ!!」
子爵はクレスに礼を言ってきた。…しかし、その表情にはやはり陰りがある。
このピーニー領はそれほど魔物の襲撃を受けることなどない場所。
それ故に魔物への対策や防備は、獣避け程度の柵と警備兵…あと中級程度の冒険者と、ほとんどなかった。
…要するに、魔物たちの凶行がほぼフリーパス状態となってしまっていたのだ。
一応避難はして、それなりの数の領民は生き残りはしたのだが、当然、領地は荒れ果て、領民も数え切れないほどに被害を受けた。
もう少し早く来れていればと思うと、正直胸が痛む。
「…心中お察しする、ピーニー子爵。」
「…お気遣いありがとう…ございます、殿下。…っ……。」
途切れ途切れの言葉。
それは早く来てくれなかったことへの誹りを抑えてのことか?はたまた領地の管理ができなかったことへの申し訳なさだろうか?
…いや、案外、単に領民が死んで悲しいというものかもしれない。
「…クレス殿下…あの…。」
「?」
「…いえ…。」
第三王子であるクレスを頼りたい。
そんな視線をクレスは確かに感じていた。
正直、今のクレスならば、かなり真面目に働いていたこともあり、自由にできる金がかなりのものとなっているので、この領地の復興にかなり力になることができるだろう。
…しかしながら、クレスは将来、どこぞの姫と婚姻を結んで国を出る身。
下手にクレスが大っぴらに支援をすれば、今後、兄弟どちらかの王位が確定した時、子爵だけでなくピーニー領はさらなる地獄を見ることになるだろう。
今のクレスにできることはこれくらいか…。
「…ついてのことだが、今回の魔物の素材はあなたに譲ろうと思う。」
「よ、よろしいのですかっ!?」
クレスがピーニー領で良品…いわゆるほぼ無傷の状態で倒した魔物はそれなり。中には数体かなりの上位種もいたことから、下手な貴族の給与より大きな金額となるだろう。
「ちょっ!?殿下っ!?それじゃあ俺達の取り分が…。」
王都から遠征なんてことをしてきたオッサンが口を挟んでくる。しかし、そんなものはクレスには関係ない。
「…なにか?ランバルト侯爵?」
バチバチバチッ。
「………い、いや…な、なんでもないッス。続けてどうぞ。」
はぁ…まったくこのオッサンは相変わらずだ。
「…子爵。しかしながら、これには条件がある。」
「な、なんでございましょうか?」
「貴方には復興後、軍備を整えてほしい。」
「えっ…軍備…ですか…。」
クレスの言葉に子爵の反応はなんとも芳しくない。
まあ、今の御時世、こんなことを言えば、クーデターやれ第三王子の派閥のために役立てと言われているように思うかもしれないので、現状の彼からすれば妥当な反応だろう。
もちろんクレスは王位なんてものに欠片も興味はないのだが…。
「いや、勘違いしてほしくはないが、これは貴方の領地を守るためだ。」
「守るため…ですか…。」
「今回、私たちはそれなりの早さでここに来はした。しかし、どうだろう?この惨状は…。」
家、田畑は荒らされ、領民は大分死んだ。これは後で聞いたことだが、その中には子爵の身内もいたらしい。
「……。」
「こんなことを繰り返してはいけない。貴方にはせめて国が軍を派遣する間の時間稼ぎができる程度のそれを作ってほしい。」
「…しかし、私にはそんな能力…。」
「このオッサン…もとい、ランバルト侯爵を頼るといい。このオッサンの部隊に勉強のために送り込むなりすれば、少しは役に立つようになるだろう。なあ、ランバルト侯爵?」
バチバチバチッ(クレスの右手に纏わせた雷撃の音)。
まあ、余計なことを言う前にというやつだ。
これくらいはいいだろう。なにせ毎回、軍の特別予算(現物支給であるほぼ無傷の魔物の素材)を提供しているのだから。
今回も【三雷】に【次雷】というコンビネーションを使い過ぎて、脳味噌に負荷をかけ過ぎた。今日はもう頭を使いたくない。
「ひっ!?…あ、ああ…殿下の頼みならば、俺も聞こう。殿下にはかなり世話になっているからな。たまには役に立つことをしないとな…アハ、アハハハハっ。」
「……っ…感謝します…ランバルト侯爵…。…クレス殿下…。」
「ああ、頑張ってほしい。」
そう告げるとクレスは子爵のもとを離れた。
…ああ…やっとこれで終わり…。
「ちょっと待ってくれ、殿下。」
「?」
「あんた、今日、ジジイのパーティー行くんだろ?」
この言葉を聞いた瞬間、クレスは固まった。
「……。」
「どうせ殿下のことだからエスコート相手いないんだろ?」
「……。」
「それなら家のイセリアを…って、おい、殿下聞いてるか?お〜い!」
「…ああ、聞いてる。」
正直半分心が死んでいた。オッサンの言葉がどこか遠くから聞こえていた気がした。
「…イセリアを連れて行っていいんだったか?ああ、大丈夫。問題ない。今日は相手がいるんだ。」
「………えっ…マジ。」
「…ああ。それでは失礼する。後は任せた。」
「あ、ああ…。」
クレスの言葉は半覚醒状態でフルオート。
とりあえず馬車で眠ろうということのみが、その時のクレスを突き動かしていた。
オッサンに任せた以上、クレスの中でもう会話は終わり。この後のことは耳にする入っていなかった。
「……って、殿下!殿下待ってくれ!!その話詳しくっ!!」
そして、不運にもオッサンを取り囲む部下たち。
「ランバルト侯爵!報告が!」
「侯爵!」
「ランバルト様!」
「ええい!離せ!今はそれどころでは!クソッ!こ、このままじゃ、俺はイセリアに…。殿下!!殿下ーーーーっ!!!」
オッサンの叫びは響き渡り……ある女性が現れてすぐ………悲鳴の後、途絶えた。




