第7話 ダークエルフの悩み
「ドラム様。本日は魔王様からお呼び出しがかかっております……」
「……魔王だと?」
「ええ、なんでも火急な要件だとか」
「ふむ、急ぎというのであれば行ってやろうではないか」
「まぁ、急ぎでなくても行かねばなりませんけどね」
―――――――――――――――――――――――――――
ーーーコンコンコンコンーーー
「入れ!」
「ドラムです。呼び出しに応じで参りました」
「よく来てくれたドラムよ、早速だがこれを見てみろ」
「?……わかりました。リーリャもほれ、読んでみろ」
「これは……」
そこに書かれていたのはダークエルフからの嘆願書で……
おん?ダークエルフ……嘆願書……嘆願書ねぇ……
「魔王よ、これはいつ来た嘆願書だ?」
「……3週間前だ!」
「3週間前だ!じゃないだろう!俺が暇をもらってる間何も手をつけなかったのか!?」
「仕方があるまいて、対処のしようが無かったのだ」
「おい!クソ親父!まがりなりにも魔王だろうが!部下の嘆願書の処理くらいちゃんとやったらどうなんだ!?」
「……ドラム様落ち着いてくださいませ」
「左様でございます若様。これには山よりたか……ゴホン、それなりの事情がありましてな」
「……セバスか、事情とやら聞かせてもらおうじゃないか」
セバスが言うには、魔王領の北方の山岳地帯にはダークエルフの集落があるそうだ。その山岳地帯は何かを作れるような環境にはない土地だったが、ダークエルフはその魔法の力を持って人類と戦う事で傭兵のような役割を持って生活をしてきたらしい。
それが、ここ最近になって人類との争いは激減。収入も減り、魔法を使って他の種族の農作業や土木作業を手伝ってきたが、その作業も落ち着いてしまい人手が余っているとの事だ。
働きたくても働く場所が無く、収入もない為集落は極貧状態。このままでは集落として維持できないから助けてほしいという思いで魔王の元に文を送ってきたのだと言う……
「めちゃくちゃピンチじゃねぇか!!3週間も放置って何してんのマジで!!」
「我もなんとか手を尽くそうとは思ったのだ」
「若様……その通りでございます!」
「だったらなんで今こんな状況に「若様が予備資金を使い切ってしまったからでございます」……あっ……」
「……まぁ、魔王軍にも色々事情があるからな、うん。さあ、それで魔王よ、俺は何をすれば良いのだ?」
「ドラム様……」
俺には魔王を責める資格は無かったのかもしれない……あれやこれやと小遣いをねだり、種族の危機に回すお金を使い切ってしまったのだから……
だったらこの俺の持ちうる前世知識でもなんでも活かしてダークエルフを助けてあげようじゃないか
「……まぁ、細かいことは置いておいてだな、ドラムよ、ダークエルフの集落に行き、現状をしっかりと把握した上で力になってやってほしいのだ!」
「かしこまりました!すぐに向かいます!!さぁリーリャも共に行くぞ、すぐ行くぞ!!」
「……ドラム様…………はぁ……」
リーリャのじっとりとしたため息を聞こえないふりをしながらそそくさと魔王の部屋から出ていく。
「ドラムはうまくやってくれるだろうか……」
「若様ならきっと大丈夫でございますよ。ゴブリンやオークからも活躍は聞き及んでおります」
「あら、ドラムは行ってしまったのね……」
「ツヴァイか……ドラムになにか用事でもあったのか?」
「ラースを下したって、聞いたからそろそろ私とも真剣にやり合っても面白いかと思っただけよ」
「ほう、それは若様も喜ばれると思いますよ」
「そうかしらね」
こうして俺の知らないところで次の地獄の訓練と対決が始まろうとしていた。
――――――――――――――――――――――――――
そんなことになっているとは欠片ほども思っていない俺は珍しく全力の高速飛行をしてダークエルフの集落に到着したところだった。
「ドラムだ!ダークエルフの代表はいるか!?嘆願書の件で来た!」
「……これはドラム様。ようこそおいでくださりました」
「魔王の対応が遅れてすまんな」
「いえいえ、構いませぬよ。こうしてドラム様が来てくださいました……今や魔法しか才能のない弱小一族ですから、置いておかれても文句は言いませぬ」
「そんなことを言うもんじゃないぞ……同じ魔王軍の仲間ではないか!」
「ありがたきお言葉……そのお言葉だけでも我ら皆が救われます……」
うーん……これは思ったよりもヤバい状況だなぁ……
貧しさも相まって完全に卑屈な精神になってしまっている……これを立ち直らせるのはなかなか骨が折れそうだ
「まずはここでの生活や取れる物について教えてほしい」
「かしこまりました……そうですねぇ……まず、ここで収穫できるのは、わずかな麦と豆がくらいなもので、生活は住居兼倉庫に洞窟を使っている形です」
「む?麦は小麦か?あと豆も見せてほしい」
「はい、おそらく小麦と言われているものかと思います。それと、豆はこちらです」
「!!!これは……大豆だな!!まさかこんなところでお目にかかれるとは……」
山岳地帯とはいえ、そこまで標高の高くない所だとはおもっていたが、生育ギリギリの環境と言った具合だったのか…
これなら海から塩を持ってくれば……醤油が作れるかもしれない……
「リーリャ!塩はあるか?」
「備蓄していたものはあるはずですが、あまり大量には使えないかと……」
「ならば作るしかないか……塩を海水から作ればにがりもできるか……なら豆腐やら湯葉なんかも……ブツブツ」
「あの……ドラム様?一体何が?」
「ダークエルフよ、お前たちには我の求める究極の調味料、醤油の生成と豆腐の生産に励んでもらいたい」
「醤油と豆腐?……ですか?」
「そうだ、この調味料が作れれば世界の覇権を取れるといっても過言ではない。これを主軸にさまざまなところと商売もできるようになるだろう。そして豆腐は醤油との相性も良く、幅広く使える食材だ」
「なんと……そのようなものが……」
さあ、ダークエルフが飢えないように豆腐や醤油の作り方を伝授していこうではないか!