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第6話 オークの悩み後編

「おお!良い感じに米が乾燥したではないか!」

「葉も枯れてきて実は少し硬さを残している良い具合になっているかと思います」


 質の悪い年の種もみと言われていたが、想像以上に実もしっかりしていた。これは来年は種もみを買い付けなくても問題なさそうなレベルではある……


「これの一部は種もみ用として傷が付かないように丁寧に仕分けて保管するのだ」

「かしこまりました」

「残りのものは脱穀という作業をして一気に実の部分と葉を仕分けていくぞ」

「脱穀……ですか?」

千歯扱(せんばこき)というものを使って稲穂をこちら側に引っ張ると、実だけが向こう側に落ち、葉や茎はこちら側に残るといった具合だ。さあ、一気にやってしまうぞ!」

「「かしこまりました!」」


脱穀さえ終われば後は籾摺りさえ終われば玄米として食べる事ができるからな……だが最初の一口は精米した白米で食べたい気もする……

 ま、今回はオークのダイエットのためだからな、玄米で食べるとするか。


「ドラム様!終わりました!」

「流石のスピードだな……その鍛え上げられた筋肉と持久力……もはやダイエットは必要なさそうだが……」

「いえ、ドラム様がここまで道を示してくださったのです!最後までやらせてください!!」

「お前たち……」


 魔物の上位存在への忠誠心というのか、純粋さというのか、とても嬉しく思うと同時に恐ろしくも思えてくる……きっとこいつらならブラック企業でも立派に勤め上げていけるんだろうな……そう思うと仲間として大事にしてやりたくもなるもんだ。


「いよいよ最後の行程だ!脱穀の終わった実の周りについた殻を落とす籾摺りを行えば後は食べられる状態になるぞ!」

「……ゴクリ」

「籾摺りは簡単だ、このすり鉢の中に実を入れて、この少し柔らかな棒で実を擦り上げるのだ。そうすると殻が外れて中に落ち、殻は上の方に溜まる。風魔法で殻だけ吹き飛ばし、玄米だけをこちらの容器に移し替える……この繰り返しだ!」

「「かしこまりました!!」


 こうして魔王軍初の玄米を手に入れる事が成功した俺と手の空いているオーク達は食事の準備を始めることにした。

 今回は魔王軍初の和食ということで、『一汁三菜』のバランスを意識した上で吟味に吟味を重ねた珠玉の定食を作ろうと思ったのだが、色々あって挫けたので簡単なもので済ます事にした。

 オーク達にこの和食に合うものを今後は考えさせても良いかもしれない。


お米を炊くための準備を整えて、汁物の出汁を取っていく。この出汁はだし巻き卵とも併用するため、しっかりと時間をかけて出汁をとっていく。


「お前たちは、この土鍋に玄米を入れて水に17時間漬けておいてくれ」

「17……17時間ですか……」

「酵素阻害毒というのが種にはあるからな、念の為の処理だ。つけおいた水は3〜4回入れ替えて、そこから炊き上げる」

「食べるのにもかなりの時間がかかるのですね……」

「玄米をさらに擦れば精白米の状態になってそこまで漬け込む必要はなくなる。そして味も格段に良くなる。いずれそちらも試してみると良い」


  こうして蛤のお吸い物やだし巻き玉子、旬野菜のサラダなどの料理に必要な素材を集める事で時間が経過して行った。


「玄米の処理が終わりました!」

「よし、炊き込むぞ!米を炊く時には水加減と火加減が重要だ!しっかりと覚えておけ!」

「「かしこまりました」」

「米を土鍋に入れて均等に整える。そして指の第一関節程度……オークなら爪の中ほどだな、まで水を注ぐ。

 その後氷魔法で氷を2欠片ほど入れ、蓋をして火をつける。

 この鍋であれば、最初は強火、蓋から蒸気が噴き出てきたら弱火にする。

 蒸気が弱くなったら少しだけ火を強め、30秒ほどで火を止める。

 10分蒸らしたら、蓋を開けてかき混ぜる……これで完成だ!」

「ドラム様。指示通りに他の料理も完成致しました」

「わかった!では全員に配膳するぞ!」

「「ようやく完成ですね!!!」」


いやはや、今回の件はオークのダイエットの悩みから始まったがかなり大掛かりな時間と作業がかかってしまった……いずれ味噌や醤油などを作ってしっかりとした和食を食べさせてあげたいが、今は我慢してもらおう。 

 

 「と、言うわけでこれが今日からお前たちが目指すべき健康な食生活スタイル『和食』だ」

「……ゴクリ」

「美味そうだろう……だがこれはあくまでベース。本当であればもっと極めたものを食べさせてやりたかったのだが、材料が揃わなくてな……すまん……」

「ド、ドラム様……訓練で我々を鍛え上げるだけで無く料理まで振る舞ってくださるとは……我らオーク一族にとってこの上ない栄誉でございます!!」

「良いのだ!同じ魔王軍の仲間ではないか……堅苦しいことは抜きにして、同じ飯を食べてこれからも一緒に頑張っていこうではないか!」

「「はい!!」」


 ーーーーガツガツガツーーーー

 オークの舌には和食はかなり好評だったようで、あれだけ炊いた米はすでになくなり、あちらこちらからもう一度食べたいとの声があちらこちらから上がってきている。


「お前たち、ダイエットに良い主食として紹介沙汰が、いくらでも食べて良いわけじゃ無いからな!」

「しょ、承知しました……」

「米の栽培や収穫の件についてはお前たちに一任する。好きに育てよ!出来上がったものは、一部だけ我のや屋敷に納めてくれれば良い」

「「必ずお届けに上がります!!」」

「ではこれにてオークの悩みは一旦解決だな!!」

「お見事にございます」


 ―――――――――――――――――――――――――――

 2週間に渡る暇もいよいよ終わり、屋敷に戻ってきてしまった。

 つい先ほどここを出て行ったのになんだか久しぶりなような気もしている。


「今回はなかなか有意義な悩み事だったなぁ」

「途中投げやりになられた時ばどうしようかと思いましたが……」

「まぁ、あれはあれで必要な事だったのだ」

「左様でございますか」


「ではドラム様……2週間経ち、屋敷に戻られましたので訓練といたしましょう。

「な……ん……だ……と……」

「魔王になるためには必要でございます」

「くっ……」


 こうしてまたいつもと変わらない1日が始まっていく。

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