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第5話 ドラムの悩み 汁物も求めて

訓練が無かった翌朝というとはこうも清々しい目覚めなのか……そして今日も訓練がなく、自由に過ごして良い……あぁ、これだ……この生活を求めて俺は今日まで生きていたんだぁ〜……


「ドラム様、お屋敷にひとまず戻って参りましたが、本日はいかがいたしますか?」

「リーリャ……そんなことより我はこのゆとりある生活を続けたいと思う。そもそもこの感情を知るために我は訓練をしてきたのかも知れない」

「いえ、魔王になるためです」

「……そうだったのか」

「そうです。」

「くっ……仕方ない。魔王になるまでこのゆったりとした生活は少しだけ先送りにしてやろう」


 将来目指す生活の一端に触れる事が出来ただけでも良しとしよう。

 今日は魔族領での魚取りと、あるものを探すのを同時に行いたい。もうそろそろ1週間になるからな、ここらで和食メニューを決めていきたい。


「リーリャ、海と川の混ざる場所に行きたいのだが、心当たりはあるか?」

「そうですね……北東方向に大きな川が流れているので、そちらの河口に行くのはいかがでしょうか?」

「ではそこに向かうとしよう」

「何か目的の品があるのですね?」

「色々と考えたのだが、汁物といえばこれが良いかと思ってな」

 ―――――――――――――――――――――――――――


「というわけで河口に着いたわけだが、目的のものを探す前に魚を確保する為の定置網を仕掛けようと思う」

「定置網……ですか?」

「魚は壁に沿って泳ぐという習性があるからな、進行方向上に斜めに網を立てていき、最終的に出られないように囲むことで労力を掛けずに魚を取る事が出来るのだ」

「なるほど……獲物の生態を逆手に取り利用するとは久しぶりに叡智の一端を見られたような気がします」

「おい、久しぶりとか言うんじゃない!」

「事実ですから」

「くっ……」


 確かに転生前の知識を持ち込んでいるだけで俺が1から考えた事じゃないだけに何も言えないのだが……


「さっさと始めるぞ!」

「かしこまりました」

「ここはあまり入り組んだ地形や湾のようなものが無いからな、離岸流のある場所をポイントとする。あとで海岸線を南に下っていき、入り組んだ地形のあるポイントにも仕掛けるぞ」


こうして魔法で作り出した柱と網を組み合わせて簡易的な定置網を設置する事が出来た。

 潮の満ち引きの関係なども影響する為、2日ほど様子を見ることにしよう。


「さて、いよいよ本命だ……」

「……ゴクリ」

「アサリか蛤を掘るぞ!」

「アサリと蛤とは何ですか?掘ると言うと地面にいる虫か何かですか?」

「貝だ貝!!少しまて……ほれ!これだこれ!」

「この石みたいなのを集めれば良いんですね?」

「そうだ!こう言う砂に小さな穴が空いているようなところの下にいるからな、丁寧に掘り出して欲しい」

「ドラム様……魔法使いましょうよ……」

「えぇ……潮干狩りは効率じゃなくて掘るのを楽しむ物なのに……」

「じゃあ私はあちらで魔法で掘りますので、ドラム様はその右手に持っている爪のような物で掘られてはいかがでしょうか?」

「……それはなんかいろいろ違うと思うぞ」


 まだ見た目は10歳の子供?かも知れないが、中身は35歳だぞ……なにが悲しくて1人で潮干狩りをして収穫量でも負けなければいけないんだ……


「ちなみにこのザルに乗せた時に落ちるサイズの貝は収穫禁止だ」

「だったら、なおさらそのサイズで地下で構造を固めてから持ち上げれば欲しいサイズのものが一気に収穫できますが……」

「我は風情も大切にしたいのだよ」

「左様でございますか……」

「始めるぞ!」


 そう、定置網を仕掛けてる手前言えたことでは無いが、漁業を始めたいわけではないのである。あくまでも美味しい和食を食べる為に少しだけ採りに来たのだ。


「まぁ、こんなものだろう」

「ようやくですか……」

「なんだかんだオーク達の分もと考えたら意外と多くなってしまっただけだ」

「だから最初から魔法でやればよかったのに……」

「……ごほん、とにかくだ、砂抜きもしたいからここの海水も貝が浸かる程度に汲んで持っていくぞ」

「かしこまりました」


 こうして和食の汁物……『あさりの味噌汁』の材料を手に入れた訳なのだが……味噌汁……ん?……味噌!?


「リーリャ、緊急事態だ、味噌が無い!!」

「味噌……ですか?」

「味噌汁に味噌がなければもはやただの汁!!これはまずい……」


 あさりをここまで収穫した以上無駄にはできん……あさりの酒蒸しや佃煮を副菜に加えてもいいが、それは妥協も妥協!

 我の腹は味噌汁を求めているのだ!諦めきれん……だが、味噌がこの世界に無ければ年単位での時間が必要になる……くそ!!盲点だった!!


「ドラム様、すごい顔になってますよ」

「グギギギギギ……」


 ―――――――――――――――――――――――――


 結果としてこの世界にはまだ味噌と醤油が存在していなかった。俺の和食文化には欠かせないアイテムが大きく欠けてしまっていた……

 つまり、どうやっても初めての和食は成功しない試みだったのである……涙が出そうだ……2週間も暇をもらったのに……


「とりあえず、あさりと同時に収穫した蛤でお吸い物を作ることにする」

「すごく投げやりな時の顔になっておりますよドラム様……」

「今回完璧な和食が作れないとわかったらなんだか力が抜けてしまってな……」

「ドラム様……」

「今回の和食は米と塩サバに海藻と旬の野菜のサラダ、だし巻き卵と漬物で完成だ」

「あんなに獲ったあさりはどうするのですか?」

「後日酒蒸しにでもするさ……醤油が無いからなんか足りないような気がする……というクオリティになると思うがな!」


 自分の計画性の無さが嫌になってくる……計画も立てずに書斎に潜り込み地獄の訓練を受けることになり、今回は自分がやりたいことすら実現できないと来ている。

 それもこれもあのハゲジジイ神の所為だ!許せん!!


「こうなってしまっては仕方がない。気がつけば明日で2週間だ、オーク達のために食材だけは集めていくぞ」

「……かしこまりました」


――――――――――――――――――――――――――


「と、言うわけでこれが今日からお前たちが目指すべき健康な食生活スタイル『和食』だ」

「……ゴクリ」

「美味そうだろう……だがこれはあくまでベース。本当であればもっと極めたものを食べさせてやりたかったのだが、材料が揃わなくてな……すまん……」

「ド、ドラム様……訓練で我々を鍛え上げるだけで無く料理まで振る舞ってくださるとは……我らオーク一族にとってこの上ない栄誉でございます!!」

「良いのだ!同じ魔王軍の仲間ではないか……堅苦しいことは抜きにして、同じ飯を食べてこれからも一緒に頑張っていこうではないか!」

「「はい!!」」


 

「……ダメですよドラム様、めんどくさくなって色々とすっ飛ばしては」

「……なんのことだ……」

「『おお!良い感じに米が乾燥したではないか!』から今まで本来ならどれだけの文字数……ゴホン、時間があったと思っておられるのですか?」

「リーリャ……何を言っている?お主も共にずっと体験していたでは無いか……それではダメなのか?」

「ダメですよ」

「……くっ、、仕方があるまい……少しだけ回想とやらを挟んでやろうではないか!!」

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