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第3話 オークの悩み中編

オークのダイエット……いや、俺の地獄の訓練パート2が始まってから1ヶ月が経とうとしていた……

 最初の1週間はなんとか対応出来ていたが、オークが訓練により若干痩せ始めた2週間ごろから訓練のレベルが悪魔的に上昇した。

 あの巨体が筋肉量の増加により俊敏な動きをする様になり、魔物の本能でもある上位に立ちたいという欲望を全面に出して襲いかかってくるのだ……もはや手加減などしていられない。

 そうこうしているうちに俺も一つ殻を破り、いまではオーク程度の攻撃では傷一つつかず、ラースの攻撃も不意打ちでなければ大したダメージを受けない程度には強くなっていた……


「俺は一体何を目指しているのだろうか……」

「魔王です」

「リーリャ、俺はそういうことが言いたかったんじゃ無いんだ……」

「ところでドラム様、稲作の件でオークから報告があるとのことです」

「む、聞こうじゃないか」


 何故オークが訓練にあんなにも積極的だったのかと思っていたが、そもそもがダイエット、そして米の成長待ちの為だったな。

 この件が片付けばオークも森に帰ってくれるだろう……いや、なんとしてでも帰らせるのだ!もう筋肉密度の高い集団に囲まれた訓練など真っ平だ!!


 ーーーーコンコンコンコンーーーー

「入れ!」

「ご報告に参りました!ドラム様、ようやく米粒から生えた緑の葉が硬くなってきました!」

「そろそろでは無いかと我も思っていたところだ。ちょうど良い、現地に行き、米づくりを次なる工程へと進めていこうではないか」

「ようやく食べられる様になるのですね!」

「いや、まだ半分にも達してない……」

「そ、そうでしたか……」

 ―――――――――――――――――――――――――――


「ほう、なかなか良い成長具合ではないか」

「ありがとうございます」

「このくらいであれば次の段階に進めるだろう……」

「……ゴクリ……」

「次は土地全体が浸かる程度に水を張る(しろ)かきを行う!」

「代かき……ですか」

「土が水を吸って柔らかくなり、3日ほど置いて土が落ち着いてから田植えを行うのだが、我らには魔法がある……水を吸わすのも土を落ち着かせるのも簡略化してしまおう」


 あまり土地の深くまで柔らかくなると田植えの際にオークが自重で沈んでしまうので、程よい程度で抑え、下には固い層を作っておくか……ほいっと!

 

「……こんなものかな」

「流石でございます」

「さあ、田植えを始めるぞ!」

「「おーーー!」」


 この辺りも魔法を使って短縮可能だが、体を動かさねばダイエットにはならないからな、果てしない数量だが頑張ってもらおう……


「おおよそ2〜3本を1束として、1束ごとの間隔は21センチ程度空けて植えていく!」

「狭くしたり1本ごとにしてはいけないのですか?」

「間隔が狭いと成長した時にお互いが干渉し合って実りが悪くなるそうだ。2〜3本なのは1本で植えてもうまく成長すれば問題ないが、何かがあってその1本がダメになると農地面積辺りの損失がデカくなるからだ」

「なるほど……何かあった時にも常に備える……流石でございます」

「特に今回は初めての田植えになる。安全を期した方がいいだろうな」


 前世の知識でカバーできる範囲の疑問で収まってくれて良かった……いずれは1本植えや株あたりの間隔を少しだけ狭めて収穫量を増やしてもいいかもしれないがな……


 ―――――――――――――――――――――――――――


「ドラム様、作業が終わりました!」

「速くないか?」

「そもそも中腰で歩くことに抵抗がないらしく、ものすごい勢いで田植えをしてましたね……私の見立てではドラム様の3倍のスピードは出ていたかと思われます……」

「あ、そう……」


 まぁ、おれは食べる専門でありたいからな、別に田植えが遅くたって構わないさ……そう……構わないのさ……

 どことなく魔物としての負けたくないという気質がビリビリと刺激されているが、餅は餅屋ということで抑えておこう。


「作業ご苦労だった」

「「はっ!」」

「これから先は稲穂を育てる段階だ……管理を怠るな!」

「分かりました……が、具体的にどうすれば良いのでしょうか……」

「とりあえずは田んぼの中に雑草を見つけたら抜いていくことだ!そして、稲の様子を気にかけてくれ、特に斑点状に葉が傷んだり、稲に虫が付着していたら気をつけてくれ……稲穂が全滅する可能性がある!」

「ぜ、全滅……ですか」

「我は屋敷に戻らねばならんからな、管理は任せることになる。わからないことや異常が発生したら直ちに報告にくるのだ!」

「かしこまりました!」


 この世界で発生する異常にどの程度対応できるのか……一度屋敷の書物だけでなく人類圏の書籍でも確認しておきたいな……俺は和食実現のためなら労力は惜しまんぞ!!

 

「稲が定着したら水量を少し減らし、稲穂の数を増やしていく。稲穂の数がピークを迎えたら一度水を抜いて地面を乾かす……そしてまた水を入れる……そして乾かすという作業を繰り返す。穂に花ができたら浅く水を張り、実ができたら熟す前に一度報告に来い」

「「はい!!」」

「初の試みだからな、失敗は付きものだ。ただし、報告を怠ったり確認を怠ったことで発生する失敗は許さん!心せよ!!」

「「はっ!!」」


 こうして米づくりはまた新しい段階に進んでいく。

 ―――――――――――――――――――――――――――


「リーリャ!」

「はい、ドラム様……ご用でございますか?」

「父……魔王の元に行くぞ」

「かしこまりました……先ほど確認して参りました、本日の魔王様のスケジュールですとあと30分後から1時間程度はフリーとなっておりますので、そのタイミングがよろしいかと……」

「流石リーリャ……優秀だな」

「もったいないお言葉にございます」


 屋敷に戻り、リーリャに声をかけると先回りして魔王のスケジュールを確認してくれていた……そう、リーリャは優秀なのだ。こちらの動きの一歩先を読む様な準備や気遣い、そして俺の死角を埋める様なポジション取り。リーリャと行動を共にしている場合にはあのラース相手でも完封できるほどの戦闘におけるサポート能力も有している。

 そして何より可愛い……そう、可愛いのだ……このむさ苦しい男共と異形の存在しかいない屋敷の中では唯一癒しと言える存在なのだ


「お前と出会えたこと感謝せねばならんな……」

「ありがたき幸せ……ドラム様に拾っていただいたこの命、尽きるまでお仕え致します」

「ふっ……期待しているぞ(歓喜)」


 リーリャと俺の出会いはいずれ語るとして、今回は魔王に話をつけて2人で人類圏に散策しに行きたいのだ。

 ……あれ、これって仕事って言い張ってデートしに行くみたいな感じ?

 ―――――――――――――――――――――――――――


「魔王様……よろしいでしょうか」

「む、リーリャか、入れ」

「俺も邪魔するぞ……」

「ドラムも来たのか……リーリャに言伝を頼むでもなく本人が来るとなると……重要な要件なのだろうな」

「ああ……現在魔王軍の食糧事情の改善の為にオークと共同してある施策を実施している。その施策を進めていく上でこれから起こりうる問題の芽を摘む為に一度人類圏に向かい、必要なものを仕入れてきたいのだ」

「ふむ……だがドラムよ、お主屋敷を抜け出してちょこちょこ人類圏に潜入しているだろう。何を今更許可を取りに来ているのだ」


 あれ、思ったよりも行動が筒抜けなんだが……なんでバレてるんだ?

 そう思ってリーリャの方向に視線を向けると彼女は首を横に振る……リーリャじゃ無いとなれば……セバスか……あのジジイめ、ストーカー気質はやめて貰いたい。


「んん……そこまでバレていたのであればもはや前置きは不要だな……ゴホン……端的にいうぞ魔王……いや父上……」

「……ゴクリ……」

「お小遣いをください!!!」


 ーーーシーン……ーーー


「はぁ……ドラム様……」

「あ、あれ……なんだこの空気は……」

「……ドラムよ……今月に入ってから支給した6000ガルドはどうしたのだ?」

「施策の一環で5000ルドラに換金して使い切りました……」

「……我が魔王軍の資金は潤沢では無いのだぞ、その施策とやら、そこまでの価値が本当にあるのだろうな?」


 ギロリと鋭い視線でこちらを睨む魔王に少しだけ威圧される。そう、6000ガルドとは、魔王軍の年間予算が50万ガルドということを考えると1人に渡す金額としては破格の支給額なのだ……というか、魔王軍が貧乏すぎる……

 いつか人類に国ごと買われてしまうのではないかと心配になるレベルだ……


「もちろんだ!全ては魔王軍の再建の為!お父様、お願いします!!(キラキラした眼差し)」

「……で、いくら必要なのだ?」

「5000……いや、4000ガルド以内で抑えて見せます!」

「……仕方ないな……今回だけだぞ(10回目)」

「ありがとうございます!!」


「……親バカですね……」

「リーリャ、それは言ってはいけない……」


 ―――――――――――――――――――――――――――


 こうして予算を無事に確保した俺たちは人類圏にたどり着いた


「いつも通りここからは変身魔法で行くぞ」

「かしこまりました」

「目的は稲作に発生する問題とそれに対する解決策が明示してある書物。あとは勇者の残したアイテムに関する手がかりや、持ち込む際に必要な身分証だな」

「冒険者か商人あたりが無難でしょうか」

「そうだな……そちらに関してはリーリャに任せる。あまり時間もないからな、手分けするぞ。そして軍資金はお前が持っていくと良い」

「はっ!大切に使わせていただきます。ドラム様は資金もなしで大丈夫なのですか?」

「ふっ、俺は奥義、『立ち読み』を使うから問題ない!」

「……次期魔王が無一文で本屋で立ち読み……涙が出てしまいます……」

「……まぁ……仕方があるまい……それに変身してるから俺だとバレないだろ……」


 ―――――――――――――――――――――――――――


「ほうほう、基本的な伝染病や害虫は日本と変わらない……か」

『ジトー……』

「ほう、人類圏ではそれぞれに名前が付けられるような形のブランド米はないが、南部の一部で良質な米が取れると最近話題になっていると……」

『ジロジロ……ジー』


 米について熱心に調べているとどこかで見覚えのある店員からめちゃくちゃ視線を感じる……

 だか人類に知り合いなど……あ、捕虜だ、捕虜にしたパーティの女の子だ。だがここでその時のことを話すわけにもいかないから気を遣ってるんだろうな……ここは俺の方から颯爽と話題を出してコミュニケーションを取るべきだろう、そうだろう!


「ふっ、こんなところで会うとは奇遇だな……」

「誰ですか貴方、長時間の立ち読みはやめてください。出禁にしますよ」

「っ……す、すいませんでした……」


――――――――――――――――――――――――――

「で、こうして追い出された挙げ句、行くあてもなく公園で黄昏ていたと……」

「だってあんなバッサリ言われたこと今まで無かったから……」

「はぁ……そもそもドラム様の前回と変身した姿が今回と違うんですから相手が気づくわけないでしょう」

「……はっ!!!」

「魔王軍の叡智とは一体……」


 こうして無事に?米に対する知識をタダで手に入れることに成功した俺は気持ちを切り替えて颯爽と屋敷に戻るのであった。

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