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第2話 オークの悩み

「ドラム様。本日も悩める魔物が叡智を求めて謁見に来ております……」


 さて、今日も今日とて悩める魔王軍の同僚の相談を聞く1日が始まった。


「構わん、通すが良い……」

「かしこまりました」


 ーーーーコンコンコンコンーーーー


「入れ」

「失礼致します。」

「オークか、普段森に居るというのに屋敷に来るとは珍しいな……何かあったのか?」

「ドラム様お忙しいところお時間をいただきありがとうございます……実はですね……」


――――――――――――――――――――――――――


「なるほど……残すところは残した上で痩せたい……だと?」

「そうなんです……オークといえばデブで鈍重。魔王軍ではそう認知されていますが、私たちだって乙女なのです。やはりデブやノロマと言われれば傷つきます……」

「……そうか………………そうだよなぁ……」


 オーク=人型の豚=デブ

 俺も前世のゲームやアニメの知識をベースにしていたから違和感なく受け入れていたが、当の本人としては気になる問題だったということか……


「それに……国境線を彷徨う人間が話すのを聞いたのです。太っていると生活習慣病?メタボリックなんたらなるものになりやすくなると。聞き慣れない名前の病ですが、命を蝕む恐ろしい病気なんだとか……」

「メタボリックシンドロームか……」

「さすがドラム様、すでにご存知でしたか!?」


 いや、うん……知ってるというか……なんといえばいいのだろうか、オークっていうか、魔物って生活習慣病になるのか?

 というか冒険者国境線でなんの話してんだよ、体が資本の冒険者が生活習慣病とか患ってんじゃねーよ……適度な運動と体調管理はお前らの仕事みたいなもんだろうが……


「人類はな、酒を飲みすぎたり食べすぎたりすると太る。そして太って体に脂肪が多くなると血液の巡りが悪くなって血管が詰まって死んでしまったり、体の中に糖分が多くなって内臓の機能が低下して病気になったりするのだ」

「……それは……魔物でも同じなのでしょうか……」


 太っていることがアイデンティティのようなオークが今更肥満で怯えているのはなんだか見ていて忍びないな……

 

「俺は治癒魔法師でもなければ魔物の医術に詳しいわけでもないから詳しくはわからんな……ただ個体によって体重が変わるのであれば過度に太っている状態は人体と同じく何かしらの影響を与えている可能性はある……かもしれない」

「それって……」

「リーリャ、オークの平均の寿命ってどの程度だ?」

「昨今の魔王軍管理簿の状況によりますと……おおよそ40〜50年ほどかと」

「……短いな……」


 他の魔物のが少なくとも100年以上は生きることを考えると短すぎる……オークに恩を売っても俺を敬っている個体が他の種族に比べて早めにいなくなってしまうというのはコストパフォーマンスがよろしく無い。

 俺は俺に感謝をして忠義を尽くす個体達にチヤホヤされながら死んでいきたいのだ。これは早々にオークの体質改善、そして健康寿命を伸ばさなければならない。


「よしわかった。これよりオークを健康的に、より強く!そして誰もが憧れるグラマラスなボディに仕上げるぞ!」

「「はっ!」」


 まずは食生活と運動量の見直しだな……


「オークは普段森で生活していて何を食糧にしているんだ?」

「そうですね……個体によって違いはありますが、主にトウモロコシを主食に、サトウキビなんかも食べたりしています。後はたまに取れるイノシシの肉も食べています!」


 ……圧倒的な糖と脂質を摂取する生活……これは人だろうが魔物だろうが太るだろうな……

 というかイノシシは割と種族的に近いから共食いっぽくなると思うけど抵抗感は無いのね……


「まずは主食はトウモロコシから離れるべきだな……代替えの主食で太りにくいもの……ここはやはり米か……」

「米?ですか……」

「我々魔族には馴染みがない食物だがなかなか美味い。特に玄米という段階で食べると食物繊維が豊富だから満腹感も長く続く。味を追求するなら精米が必要だがな……ともかく、タンパク質は肉や卵から摂取して汁物などを加える一汁三菜の食生活を取り入れるぞ!」

「……よくわかりませんが、ドラム様の仰せのままに!」

「まずは米を作ることができる土地かどうかの確認だな……現地に行くぞ!」

「「はっ!!」」


 このオークの食生活の改善が上手くいけば念願の和食を食べることが出来るかもしれない!魔族は基本的に大雑把な調理しかしないからな……

 ダイエットの為だという大義名分の元しっかりとした料理の育成も同時に行える……うむ、完璧だな!!


 ―――――――――――――――――――――――――――


「ほう……これがオークの生活圏か……」

「ただの森とトウモロコシ畑、そして川から水を引いた貯水池……面白いものがなくて申し訳ありません……」

「いや……素晴らしい!水温も程よい、少し勾配のある土地、まさに米づくりのための土地と言っていいだろう!」


 米づくりに必要な工程は多岐に渡るが大きく分けると5つ……

 1.土づくり

 2.苗の準備

 3.田植えと稲穂の管理

 4.追肥や水抜き

 5.収穫

こんな感じだったはずだ……


 前世では土づくりにはかなりの手間がかかるが、この世界には魔法がある。イメージさえ固まればそう難しく無い。まずは見本を見せるべきだな……そら!!


 ーーボコボコボコボコーー

 

「さすがドラム様……一瞬で土地の姿を変えてしまうとは……」

「これが米を作るのに適した土壌だ。この程度では収穫できる量はさして多く無い。この形を参考に土地を開墾して行ってくれ」

「かしこまりました」


 次は稲の準備だな……こればかりは人類圏から持ってくるしか無いが、ここは国境線も近い。……変身魔法でチャチャっと済まそう。


「すまないが米の種を仕入れてくる。しばし開墾しながら待っているが良い」

「はっ!」


 オークの土地……あれだけの大きさがあれば定期的に米をこちらに回してもらえるほどの量が収穫できるだろうな……

 期待に胸が熱くなるぞ!!さあ、人類よ!米を寄越せ!!

 ―――――――――――――――――――――――――――


「種もみが無い……だと!?」

「は、はい……この辺りの作物はトウモロコシや小麦が中心でして……南部に行けば米を作っていますが、時期的に種もみがあるかは……」

「くそ!そういうことか!!」


 人類圏は魔族領と違い気候が安定している……いや、安定しすぎている。その為季節によって行動がきっちりと決まってしまう……盲点だった……


「だが俺は諦めぬ!一度和食の腹になってしまったのだ!来年までお預けなんぞ我慢できるわけが無い!!」


俺は人目につかない路地裏で隠蔽魔法に切り替えて人類圏の南部へ高速で移動した……


――――――――――――――――――――――――――

 

「種もみ……ですか……」

「この際、質はある程度妥協する。とにかく量が欲しい」

「あるにはあるのですが、ここにあるものは生育不良が起きた時のやつでして……」

「構わん!種もみがあればこちらでどうにかしよう!」

「まぁ、こっちも質が悪くても買ってくれるってんなら嬉しいが……いいのか?」

「くどいぞ、いくらで売ってくれる?」

「5000ルドラほどですかね……」

「5000か……まあ、よかろう。ほれ、代金だ。確認してくれ」

「おお、金払いが良い客は歓迎だ!来年も入用なら取っておくぜ!」

「来年の不作に備える必要もあるか……そうだな、よろしく頼む」


 とりあえず種もみが手に入ればあとは塩水洗をして、湯につけて殺菌すればある程度は質の良いものを選べるだろう……

 失敗したら来年は質の良い種もみを買って進めていけばいい!

「さっさと帰って作業開始だ!!」

――――――――――――――――――――――――――


「待たせたな、進捗はどうだ?」

「ドラム様、現在開拓予定地の半分ほどまでは作業が完了しております」

 

 ……え、まじで?種もみ足りるかこれ……


「随分と急ピッチな作業だな……」

「オークの皆がドラム様からダイエットの知恵を授けられたのだから失敗は許されないと張り切っておりまして……」

「……それは殊勝な心がげだな」


 美容、ダイエットとなれば本気を出す……人も魔族も変わらないか……


「オークから何人かこちらに回して欲しい。種もみの選別を行う」

「はっ!かしこまりました!」


 ――――――――――――――――――――――――――


「まずは塩水洗だ、これによって身の詰まった良質な米を選別する」

「これが……お米……」

「一粒は小さいが、味は格別だ。期待すると良い」

「はい!」


 確か……比重を1.13に調整した塩水を用意するんだったな……


「次に薬液に漬けたいが、今は無いからまずは60度の湯に10分ほど漬ける」

「薬液というのは用意が難しいのですか?」

「ああ、いずれ用意できるようにしたいが……薬液を一から作るよりも、サーモシード法という高温加湿空気で殺菌する方が実現しやすいだろうが、まずは特別なことをせずに生育状態を確認したい」

「か、かしこまりました……」


 こちらの世界ではいもち病などが発生するのかは確認しておきたい。生物も若干違うから病害虫が居るのかも未知だ……とりあえずは普通に育成して問題が発生したら逐次対処していこう……


「後は水に漬けて発芽するまで待つとしよう」

「すぐ芽は出るのでしょうか……」

「我も実際にやるのは初めてだからな……正確なことはわからんが1週間程度定期的に確認して欲しい」

「はっ!」

「芽が出たら弱い光に2〜3日当てて芽を緑化させ、硬くなるまで1ヶ月ほど待つのだ」

「そ、そんなに時間がかかるのですね……」

「ダイエットとは時間がかかるものだ。その間は我と共に訓練でもしようじゃ無いか」

「……あの訓練を……ですか?」

「ダイエットには適度な運動も必要だろう」

「適度……ですか……」


 こうして俺は米の育成に着手し、和食実現の道に一歩近づくことができた。

 そして、地獄の訓練に道連れが出来たのも大きな収穫だった……セバスもラースもオーク達がいれば訓練で無茶なことはしないだろう

 まさに完璧な計画だ!!


――――――――――――――――――――――――――


「若様、ではオーク達含め全員で仕掛けますので、死なないように回避しながら適度な反撃をお願いしますね。オーク達を殺してはいけませんぞ!」

「どうしてこうなった!!!」


 本日はラースの渾身の一撃をくらい、脇腹が弾け飛んだ所で訓練は終わった……オークを1体も殺さなかった俺を褒めて欲しい……

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