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第1話 ゴブリンの悩み

ーーーコンコンコンコンーーー

「入れ……」

「はっ……矮小な身の上ながらこうしてドラム様に拝謁できる……」

「礼節は不要だ。俺も次期魔王とはいえ未だ幹部にも至れぬ身だ。良き同僚の悩み……なんでも聞こうではないか」

「ありがたき幸せ……それでは……」


こうして今日も今日とて悩める魔王軍の同僚の相談を聞く1日が始まった。


「なるほど……魔領で取れる野菜の質が年々悪くなっていると……」

「そうなのです……毎年同じ方法で耕作しているのですが……なぜか実りが悪くなっていき、味が落ちたりと……このままでは魔王軍の食糧事情がさらに悪化してしまいそうです」

「それは……由々しき事態だな、ゴブリンだけでなく魔王軍全体で早急に取り組むべき課題だ」

(ただでさえ貧乏なのにこれ以上飯も不味くなるのは耐えられんぞ!!)


同じ土地で同じ作物を育てる事で影響がでる……前世でなんと言ったか……連作障害……?


「一年を通じて同じ作物を作って影響が出るものと出ていないものがあるんだよな?」

「はい、キャベツやナス、トマトなどが影響が大きく、カボチャ、人参、玉ねぎなどは比較的影響が少ないです……」

「やはりか……」

「ドラム様……なにか心当たりが?」

「連作障害……と言ってもわからんか……植物は特定の栄養素を吸収して成長している。同じ場所で同じ栄養素だけが毎年毎回吸収され続けるとどうなると思う?」

「それは……栄養素不足になるのでは?……しかし、他の植物は育つのですよ……」

「栄養素よりも水分や気温がより大きく影響する植物があるように栄養素が大きく影響する植物もあるのだ」

「な、なるほど……」


 やはり実感するのは難しいか……そもそも魔族が野菜を育て始めたのも人類と戦争が終わってからだし……知識不足もあるのだろう。


「まずは畑を4つに分けよ。それぞれの区間に番号を振り、

 ①ナス→サツマイモ→エダマメ→カボチャ

 ②サツマイモ→ソラマメ→キュウリ→トマト

 ③インゲン→カボチャ→ピーマン→サツマイモ

 ④キュウリ→ナス→サツマイモ→エダマメ

というサイクルで4年間育ててみると良い。魔王軍全体に関わることだ……必ずこの形で取り組め!」

「か、かしこまりました!!早速各所に伝えて参ります!!」


 人間と違って魔族は上位と認めた存在の指示にはしっかりと従うからとても動かしやすい。まぁ、その分定期的に躾をしないとすぐ下克上を狙ったりもするのだが……

 早く食糧事情くらい解決して俺が贅沢できるように頑張ってもらいたい。


「流石ドラム様。その素晴らしき叡智はどこからやってくるのでしょうか」

「かつて書物を読んだ時に同じような記述があっただけだ」

「左様でございますか……」


 そう、別にまだ結果も出ていないし成功もしていない。

あくまで連作障害の可能性があるという段階で、取り組ませた事だ。こればかりは結果が出てから喜んでもらいたいものだ。

 ―――――――――――――――――――――――――――

ーーーコンコンコンコンーーー

「今度は誰だ?……まあ良いか……入れ」

「お忙しいところ申し訳ございません。ドラム様の叡智を授けていただきたいことがありまして……」

「なんだ……話くらいは聞いてやる」


 この焦っている感じ……なにかあったのか?


「それが……」

 

「はぁ!?人間を捕虜にした!?」

「え、えぇ……成り行き上仕方なかったと言いますか……」

「仕方ないもクソも無いだろうが!!親父……魔王はなんと言ってる?」

「ドラム様に任せよと……」

「チッ!あのクソが!」


 どうやら魔族領と人類圏の境界線を整備中、冒険者を名乗る集団に因縁をつけられて襲撃を受けたらしい。

 魔王軍は人類との戦争を避けるため敵対を避けてきたが……相手から襲撃されては仕方ないか……だが、どうする?

 このまま解放したところで魔族と戦ったことは人類に伝わる……そうしてある事ない事話されては新たな戦争の火種になってしまう。

 殺して口封じは無しだろう。境界線に来た時点で人類側で何かの依頼があった筈だ……未達成であれば調査のチームが増援として来る。そして戦闘の痕跡を見て魔族とのいざこざを嗅ぎつけられる。

 であれば……あれしかないか……これは久しぶりに楽しいことができそうだ!!


「まずは捕虜の元に行く。お前らも来い!」

「「はっ!!」」


 ―――――――――――――――――――――――――――


「ちくしょう!出しやがれ!」

「そうだ!魔物の分際で人様を牢屋に入れるとかふざけんじゃねぇ!」

「ねぇ、やめなよ……刺激したら何されるかわからないわよ……」

「なにビビってんだよ、魔物なんて所詮雑魚だろ雑魚!」

「でもこうやって捕まって……」

「だから、あれはライガがいたから……」


おお……想像以上に荒れてるなぁ……

 地下牢の入り口に近づくと奥の方から怒鳴り声が聞こえてくる。


「お前たちはここで待機だ。魔物が檻に近づけばさらに過激な反応をしかねない」

「ですが……」

「くどいぞ……だがまぁお前たちの心配もわかる……であればリーリャ、お前だけ着いてこい」

「かしこまりました」


 メイドの1人を連れて地下牢への階段を降りていく。

 階段を降りる最中に変身魔法を使い、リーリャと俺の見た目を人間に変える。


「これがドラム様の魔法……一部の乱れも無い魔力制御……お見事でございます」

「世辞はいい。この程度セバスやツヴァイに比べれば児戯に等しい」

「それは……」

「構わん。あいつらもいつかは越える壁だ」

「流石の向上心にございます」


 魔王直属秘書や四天王最強の魔法使いは次元が違うのだ。

 さて、冒険者たちの事情でも探ってくるとするか……


「やあ君たち……大丈夫かい?」

「誰だてめぇ……」

「嫌だな、そんなに警戒しないでくれよ。君たちを助けに来たんだ」

「あぁ?なんで人間のお前がこんなとこまで拘束もされずに来てんだよ……さては魔物供に魂でも売ったのかよ!裏切り者め!」


 あらら、話しかけただけでこの反応とは……こっちでバタバタしててしばらく放置しちゃったからかだいぶ荒れてるなこれ……めんどくさいなぁ……

 

「違う違う……僕は君たちが拘束されたのを見ていてね、こっそりと後をつけてきたんだ……この牢屋の中から魔物が出ていったからこっそりと忍び込んだんだ……」

「じゃあとっとと出しやがれ!!ほら!!」

「そう大きい声を出さないでくれるかい?……魔物が駆けつけてくれば僕らは逃げることを優先するよ」

「ちっ……静かにしてればいんだろ……」

「協力感謝するよ……それはそうと、なんで君たちは国境線になんて遠征してきていたんだい?」

「なんでそんな事話さないといけねぇんだよ……ほら、さっさと出せよ!」


 あぁ、自分は強くて相手より偉いと思ってる奴は話が通じないからめんどくさいなぁ……この状況で自分側に選択肢があると思ってやがる……


「僕は魔族との争いの火種になるようなことが起きないようにって依頼で国境線を監視していたからね、君たちの話次第ではこのまま見なかったことにして魔族の好きにさせてもいいかと思っている」

「ちっ……俺たちは魔族領に残された勇者のアイテムを探しにきたんだよ」


 ほう……我ら魔族にえらい取引をしてくれちゃった勇者さんのアイテムとな……それが本当なら探し出すのも面白そうだ……

 

「……そんなものが本当にあるのかい?」

「最近になって発見された勇者の手記に記述があったんだよ……王族から本物を見つけた冒険者には願いを一つ叶えてやるって話が出てるくらいだ……知らなかったのか?」

「まぁ、長いこと国境線を移動しながら張り付いてたからね。情報がうまく伝達されなかったんだろうね……」

「わかったなら俺らをさっさと解放しろ!」


 

「……リーリャ、俺が解錠をやるから外の様子を見てきてくれ。魔物がいなければこのまま国境線までこの人たちを送っていこう」

「……わかりました」


 さすが俺のメイドといったところだ、余計な反応をせずに意図をしっかり汲んで外の魔物達を解散させてくれるようだ。


「国境線でいざこざがあったことが両国に伝わると問題も大きくなる。魔族にとっては人類が攻めてきたと思われるし、人類は魔族に人が攫われたと思うだろう。一度国境線まで送るから国に戻って問題ないことを伝えてきてくれ」

「……仕方ねぇな」

「協力感謝する。……ほれ、開いたぞ静かにゆっくりと出てきてくれ」

「……助かったわ……ありがとう」

「どういたしまして」


 国境線まで彼らを送り出し、これで冒険者騒動は一旦収束となった……しかし勇者の残したアイテムね……使い方次第では人類との交渉材料としても使えるか……


「ドラム様なかなか悪い顔になっておりますよ」

「ふっ、魔族は苦境に立たされているのだ。利用できるものはなんでも利用させてもらうさ」


「ほほ、その前に若様は訓練でございますよ……」

「ぐっ……セバス、いつの間に……」

「若様が変身魔法を使った頃からでしょうか」

「ほぼ最初からじゃねぇかよ……覗き見とは趣味が悪い」

「気づかぬ若様が悪いのです。さあ、訓練に参りましょう」

「ちっ、仕方ねぇな……これも仕事だと割り切るか」

「ドラム様、いってらっしゃいませ」

 

――――――――――――――――――――――――――


 今日の訓練はラースが加わり、以前よりも激しいものとなった。

 屋敷の一部が盛大に壊れ、俺の体から出てはいけないものがしっかりと出てしまったということだけ記しておくが、記憶には残さないようにしよう。


 早くだらけた生活を送りたいものだ……

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