緊張
先生の話が終わった
正直思うことはいくつかあるのだが時間も押しており、先生も俺に補佐係をやらせたい思いがあるのか話に応じてくれなかったのでお開きという運びになった
俺の高校の最寄り駅はだいたい徒歩10分ぐらいで到着する
俺はカバンを背負い直すとえっちらおっちら歩を進める
駅にすでに到着していた電車に乗りながら俺は今日あった事を振り返った
しかし、面倒な事になった
ずっとニートで有りたい俺としてはこの仕事の押しつけは痛い
しかも、なんとなくだが月明の奴隷になって終わる気がする
正直バックレたいのだが、如月先生に頼まれた手前なんとなく断りにくい。なんか大人の女性にに頼まれごとをされると断れないどうもぼっちです
まぁ、俺も子供でもないから如月先生が色々と気を回してくれたことを理解しているつもりだし、その気遣いを無碍にしてはいけないこともわかっている
そして月明の話以外にも俺自身のことも絡んでくる
しかし、正直今までずっと一人で過ごしてきたから青春をしてみろ、なんて言われてもわからん
そもそも、青春をしてみろなんて言葉自体が青春というものを規定している感じがしてあんまり好きじゃない
青春なんてものは人それぞれで、ただ世間一般的に異性や友人との交流するイメージが持たれているだけの話なんじゃねえのと思う
そんな事を考えているといつの間にか俺の家の最寄りに到着していた
俺は人混みを縫うように進みながら駅の改札へと足を踏み入れた
今日は先生と話して少し遅くなったこともあり、空に浮かぶ夕日は沈みかけていた
俺はその眩しさに目を細めながら自転車にまたがり、帰路を進んだ
*********
家に帰った俺は適当に勉強しつつ、スマホをぎゅるぎゅるいじって一日が終わった
そんなこんなで翌日だ
俺は手短に支度を終え学校へと向かう
なんとなく如月先生の依頼のことが頭をよぎり、俺はいつもより家を出る時間を少し遅めに設定した
流石にあの依頼を受けた、というか半強制的に受けさせられたあと月明と二人きりになるのはだるい
俺は始業を知らせるチャイムと同時に教室につき、自席に座って、月明の様子を伺った
当の月明といえば一見すると友達と楽しそうに雑談に興じている
あいつ、取り繕う技術は本当に高いな
そんなふうに感心していると月明は何か用事ができたのか、周りの取り巻きたちに一言断りを入れて席を立つ
おそらくまた何かしらの仕事をするのだろう
正直非常にめんどくさいのだが如月先生の言葉だし無視する訳にはいかない。我ながら仕事を断るのは苦手だなぁ
声をかけるか・・・
俺は緊張しながらも、相手にはそれを悟られまいとなるべく表情を崩さないように意識しつつ月明に近づく
「よぉ。なんか疲れてるなら、なんか手伝うぞ」
俺にしては結構まともな文面だったんじゃないか、と我ながら思う渾身の一言を伝えた
しかし、俺の提案を受けた月明の顔は危ないものを見たような表情をしていた
「あら、おかしいわね。私が知る限りあなたはそんな事を自分から言い出すような人間ではないような気がするのですが、一体どういう風の吹き回し?」
そういう月明の声色には警戒の色が滲んでいたような気がした
まぁ、普通に考えて警戒するよな
月明の性格を考えてもバカ正直に補佐係とかを伝えるのはあんまり得策じゃない気がしたけど、俺のコミュ力ではそれ以外のまともな理由など取り繕うことは難しい
なのでありのままを伝えたうえで相手をしてくれる可能性に賭けることにした
「まぁ、実は如月先生の計らいでなんかお前の補佐を担当することになってだな・・・。正直俺もやりたくはないんだが如月先生相手だと断れなくてな・・・」
なんか最後の方は若干情けない感じになってしまったが、別に嘘ではない事実を伝える
如月先生が絡んでいることで納得したのか、はたまた俺の情けない声色で色々察したのか分からないが月明は腑に落ちた様子だった
「なるほど、あなたから進んで始めたという話ではないのね。まぁ、あなたが自分から仕事をするように思えないから当然といえば当然だけれど少し警戒してしまったわ」
俺が自分から仕事をするのはそんなにおかしなことですかね・・・
もしかして俺って結構見下されてるのかな
正直ショックだったけど今更引き返すこともできないのでひとまず目下の仕事に取り掛からなくては
「というかお前今なにしてんの」
俺が手伝いに取り掛かるために放った質問だったが、月明もその意図を察したのか先のように茶化すことなくごく普通に答えてきた
「まずは昨日の数学の授業で先生がチェックしたと言っていたノートの回収ね。そして次に今日の日直日誌を担任室に取りに行く。最後に生徒会室にもよって起きたいのだけれど、これは私しかできないからなしね」
いや多すぎだろ
このクラス他の人はなにやってるんだよ
「いや多くない?っていうか数学とか日直日誌とかは別にお前の仕事じゃねえだろ」
そもそも数学の課題回収は数学係で日直日誌関係は副クラス委員長の仕事だったはずだ
俺はクラスメイトには詳しくないが、仕事は嫌いなのでそういうクラス委員会とかの職種は把握している。なんならクラスメイトより詳しいまである
このクラスそんなに分担できてないのかね
しかしそんな疑問はとうになくなったと言わんばかりに月明は言葉を返す
「仕方がないでしょ、現にその人達が仕事を放棄しているのだから。私はそんな人達を注意するより私が一人で取り掛かったほうが効率がいいと思うからやっているの」
そんな言葉を並べる月明は少し疲れているようだった
しかし、不思議だ
コイツ、普段はあれだけ人と話しておきながら、いざ自分が忙しいときには頼らないのか
まぁ、いつも一人である俺からして見ればできるだけ一人で済ませようとする姿勢は好感を持てるが、仕事に取り掛かるということだけを考えてみるとあまりいい方法とは言えない
流石に俺も一人でやるよりは皆でやる方が効率がいいことぐらい高校生にもなるとわかる
ただ単純に俺がそのやり方があまり好きではないだけだ
俺はぼっちを好んでいるが別にぼっちじゃないやつを憎んでいるわけではない。はず。いや、もしかすると憎んでいるかもしれん・・・
どちらかというと俺の嫌いなやつがたまたまリア充陽キャが多いことにより、その逆の立場であるぼっちを好んでいるともいえる
話がそれたが、そもそも別に好き嫌いに限らず俺のコミュ力では皆と協力することにあまり向いてない
その点、月明は俺ほど無理難題でもなかろう
月明は現状として業務の多さを嘆いており、それの解決方法として人と協力することも不可能ではないこともないとまではいえなくはないだろう。ややこしいが、可能ということだ
だからその点を指摘してみます
「お前、前にクラスメイトと仲良さそうに話してたじゃねぇか。そいつらに頼るとかはあかんのかね」
俺の意見をどう受け取ったのかは分からないが、月明は少しむっとしていた
「論外ね。そんな事私にできるわけがないじゃない」
論外なんだ・・
月明はため息を吐いたあと更に続ける
「そもそも、私が表沙汰にしている交友関係なんて、あなたが思うほどきれいで温かいものではないわよ」
そういう彼女の声色は酷く寒々しいものだった
女のこういう話は闇が深いと相場が決まっている。ソースは中学の同級生と俺の妹
あまり触れない方がいいっぽいな
俺は話題を変える意味も込めて、仕事の話に戻す
「そうか・・まぁ、頑張れよ。とりあえず俺はノートを回収する。あとの2つはめんどくさいから頼んだ」
話題を変えつつ完璧な業務連絡をするという、俺史においてトップレベルに考え抜かれた発言だったのだが最後の締めが甘かったのか月明は微妙な感じだ
「めんどくさいなら全て任せてくれてもいいのに・・・けれどその厚意はありがたく頂戴するわ。ありがとう」
割と素直に礼はしてきた
俺はああとかうんとか適当な返事を返しつつ、教室を出る
あいつ、素の言動はまぁまぁゴミなのにああいう場面ではきちんと礼とかしてくるからたちがわるい
俺ぐらいのコミュ障だとあれだけで話しかけてよかったとか思っちゃう
俺は変な気が起きる前に仕事に集中しようと頭をブンブンふっておきました