開始
俺があの女と口論してから一日がたった
俺はいつも通りひとりで学校に登校し、自分の席につく
昨今の高校生は友達同士で登校するために、わざわざ場所を決めて集合したり電車に乗る時間を合わせたりするらしいが、俺は友達がいないためゆったりとした気持ちで過ごすことができる
別に優劣を決めたいわけではないのだが、俺の場合は一人で登校するほうが時間を効率的に使える点では優秀だと思う
だってあいつら友達の為なら一本どころか二本以上電車を遅らせる事ができるんだぜ。俺には絶対にできない。もっとも、そんな経験がないので断言すらできないが
俺が友達づくりを生贄にしてゆったりとした気持ちを儀式召喚していると、俺の召喚術が強力すぎたのか一人の女子が教室に入ってきた
昨日言い争ったあの女だった
「「げっ」」
思わず口から出た言葉だったが、見事にシンクロした
なんとなく気まずく、そのまま彼女は自分の荷物を置きに移動していった
なんで登校タイミングがかぶるんだよ・・・・
すると彼女も俺の方を見てため息を吐く
「なんで同じ時間にくるのよ・・・・・」
あ、同じこと思ってました
「あなた別にいつもはこの時間に学校にいないでしょ・・なんで今日はいるのよ・・」
そう言われてみれば俺のほうがイレギュラー因子なのか
というか俺はぼっちなので基本どんなときでもイレギュラー因子なのかもしれない
どんな状況でも少数派というのは肩身が狭いもので、最近なんかはリア充集団が目の前に来たら自然と道を譲ってしまっている。別に「道を開けろ。俺らが日本を獲る」とかいわれてるわけではない
高校生におけるぼっちの立場は、生態系ピラミッドにおける雑草と通ずるものがある。そのため道の脇によってしまうのだ。雑草だ、俺は
雑草はどこにでも生える
そんなどこにでもいる雑草のような俺に、今日はここにいる理由なんてない
理由もなくいるのが雑草であり、ぼっちでもあるのだ
そのため彼女に返す言葉も決まっている
「別に、特に理由なんてねーよ。たまたまだ」
俺のテキトーな返答に彼女も興味なさげに視線を戻して
「まぁ、暇そうだもんね」
とテキトーな返事を返してきた
なんか腹立つ言い草だが、事実なので否定できない
それっきり、彼女との会話は途切れてしまった
本でも読むか、、、
しばらく、彼女がペンを走らせる音と俺が文庫本のページを捲る音だけが教室に響いていた
すると唐突に教室のドアが開けられた
そしてパーカーを着たショートカットの女性が教室に入ってくる
というか、俺のクラスの担任教師である。如月花日という名前だった気がする。俺が名前を覚えている数少ない人物の一人だ
教卓の前に立ったあと、如月先生は物珍しいものを見るような目を俺に向けてきた
「お、珍しい顔ぶれがいるな。どうした明暗、課題がやばいのか」
まぁ、俺いつもは遅刻ギリギリを攻めてるから、そんな疑問を抱かれてもおかしくはないか
「いや、まぁ別に課題は大丈夫ですけど、 なんとなく今日は早く起きたしせっかくならと思って」
特に理由はないんだよなぁ
俺の言葉に先生は苦い笑みを浮かべる
「そうか。いや明暗はあんまり他の生徒と絡んでいる印象がないからな。正直それくらいしか理由を推測できんのだよ」
この人、今言外に俺がぼっちであることをいじってきたよな
俺はなじるような視線をむけるも、如月先生はガン無視しつつ続ける
「まぁ。お前は勉強の容量だけはいいからな」
他は悪いみたいな言い方しないでください
俺が胸中で悪態をついている間に、如月先生はペンを走らせている女の方に視線を移す
「しかし、月明は頑張ってるな。生徒会活動で忙しいのにクラスの委員長もやってるから大したもんだ。先生が君たちぐらいのときなんかは全然なぁんにもしなかったからな」
と言いつつ、若干暗い表情を如月先生は浮かべていた
月明・・・!ここに来て名前の把握に成功した!
俺が謎の感情に包まれている中、月明は落ち着いた様子で言葉を返す
「まぁ、業務は多いですがそこまで大変ではないですよ。楽しくやらせてもらってます」
嘘つけ昨日めちゃくちゃ愚痴ってたじゃねぇか
俺の白けた目線をガン無視しつつ放たれた嘘に、如月先生は言葉を返す
「すごいな。とはいえ、えらくなったらあまり無理はするなよ」
先生のそんな言葉にも月明ははいとかええとか気のない返事を返しつつ手を動かす
そんな月明の様子を見守っている先生の目は少し不安気に揺らいでいる気がした
**************
その後しばらく各々が作業をする時間が過ぎたあと、クラスメイトがぼちぼち登校してきた
もちろんの如くその生徒たちのほとんどが見覚えがないのだが、見覚えがなくても存在感だけはあるらしく、徐々に教室全体がにぎやかになってきた
いや、正確に言うと教室全体ではない
彼ら彼女らは皆、均等に散らばっているように見えて、実は自分の話せる中のいいクラスメイトで固まっているのである
まぁ流石に全員が全員と話せる訳では無いもんね。まぁ俺の場合は部分否定ではなく全部否定になるのだが
そして均等に集まっていないということは、すなわちグループの規模に差があるということだ
そうなると自然と目につくのは最も大きなグループになる
「月明〜。おはよ〜。え、朝から勉強してんの?すごー」
そういって感心した表情を見せる一軍女子生徒は明らかに出で立ちが違った
リボンの延長。スカートの断裁。顔中のメイク。耳元のピアス。どれをとってもひときわ目立つような姿で堂々と屹立している。ギャ、ギャルだ・・・
というか全部校則で禁止されているあたり、一軍女子の治安が心配!
俺が学校内での治安維持法の必要性を吟味している最中、月明は一軍ギャルに向かってなんてことないと言わんばかりに息を吐く
「別に普通だよ。こんどのテストは数学の範囲が広いって先生が前言ってたし、私も私で色々やること溜まってるからさ。できるうちにやらないとあんたもやばくなるよ」
それに対してピアスギャルは
「ま、よゆーっしょ。いつもなんとかなってるし」
とあっけらかんとした態度で自信ありげな笑みを浮かべた
こう見るとクラスメイトと馴染んでいるように見える。あいつ、仲いいやついるならそいつらに頼ればいいのに
そんな事を考えていると、如月先生がホームルームを始めた
「よし、じゃあ皆席につけー。ホームルーム始めるぞ」
特に問題なく進む
しかし、最後に如月先生は俺の方に視線を向けた
なんだ・・?
俺は先生と目が合うとなぜだか怖いんだが、これは俺だけなのだろうか
先生は俺の方を見たままホームルームをこう締めくくった
「じゃあひとまず連絡はこれで終わる・・・が明暗、このあと先生のところに来なさい」