邂逅
高校生
それは人生において最も輝かしい記憶だと大人たちが懐かしみ、もはやひとつの称号にすらなりつつある
そんな称号を胸に秘めながら、高校生たちは恋人を作ったり、部活をしたり、友達と遊んだり、などなど。仲間たちとの絆を深め、思い出という名のアレンジを各々の称号に刻んでいくのだ
あの日恋人と一緒の浴衣を着て眺めた花火。日々の部活動の練習で共に切磋琢磨した仲間たち。なんてことのない教室の香りーーー
なめとんのか
真っ赤な嘘だ。現役高校生の俺の経験が裏付けているのだから間違いない
大人になったほうが絶対にいいだろ。どこへでも行けるし、時間だってたくさんある。勉強もしなくてもいいし、何より集団生活を強いられることがない
教師、ひいては大人たちはほんとになんですぐ周りと協力させるのだろうか
俺は一人できることは一人でしたほうが効率がいいと思うし、個々の能力もより高まると思う。正直、周りの人間に足を引っ張られると本当に気持ちが萎えてしまう
効率を度外視してまで友達と一緒にいることを重視しているやつなんて見ると寒気がする。そこまで友達が大事かね。俺は友達いないからわからんけど
ぼっちこそ正義なのだ
こんな事を考えていると自然と授業態度も緩慢になる
俺、こと明暗透は授業中の教室を一瞥し、先生がこちらを見ていないことを確認すると目を閉じ、意識を遮断した
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15分ほど経っただろうか
俺は夢の世界に旅立っている最中、肩にかかる人肌の感触で目を覚ました
まだ眠たぃ・・・・
正直もう少し寝ていたかったが、起こしてくれた好意を無下にする訳にはいかない
ぼっちは空気が読めるのだ。他人と話さない分、無言下でのコミュニケーション能力が高いのだ
俺がぼっちのテレパシー適正について考えながら疑問に思ったのだが、わざわざ俺を起こしに来るような人物などいるか?当たり前のように全く心当たりがない
俺があんたははどこの組の者や、名乗ってみ?と視線を向けてみると、一人の美少女が困ったように頬をかいていた
そう、美少女。まさしく美少女
長い黒髪。顔立ち。どれを取ってみても完璧な清楚系美少女だった
他のクラスメイトが全て背景であるかのように感じさせるほどに、彼女が纏う雰囲気は完成されていた
・・・・不覚にも一瞬見とれかけた
それと同時に俺は女子の姿を見るといつも直面する疑問にぶちあたる
こんな子クラスにいたっけ?
いた、、か?いや、覚えてねぇー
そもそも小学校で六年間一緒に過ごした女子ですらほとんど記憶の外にある俺が、長くてせいぜい1年ちょっとの関わりしかない高校の人間を覚えられるわけがない
俺が脳内で2割も覚えていないクラスメイトの顔と合致させようと奮闘していると、横からため息が聞こえてくる
「もう、明暗くん寝過ぎじゃない?授業終わってから5分以上たってるよ」
人に話しかけられるという俺にとっては非日常的なシチュエーションに少し緊張しつつも平静を装う。・・・・・というか装えてるよね?大丈夫だ、問題ない
改めて俺が時計に目をやるととマジで6分ぐらい経ってた。あらやだ、寝過ぎだわ!
「まじか、あっぶなかった。もうちょっとで次の授業寝過ごすところだった、ありがとう」
我ながらなんともぎこちない会話だが、彼女は特に気に留めず柔らかな笑みを浮かべた
「ほんと、全然起きなさそうだったから体調でも悪いのかと思ったよ。休み時間だから別に寝るのはいいけど次の授業の用意しないと授業ついてけないよ?授業中とか寝たらだめだからね」
そう言うと彼女は席に戻ってしまった
俺は席に戻る彼女をなんとなく目で追い続けながら気づいたのだが、彼女はかなりの人望があるっぽい
彼女は席につくやいなや周りの生徒と男女問わずコミュニケーションを交わしていた
「周りの生徒」とぼかしたが、奴らは俗に言うリア充という人種が集まった陽キャ集団で、彼女もその中の一員なのだろう
「柚月〜。ちょっとノート見せてくんない?私小テストの勉強忘れちゃってやばいんだよねぇ」
俺はここで初めて彼女の名前を把握した。当たり前のように心当たりがなかった
彼女、もとい柚月と呼ばれた女子生徒は少し眉根を寄せて、呆れたような視線を向ける
「ちゃんと自分で勉強しないと力がつかないよ?次からは見せないからね」
と言いつつも彼女は自分のノートを手渡した
「ありがとー!まじで柚月優しいよね。ほんと助かる〜!次もたのんじゃおっかなぁ」
「少しは反省する素振りを見せてよ」
女子生徒の戯言に彼女はジト目で付け足した
見た目と纏う雰囲気の差はかなりあるが、表面上では彼女はその陽キャ集団に馴染んでいるように見えた。ここで表面上という保険をかけないといけないあたり、リア充って闇深いよなぁ。そう考えるとぼっち最強。大丈夫、僕最強だから
俺はぼっち特有のクソキモ観察をかましながらさっきの彼女との会話について疑問が浮かぶ
俺の感覚がおかしいのかもしれないが、普通全く関わりのないやつに話しかけにいくか?しかも寝てるやつに
ましてや俺みたいな友達もいないコミュ力おばけ(悪い意味で)に話しかけるのは結構疲れるんじゃないかしら。実際さっきの会話も恐ろしく中身のないものだった。はっきり言って何故話しかけてきたのか謎すぎる
まさかやつは誰とでも話せちゃう超人なのか?ギャルなのか?清楚系ギャルなのか?フラペチーノ飲みながらインスタ更新しちゃってるのか?と頭をひねらせていると俺はあることに思い当たった
彼女がこの学校の生徒会長であることだ
なるほど、それなら寝ている俺を注意してきても不思議ではない。いやよく考えてみると別に生徒会長とはなんの因果関係もないのだが、よく人の世話するとかいるし、彼女もそういう意識高い系の人々の一員なのかもしれない
というかそもそも話しかけるのに理由を探す辺りが俺がぼっちたる所以なのかもしれないけどな
別に陽キャの奴らは人に話しかけるということ自体なんとも思っていないのかもしれない
つくづく、理解のできない連中だ
よって彼女のことも理解できない。まぁ別にどーでもいいしな
このとき俺は彼女との関わりはこれっきりだと思っていた
クラス委員長で陽キャ。おそらく周りの支持も厚いことを加味しても俺と住む世界が違いすぎる
クラスメイトに一言二言話しかけられただけでこの頭の働きぶり。俺が陽キャだったら脳が過労死しそうである
大体、俺は一人で過ごすことが好きなのだ
しかし、人生というのは思い通りにいかないもんだ
俺はそんなことを考えてしまうほどに予想を裏切られることとなるのだ