表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8



「実はこの前求婚されまして」


とサラが突然告白してきた。

え、どういうこと?サラに恋人がいたなんて聞いてない!

と興奮気味の私に返ってきたのは残念な結果。


「相手は昔からの知り合いなんですけどね「自分と結婚するべきだ」なんて偉そうに言ってきてムカついたので断っちゃいました」


残念ながらサラは断ってしまったらしい。

サラはもう20代半ばになろうとしている。なのに恋バナ的なものは初めてだった。ん?恋ではないのか?


「もったいない!」


しかも相手は警備兵団だから安定職だし、それなりに見た目もいいし身長も高いし、真面目な人なんだとか。


「でも私は年下のかわいい男の子が好きでして」


え、サラってばショタなの?

まあ身長高い人と結婚して自分のように長身の女の子が生まれたらかわいそうだから、というのも分からなくはない。サラのように体格に恵まれても運動嫌いな人もいるもんね。

サラが結婚したらこの店はどうなるんだろう?

相手によっては辞めさせられたりするんだろうか。

サラが相手に従順になる様子が想像出来ない。

サラはきっと強制されたらすぐに相手と別れてしまうだろう。


「それより、お嬢様の方はどうですか?今度婚約者さんと観劇に行くのでしょう?」


サラに言われて苦笑しか出ない。

サミールのことはわりとサラには喋ってしまっている。

サミールが他の女に一目惚れしたことも、今は婚約者としてそれなりに仲良くやっていることも喋ってしまった。

サラは人の話を否定しないで聞いてくれるので、ついつい喋り過ぎてしまう。

サラのようにただ聞いてくれる人がいるだけでも助かったな、と思う。

サラに吐き出していなければ自分の中にドロドロしたものが溜まり続けてもっと卑屈になっていたかもしれない。

だからサラには幸せになってほしいと願っている。

結婚して相手を見付けてほしい、なんていうのは私のわがままだろうか。

サラが決めることだから仕方ないけれど、サラはサラのまま、サラらしく生きてほしいとも思う。

そう願う私が、サラから妊娠したから結婚することになった、という報告を受けて驚くのは半年後のことである。

そして、サラは子供が出来たことで更に創作意欲を上げていった。サラの創作家魂はまだまだ渇れそうにない。




サミールとの観劇はやっと行くことが決まった。

始めに行こうと誘われてからもう1年以上経っている。

あれから1年。

ベルナが学園を辞めて1年は経っているのだ。

ベルナは学園を辞めた後、社交界で暴れていたらしい。

私はまだ社交関係はほとんど出ていないので人伝に聞いただけになるから私の予想も入る。

ベルナはなに食わぬ顔で社交場に出て来て、学園でもやっていたように、男達を落としまくろうとしていたらしい。

ところが、ベルナがいくらかわいいといっても、狭い学園と違って社交場にはベルナ程度の人間なんて珍しくない。

ちょっと微笑めば相手を落とせると思っていたベルナの思惑は外れて、なかなか落とせる相手が見つからなかったらしい。

その後ベルナは「私可哀想なの」作戦に出た。

自分は学園で苛められていたのだと、私の名前を出してアピールし出した。

狭い学園と違って社交場でも学園の話は広がっている。

そして狭い学園と違って、本場の社交場は権力がものをいう場所だ。

ベルナが私を中傷しているという話を聞いたお父様がすぐにベンドリー男爵に正式に抗議してくれた。

ちょっとお父様の株が私の中で上がった。

学園の他の生徒の親達もベンドリー男爵に睨みを利かせ、ベンドリー男爵は社交場から逃げるように姿を消した。

ベルナはその顔で高位の貴族の結婚相手を探そうとしたらしいけれど、遊び人で有名な男性に遊ばれて花を散らされ、隠されるように田舎の商人に嫁いだらしい。

あれだけ男漁りをしていても純潔を守っていたベルナがあっさり汚された、と聞いて笑ってしまった私はきっと性格が悪いのだろう。





学園も卒業が近付いている。

ガリ勉の私達はとても忙しかった。

特に私よりもサミールが忙しそうにしていた。サミールは侯爵家の後継ぎなので、その勉強と学園の勉強と、更に留め具の研究でも忙しそうにしていた。

なのに学園順位は上位を維持していた。

まだギリギリ私の方が上とはいえ、背後にある忙しさを考えるとなんだか負けているような気がする。

でも順位は順位だ。

私達は学園入学前に『学園在学中成績が良かった方が1つ何でも負けた方に命令出来る』という勝負をしている。

今度の観劇が最初で最後のデートになるのだろう。

その時に私は婚約解消の話をするつもりだ。

まだ心の決心がつかないけれど、約束は約束。観劇の日にサミールに言うつもり。

どうも気分が優れないのは仕方ない。







「ケンに求婚した」


突然のエリーゼの報告に、私だけでなくグレースまでも驚いて固まった。


「きゅうこん??」


エリーゼの言った意味がうまく理解出来なくて繰り返してみたけれど、意味が頭の中に入ってこない。


「エリーゼとケンが婚約するということですの?」


グレースの言い替えた言葉にエリーゼは頷いた。


「そうだ。ケンの書いた論文に惚れて求婚した」


私とグレースは信じられないことを聞いた、というようにお互い見つめ合った。

あの恋愛とは無縁そうなエリーゼが、惚れた?

エリーゼは実家の侯爵家の為に尽くすことを決めていて、結婚自体はあまり興味がないようだったのに。

侯爵家の後継ぎでもないエリーゼは無理やり婿をもらう必要はなかったし、下手に結婚して侯爵家から出るのも嫌だと言っていた。

後継ぎでもない、実家から離れるつもりもない女性と結婚したがる男性を無理に見付ける必要性を感じていないようだった。


「彼のような才能ある者を中央に取られて活躍出来なくなるのは惜しい。それならば私と結婚して侯爵家の為に働いてもらった方が余程彼の才能を生かせるだろう」


エリーゼらしい理由のような気もする。

卒業論文は『一方的な正義』について書いたやつだろう。

ケンはこの論文で最優秀賞を取った。

勧善懲悪な正義を気軽に唱える平民の視点と、一方的な正義が普通になった貴族の視点を上手く捉えたその論文は、ケンが平民だからこそ書けたものだろう。

たとえ天才や秀才と言われる者でも、ケンのような捉え方は出来なかったと思う。

ケンの論文は学園以外でも注目されている。それでも平民が書いたものなんて読む価値がないと偏った意見もあるのは否定出来ない。

いくら素晴らしい作品を書こうとも、穿った見方をする人間はどこにでもいる。

良い成績を取って王宮に就職しても、平民のケンが蔑ろにされる可能性はかなり高い。

それならばケンの優秀さを知るエリーゼの侯爵家で、その才能を生かした方がケンにとってもいいだろう。

エリーゼはてっきりサイモンと仲が良いからサイモンと婚約する可能性もあるのかなと思っていたけれど、サイモンは赤ん坊の頃から知っているからかそういう対象ではないらしい。



「おめでとうございますエリーゼ!」

「エリーゼおめでとう!」


エリーゼと知りあってから恋バナとかしたことなかったけれど、ガリ勉の私でも興味がないわけではない。

嬉しい報告に明日に迫ったサミールとの観劇への憂鬱が少し晴れていった。

恋に無縁に思えていたエリーゼの報告に、良い知らせというのは他人までも嬉しくしてくれるものだな、としみじみと思う。


グレースとガストンも順調に距離を縮めて………はいるのかな?

この2人の進展には私の存在が重要となる。

言われたことをそのまま真に受けるグレースは婚約者といえど密室に2人っきりになってはいけないとかエスコート以外で体に触れてはいけない。という堅苦しい教えを真面目に守っていた。

ところがガストンも年頃の男。婚約者と少しくらい距離を縮めていきたい。

ガストンの巧みな話術によって、私とサミールがキスくらいはしていることがバレた。というか上手く話をかわせず真っ赤になった顔でバレた。

サミールに抱きしめられているところは大勢に目撃されていたこともあって、グレースの常識も婚約者とキスや抱擁くらいはするものだと変わったらしい。

それからグレースとガストンの距離がぐっと近付いた気がする。

2人がどこまでいったのかは知らないけれど、以前よりラブ度が増したのは間違いない。

公爵家のガストンには恩を売っといて損はないとはいえ、ガストン、それでいいのか。

グレースともっと距離を縮めたいガストンは私とサミールをもっとくっつけようとしてくる。私とサミールの距離は微妙なままだから困る。






観劇の日が来てしまった。

人生初の観劇に少し緊張している。

そして、私は今日、サミールにお別れを告げるのだ。

という緊張や真剣さも、観劇を見ている間に全部ぶっ飛んだ。


「マリ、落ち着け。ほら、水もちゃんと飲んで」


サミールが私の口元に水の入ったグラスを持ってきてくれている。

サミールにお世話されながらも劇に夢中になって目が離せない。

劇の内容に感情移入し過ぎて号泣してしまった。

持ってきたハンカチは既に使い物にならなくなり、サミールの物を握っている。握っているだけで私の涙はサミールの上着が吸い取っている。

まさかこんなに感動するものだとは思っていなかった。

一緒に見る相手がサミールでなければ泣くのも我慢していただろう。サミールに遠慮は必要ないので、気にせず泣きまくってしまった。

見終わる頃には目が腫れすぎて開かない。

せっかくキレイにお化粧してもらった顔も、全て涙で流れた。

泣きすぎてひどい顔になった私は、劇場の裏口から帰ることになった。

裏口ってお忍びの人とか用のはずだよね。泣きすぎて人様に晒せるような顔でなくなったからって、裏口から出るという経験をするとは思わなかった。

その後のレストランの食事もキャンセルして、サミールに送ってもらうことになった。



泣き疲れて帰りの馬車の中で眠ってしまったのだろう私は、知らない場所で目を覚ました。

まだちゃんと開かない目で部屋の中を見回す。

今は夜中だろうか。

一瞬で全てを悟った私は以外と賢いのではないだろうか。

ここはサミールの部屋だろう。

そして私が寝ていたのはサミールのベッド。

サミールの家の客室ではなく、サミールの自室。個人の部屋。個人のベッド。

窓際の椅子にはサミールが座ったまま寝ている。

未婚の男女が一晩同じ部屋で過ごしたとなれば何があったか、何もなくても、何かあったと同じ扱いになる。

私とサミールは婚約状態で、一晩同じ部屋で過ごした事実を元に、確実に結婚させようという策略か。

協力者はサミール側全員と、私のお父様もそうだろう。普通なら一晩明かす前に実家の方から迎えがきてもおかしくないのだから。

私は愕然とした。

だって、お酒を飲まされたわけでも変な薬を飲まされたわけでもない。

自分が泣きすぎて疲れて眠るというアホみたいなことをやらかしたのだ。勝手に隙を見せたのは私だ。

情けない。

サミールの部屋で、サミールのベッドに寝ていた私がこの婚約から逃げるのはもう無理だ。

すぐ納得できてしまう辺り、自分でも婚約解消に乗り気になれなかったからだろう。

サミールにはこの責任を取ってもらうしかない。

騙されたはずなのに、怒りよりも安心している自分がいる。

サミールと別れたかったのも本当だけれど、別れたくなかってのも本当。

どうやら覚悟を決めるしかないらしい。

サミールと結婚する覚悟を。

とりあえず服くらい脱がすか着替えさせるかしてほしかったな、と思いながら窓辺のサミールのところにむかう。

余程焦っていたのか、サミールも上着すら脱がずに椅子に凭れて目を瞑っている。

とりあえず私の涙とかを吸っているその上着は早急に脱いでほしい。


「サミール」


声をかけるとサミールはゆっくりと目を開けた。

私を捉える目が後悔と恐怖を含んでいる。

私に嫌われる覚悟でもしてたかな。


「サミール、本当に何もしないつもり?」


必要なのは、異性の部屋で一晩明かしたという事実だけ。

サミールは私に手を出すつもりがなかったから椅子にいるのだろう。

このまま朝を迎えて使用人や他の人に目撃されるまでが必要な事実。

気まずげなサミールの上着に手をかけて脱がそうとする。

堅苦しい上着くらい脱げばいいのに。

むしろ服を脱いで着替えるかくらいしないと既成事実には甘すぎるのではないのかな。


「サミール、抱きしめてほしい」


言っとくけど、普段だったら私からこんなこと言わないから!

けれど、罪悪感抱いたままギスギスした関係が続くのは正直けっこう面倒臭い。

今までだって中途半端に罪悪感抱いた感じでよそよそしいくせに近付きたがるサミールとの関係に嫌気が差していたのに。

仕方ないから言い訳をあげる。

私の方から誘った、という言い訳を。

私が誘惑したから仕方ないのだと思えるよう言い訳をあげる。更に罪悪感を抱いたサミールの相手をするなんて嫌だから。


サミールは躊躇していたようだけれど、私が上着を脱がしきる前に立ち上がると私を抱きしめてきた。


「マリ、ごめん。本当にごめん」


この謝罪は何にたいしてかな?無理やり既成事実の現場を作り上げようとしたこと?それともベルナのことも入っているのだろうか。

後、私の涙と鼻水を吸い取っているだろう上着はちゃんと脱いでほしい。




簡単に許すなんてお前はバカか。


前世の記憶の親ならきっとこう言う。

一度裏切った相手はまた裏切る可能性がある。

そんなやつ捨てて新しい相手を探した方が賢い。



でもいいや、と思った。バカでもチョロくても私はいいのだ。

バカみたいな大きな頭飾りを毎日つけているような変人の私が、またバカな決断をするだけ。

私が分かることは、誰かの考える『賢い選択』をしても、私は幸せになれるわけではないということだ。

バカみたいだけれど、サミールになら騙されてもいい。

許せるかどうかは分からないけれど、どうせ騙されるならサミールがいいなと思う。

もしかしたら数年後にまた裏切られて悲しい思いをするかもしれなくても、いいのだ。その時はその時に考える。

どう考えてもサミール以外と結婚するなんて考えられない。

私はこの腕の中が好き。

私は自分で思っていたよりもずっとサミールのことが好きみたい。

久しぶりに抱きしめられた安堵感に浸りながらサミールの胸筋を堪能する。


「ミール、入学前に成績が上の方が負けた方に命令出来るっていう約束、覚えてる?」





学園の女子達のクスクス笑いがあちこちでしている。

皆の視線の先にはサミールがいる。

サミールの頭には、カチューシャ型の頭飾りがつけられていた。

短髪で男のサミールが付けても全然かわいくない。

けれど、面白い。

私はサミールを見て笑い出しそうになるのを堪えていた。

普通につけたら飾り部分が斜めになるように計算されて作られたカチューシャなのに、サミールの頭の上のそれは真ん中になっている。

サミールは飾り部分は真ん中にくるべきだと思っているらしい。

わざわざ真ん中にくるようにつけている様が更に笑いを誘ってくる。

その間抜けな様子が笑えて仕方ない。

あえて真面目に飾り部分を真ん中にくるようにつけているサミールが好きだ。

どうしてこうもサミールは私のツボを刺激してくれるのだろう。

私は成績が上の方が出来るという命令で、サミールに頭飾りをつけさせた。

やっぱりすんなり許すものでもないし。サミールも少しくらい恥ずかしい思いをするべきだと思ったから婚約解消から頭飾りに変えてあげたのだ。

本当は1ヶ月くらいつけてもらおうと思っていたのに、私の腹筋が持ちそうになかったので1週間で許してあげようと思っていた矢先、何故かガストンまでが大きな頭飾りをつけて登校してきた。

どうやらガストンはグレースを怒らせてしまったらしく、罰として頭飾りをつけることになったらしい。

怒っているはずのグレースは目を輝かせてガストンのことを見ている。


「ガストン、かわいいですわ」


ガストンは学園でも上位のイケメンではあるけれども、既に立派な青年だ。

かわいいだろうか?

グレースの趣味がよく分からない。

とりあえずガストンのことをかわいいと言えるならそんなに怒ってはいないのだろう。

男なのに大きな頭飾りをつけることになったサミールとガストンの2人が真顔で私とグレースの方を見てきた時、私は笑いを堪えることができずバカ笑いをしてしまった。

マリエラとしての人生で初めてのバカ笑いだ。

こんなにも楽しい気持ちになったことなんて、前世含めてあっただろうか。

何より嬉しかったのは、一緒にバカ笑いをしてくれる仲間がいたことだろうか。

私の腹筋が持ちそうになかったので、サミールの罰は早々に許してあげた。

グレースはガストンの頭飾りをつけた姿にはまって時々2人きりの時につけさせているのだとかいないのだとか。






5年の学園生活も終わろうとしていた。

学園最後の日はダンスパーティーだ。

在校生は自由参加で、卒業生はパートナーと一緒に入場して学園長から卒業の証のバッジをもらうことになっていた。

パートナーは婚約者がいれば婚約者と入場するのが当たり前なのだけれども、私の隣にはお父様がいた。

今日の私のパートナーはサミールではなくお父様だ。

学園上位成績キープの約束まで使って私はお父様をこの場に引きずり出した。

お父様はどうやら娘の為に行動することはとんでもなく恥ずかしいことだと思い込んでいるらしい。

そういう教育をされてきたとはいえ、私とお父様の距離感の言い訳にはどうだろう。

お父様への嫌がらせの為に、私はお父様に卒業パーティーのパートナーを頼んだ。

もし断られていたら二度とお父様と話そうとは思わなかっただろう。ギリギリだったね、お父様。

前世の親に余計な口出しをされていたことがトラウマとして残っている私にとって、今のお父様はましな方だったのかもしれない、とは思っている。

余計な口出しをされているようで、されていなかった。勉強のことも、頭飾りのお店のことも、私の自由にさせてくれていたことは感謝しないこともない。

でも、ちょっとくらい、必要だよね。無関心の仕返し。

くだらない思い込みで娘のことを放置しがちのお父様に対する嫌がらせと、サミールに対する牽制も込めて、パートナーはお父様にお願いすることにした。

娘のエスコートをするのも初めてなお父様は緊張しているらしい。

恥ずかしくて倒れそうなのだろう。顔色が悪いようだけれど、気付かないふりをしといた。知ーらない。

サミールは母親をパートナーにすることになって、めっちゃ睨んでくる。

婚約者でありながら卒業パーティーを一緒に入場しないことは、婚約解消の可能性もあると思われかねない。

もちろん分かっていてパートナーはお父様に頼んだ。

お父様への嫌がらせ、サミールに対するちょっとした罰であると共に、サミールの母親の侯爵夫人が卒業パーティーで息子と参加することを夢見ていたのでこうなったのだ。

仕方ない。だってお義母様には逆らえないし。

サミールの母親の侯爵夫人は好奇心旺盛な人で、初めて会った時には、生きている間に当主夫人になれるとは思うなと脅された。

姑の嫁いびりに長いこと苦しんできた侯爵夫人は、やっと当主夫人になったので、今までの鬱憤晴らしに長いこと当主夫人の座を守るつもりらしい。

是非とも頑張って欲しいと思った。サミールが当主になれるかすら怪しい。次の当主はまだまだ先の話だ。

というわけで、当主夫人にならなくても良い可能性に私の胸はときめいた。

それからお義母様のことが大好きになった。強引のようでいて自分が姑に苦しめられた分、気遣ってくれる優しさにときめいてしまう。

お義母様のお陰でサミールとの結婚にぐっと前向きになれた。

因みにサミールがベルナに惚れていたことには気付いていなかったらしい。何故ならサミールが私の話を普通にしていたから。

ほとんど喋っていない3年間も、毎日のように今日の私がどんな頭飾りをつけていたかなどを喋っていたらしい。

無自覚かサミール。





成績優秀者というものはとことん自由人らしい。

1位をキープし続けたステファンはパートナーなしの1人で入場したし、ハイドはパートナーを4人も引き連れて女の子に囲まれた状態で入場していた。

サイモンなんてギリギリまで仕事相手と話し合っていたらそのまま入場の時間になって、仕事相手と一緒に入場してしまった。男同士のパートナーに会場はざわめき、サイモンのパートナーになるはずだった妹は大笑いしていた。

エリーゼのパートナーはケン。

よく考えたら侯爵家のエリーゼに求婚されたら平民のケンは断れなかったのではないだろうか。

並んで立っている2人の雰囲気は良さそうな気はする。

というかエリーゼが異性とくっついている姿を初めて見るので、ちょっと違和感がある。

よく見るとぴったりくっつきすぎのような気がしてきた。

グレースとガストンも同じような距離感だから普通に流していたけれど、パートナーといえど、普通もう少し離れているものだと思う。

エリーゼとケンもラブラブということか。

ところで今日の私とグレースとエリーゼはお揃いの頭飾りをつけている。

今まで頑なにつけてくれなかったのに、今日はどうしたことか。

着飾ると大きな頭飾りもそれほど悪目立ちはしない。

悪目立ちしてこその頭飾りのような気がするから少し寂しい。

でも2人がつけてくれたのは単純に嬉しい。

女3人で入場とかもありな気がしてきた。

でも今日の為にわざわざ引っ張り出したお父様に恥ずかしい思いをしてもらわないといけないし、グレースをとると公爵家のガストンが怖いから仕方ない。



何だか不思議だなと思う。

学園時代の友人は、卒業後は家の方針とかによっても疎遠になるだろうなとどこか冷めた気持ちを持っていた。

どうせ学生時代だけの友人関係。

それこそ、サミールと婚約解消した場合田舎に引っ込んで二度と会えない可能性も考えていたのに。

今は卒業しても友人関係を続けられそうな気がしている。

未来に期待なんてするタイプじゃなかったのに。

この2人と疎遠になるイメージが出来ないのだ。

グレースはなんだかんだガストンとのことで相談してきそうだし、ガストンにも頼られそうな気がする。

エリーゼは意外に社交的だから定期的に連絡くれそうだし。




お父様にエスコートされて入場した私にハイドが目を光らせて近付いてきた。あんたには4人も女の子いるんだから来るなよ。

ステファンもまだ弟子の話を諦めていないのか私の方にくる。本当に止めてほしい。

お父様はどこかに行ってしまったし、どう相手をしようか悩んでいる内に、サミールの腕の中にいた。


「俺の()に何か?」


妻とはどういうことサミール。一応まだ結婚はしていないのに。

サミールの牽制にハイドとステファンも何だか睨んでいるような気がする。変な争いは止めてほしい。

結局ハイドはパートナーの女の子達に引っ張られてどこかに行った。

ステファンはサイモンのパートナー(?)に興味ある話を振られたのかそちらに行った。

サミールは、思ったよりも執着心が強い。そして嫉妬深くもある。

このサミールの執着心も面倒臭いような気もするのに、心地好くもある。




自分でも自分のしていることはバカみたいなだな、と思う。

将来に役立つわけでもないのにガリ勉になって成績に固執して、事業をやってみれば為になるものでもない上に、売上もぱっとしない。

裏切った婚約者のことも許してしまうし、親子の関係を改善しようと積極的に行動もしなかった。

決して賢い人生とは言えないのに、私はマリエラとしての人生が好きだった。

そして、サミールが側にいてくれたらもっと好きになれそうな気がするから不思議だ。

前世の記憶を思い出した時はこんなにも楽しい人生になるとは思っていなかったのに。

楽しい、と思えるということは、それだけ前世の不満とかを解消出来ているのだろう。

私は初めて前世の記憶を思い出して良かったなと思った。

前世に感じた不安とかにも意味があったのではないかと思えるから。

でも、前世と今の自分との考え方に大きな違いがあるとも思えない。

あるとすれば、自分のことをバカだと認められるような、どこか吹っ切れてしまっただけ、のような気がする。



今の人生だって、この先どうなるかなんて分からない。

それでも期待はある。

前世の私には、それがなかった。

欲しかったのは、小さな期待だけでよかった。

それだけでも人生は大きく変わっただろうに。

もったいないことをしていたんだろうな、と思う。

今はもう他人事だけれど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ