第3話 行方不明【推理編】
今回は推理編です。今回の小説の内容に、事件のヒントが隠されているかも——
事件が起きたのは四日目の朝、十時前のことだ。
「ミケがいない?」
杜若さんは眉間に皺を寄せている。どこかしら飄々としている杜若さんだけど、この時は真剣な顔だった。
「そうなんです。朝からどこにもいないんですよね」
答えたのは私だ。
「…………」
いつも強気なえりかさんだけど、今日は無言だった。おろおろしているというか、そわそわしているようにも見える。
「ちょっと、いいかな?」
ここで手を挙げたのは凜子さんだ。ここに来てから猫の世話にはずっと無関心で、昼過ぎまで寝ている凜子さんだけど、今日は朝からちゃんとした服装に着替えていた。それから凜子さんは、こんな話を語り始めたのだ。
「あたしさ、午前五時ぐらいに目が覚めたんだわ。雨音だったかな?
玄関の方に歩いて行ったら、引き戸が開いていて、そこに猫の足跡が付いてたんだわ。玄関から廊下にかけて。
なんで扉が開いてるのかって思って、あたしは外の様子を窺ってみたの。
そしたらこの女、袋小路えりかが、玄関の外で誰かと話してた。スマホで。
「もうすぐ遺産が手に入る」とか、「ナンバーワンにしてあげられる」とか、そんなこと話していたように聞こえたわ、あたしの位置からでも。
その時あたし、家の中をちょっと探してみたけど、あの猫どこにもいなかったんだよね。
だからさ。この女が猫を隠しちゃったんじゃないかな?」
「ちょっと、ちょっと!」
やはりというか、凜子さんの証言に割り込んだのはえりかさんだった。
「変な言いがかりやめてよ!
あたしは猫を隠したりなんてしてないからね。
確かに、朝早くに玄関の外で電話を掛けてたことは事実だけど。
でもそんな後ろ暗い電話じゃないから。
内容? プライベートってことにしといてくんない?
遺産の話って? 浮かれてただけよ、意味なんてないから!
確かに扉が開いていたかもしれない。だけど、ほんのちょっとだけだから。
ていうか、扉が開いてたから、猫が勝手に出てっただけかもしれないでしょ!
その間どうだったのかって? あたしは何も見ていないわよ、別に」
「二人の話を総合すると、えりかさんの故意、あるいは過失、そういうことになるんでしょうかね」
杜若さんは私に、そんな風に話しかける。
「うーん、どうでしょうか。……というか、杜若さん」
「なんでしょう?」
「そういう話を、私相手にしていいんですか? 私だって二人と同じ候補者なわけですけど」
「今のところ、あなたを疑うような材料はありませんからね。とにかく、邸内の調査結果です」
それから杜若さんは、以下のことを教えてくれたのだ。
・今日の雨だが、昨晩から降り始めており、早朝のうちは特に激しい土砂降りだった。玄関の外や庭には水溜りができている。
・凜子の証言にあった猫の足跡は乾いてしまっていて、はっきりした痕跡は残っていなかった。ただし、玄関から廊下にかけて、泥の跡が少しだけ残っている。
・猫の皿が、今朝から行方不明になっている。皿は昨夜にはごはんスペースに置かれていたはずだ。
「皿、ですか?」
「はい。何か、意味があるんでしょうかね」
「……どうでしょうか。意味があるのかないのか。でも、猫の皿は突然消えたりはしませんよね。意味があるとすれば……」
私は考えてみる。証言にある、微妙に不自然な点。
微妙に不自然な行動。消えた皿。
意味があるとすれば、その意味はなんなのか。
解答編は次ページ、2023/06/05 21:00 投稿となります!