ざまぁで候~出張仕掛け人聖女 後は知らない
意図的に『~わ』を『ワ』や矢印が入っていますが、イントネーションの表示のつもりです。
WBC記念です。
頭を空っぽでお願いします。
最近、とある噂がひそやかに流れている。
裁きの祭壇で断罪の儀式を行うと、必ずや正義の鉄槌が下されると。
例え巧妙に計られた欺瞞であろうと、罪なき人々の冤罪をはらすのだ。
それは身分の差があっても、神の前では忖度は無い。
虚偽を申し立てた人間は気がふれたようになってしまうのだ。
今回は───
◇
「裁きの祭壇へ行かねば良いのだ」
真理だ。
噂が囁かれる程なのだから、相当する出来事があったに違いない。
「それにのう、お前も断罪の儀式を受ける事が
出来るのか?」
都の統治者は戦死した。
統治者の奥方だった女は、目の前の贄に問いかける。
都の外れに住む羊使い一家の拘束を発令して一日も経っていないが
家長が己の身と引き換えに逃がした息子達を、
都を出る門の前で捉まえたのだ。
弟は戸惑った視線を兄に向けるが、
兄は問い掛けの意味を正確に理解した。
「出来るはずも無かろうに……」
奥方は扇子をパチリと閉じた。
断罪の儀式は虚言を許さない。
◇
弟は涙で潤んだ瞳を兄に向ける。
こんな稚い子供を渡す事は出来ない。
兄は、弟が初めて家に来た日を思い出す。
「主はこんな赤子を殺せと言うんだ。
だからな、
お前の弟にしよう。」
羊飼いは妻と一緒に逝った、産まれる事の出来なかった赤子を思う。
要らないなら貰ってしまおう。
妻の忘れ形見として、育てよう。
当時の父の決意の意味を、今に知る。
だが。
「のう、お前。 お前はそ奴の兄と名乗れるか?」
嘲笑を含んだ奥方の言葉に兄は沈黙する。
断罪の儀式は虚言を許さない。
◇
いつも奥方は統治者に振り回されていた。
褒章で土地を得た統治者へ、土地と共に娶せられた。
統治者の主城へ入り、初めて自分が後妻と知った。
死んだ先妻の遺児がいると言う。
ふざけるな
出陣していった統治者への怒りが込み上げる。
聞いていないぞ!
我に押し付け、そ知らぬ顔で済ますのか!
我も要らぬ赤子の処理を羊飼いに云い付けた。
その後に帰還した統治者に
『死んだ』と男子だった赤子の行く末を明かしたが
統治者は興味を持たずに戦場へ帰って行った。
統治者と心を寄り添えずに過ごした数年後、
奥方は赤子が生きていたと知った。
「我は忙しい、お前なんぞ拘る暇はないのじゃ」
統治者はあちこちに種を残している。
死んでも尚のさばりよるが、根絶やしにしてやる。
手始めに。
「そこの者を始末せよ!」
『えっ!ホンマに?かわいそーやん⤵』
「え?」
◇
奥方に侍る近衛隊長は悩んでいた。
深夜に統治者戦死の報が届き、主城へ馳せ参じた。
奥方様から早朝一番に出た指顧は
【都の外れに住む羊飼い一家の拘束】だった。
こんな命令を言葉通りに受け取るほど質朴ではない。
だが、突っぱねるほどに覚悟も持っていない。
都を護る近衛の隊長は
羊飼い一家の重要性が分からないからだ。
重要性を知る人間は、既にこの世におらんだろう。
奥方以外は。
「そこの者を始末せよ!」
奥方が扇子で指し示すその時───
「本当に、宜しいのですか?」
奥方に異論を唱えたのは奥方の侍女だ。
いつも奥方の傍らにいた女。
───居た…か?
侍女はいた。
侍女はいたが、そんな女だったか?
何かが起こる予感がして、近衛隊長は様子を見る事にした。
◇
初めて口答えをした侍女に奥方は驚いた。
『かわいそうやん⤵』だと?
我の腹心とも言える、この侍女は残忍な性格だったはずだ。
この地位に昇り詰めるために、幾多の人間を始末した。
この、カメリアは。
「カメリア?」
名を呼ばれて頷く侍女
カメリア…私の侍女はそんな名だったか?
───貴女に仕えます。
私はカメリア
「カメリア・サンジュウロウ」
顔を上げた侍女に奥方は驚愕した。
「だ、ダレじゃ!」
奥方が見慣れたお仕着せを着た、
知らない女が立っていた。
「カメリア・サンジュウロウですわ」
『カメリア・サンジュウロウですわ⤴』
「おお?! 貴女はマユミ様っ!」
「聖女マユミ様!!」
近衛兵団や門の周りで見守っていた都民達が
どよめく!
なぜか侍女だった女は、お仕着せを破いた!
『や、破いた!』
近衛隊や都民達もギョッと慌てたが
なぜか半裸にならずに下からローブ姿が現れる!
まさかのローブ姿は聖女マユミだった。
◇
断罪の儀式に辿り着けず、散って行った者がいる。
神の手を掴めるのは一握り。
聖女マユミは立ち上がった。
その身に神を宿らせて───
─── 『アタリ・マエダノ・クラッカー』伝
◇
『別にポンセでもパリッシュでもええんやけど
近くにおったんがマユミですワ⤵』
「だ、誰の事を言っておるッ!
パリッシュは捕虜になったぞっ!」
『えっ!あいつワニ食べんのにぃ⤴?
んじゃ、マユミでええかぁ⤵』
こんなに身を粉にしているのに、聖女マユミを軽くディスりながら
神が宿ったマユミは光を発し始める。
マユミの奇跡が発動する!
◇
「兄ちゃんっ!…兄ちゃん!!」
奇跡の光が消えた後、弟は兄を揺り起こす。
『はよおきたりや⤴弟呼んデンデ⤵』
で、でも本当の兄じゃない。
『そんなんええやん。今みんな腰抜かしてるさかい
はよ帰り。お父ちゃんも出したったワ⤵』
兄が気づくと涙にくれた父と弟がいた。
◇
「…待って、待ってよっ!」
聖女マユミは拒否っていた。
昨日から徹夜なのだ。
神が取り憑いた間は身体的な負担はないが
なんやかんやの精神的な消耗が大きいのだ。
いくらなんでもヒド過ぎる。
『アカンで、パリッシュ助けたらなアカンやん
パリッシュおったんやぁ…知らんかったわ』
ボケるつもりで言ったパリッシュが
まさかの存在をしていたので、
テン上げになった神は、マユミにかけた秘術ニニンバオリのままで
勝手に命名したワニ男パリッシュの救出に向かった。
徹夜で神殿から都へ移動した聖女マユミは
主城に忍び、奥方の侍女に化けた。
カメリア・サンジュウロウと名乗り、
主城を探索してお家騒動の闇を目撃する。
統治者の遺児を匿った為に
捕縛された羊飼いを解放し、
奥方に同行した。
最後の慈悲の機会を与えるために……
しかし奥方の行いは慈悲に値せず
聖女マユミに断罪された。
なお、ただの一兵卒パリッシュは自力生還していた。
───聖女マユミ バトルドームの奇跡
◇
聖女の奇跡によって錯乱し、統治力不能とされた
奥方は主城の一室に軟禁されている。
時折、彼女の悲鳴や喚き散らす声が聞こえる。
「ヤメロ、何だこのラッパはっ!!
なにがマユミだ、ほーむらんとはなんじゃッ!!!!」
おそらくマユミを称えた観衆の声が幻聴となって
奥方を苦しめているのでしょう………
侍医は重々しく告げた。
まゆみまゆみほーむらん
まゆみまゆみほーむらん───
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楽しんで頂けたら幸いです。