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「…お祖父様、申し訳ありません。

 体調が悪いので、先に部屋に戻ってもいいですか?」


「あぁ、いいぞ。ちゃんと休め。わかったな?」


「はい、ありがとうございます。」


叔父たちの顔は見ないように退席する。

ここまで私を連れてきた使用人はもうすでにどこかに行ってしまっている。

本来なら私が部屋に戻る時には何人かが付き添わなければならない。

いつもお祖父様が退室した後に戻るから放置されていたけれど。

使用人たちがおろおろしている中、いつも通り一人で部屋まで戻った。





「どういうことなのよ!」


思ったよりも早く来たなと思ったが、どうやらイライザだけ退席してきたようだ。

私も先に退席しますとでも言って出てきたのかもしれない。

私の部屋のドアを蹴り開けて入ってくると、ツカツカと近づいてくる。


「どういうこと、とは?」


「なんでお祖父様なんて呼んでいるのよ!」


「あぁ…お祖父様と呼ぶようにと。

 今日の面会でお祖父様からそう言われたのよ。」


「嘘よ!だって、私には陛下と呼ぶようにって!!」


「それはだって、イライザは王族じゃないもの。」


さっきお祖父様から言われていたのに、まだ気が付かないのか。

王族から抜けたということは、子、孫としては扱わないということだ。

臣下になったのだから、一貴族として扱わなければいけない。


王太子夫妻の他に第二王子が王族に残っているのだから、

公爵になった第三王子が王位につくことはない。

だからこそ、臣下としてふるまわなければいけないのだけど…。


髪をかきむしるようにして怒り続けているイライザに、

私よりも二つ上だし背も高いし成長も早いようなのに、

どうして考え方だけこんなに幼いのかと思う。

それなりに令嬢としての教育は受けているはずなのに。


前は物を投げつけられたりしていた気もするが、この部屋には物がない。

物が無ければイライザが投げることもできないようだ。


あぁ、そうか。

数少ないけどこの部屋にあった物はそうやって壊されたから無いのか。

イライザは自分が悪いのに、投げるものが無いことにも文句を言い出した。

報告のために監視している者たちも驚いているだろうな。

人前ではあんなにも性格良さそうにふるまっているのに。


どう考えてもイライザに貴族令嬢としての気品というものは感じられない。

前世を思い出す前のソフィアはもっとひどかっただろうけれど、

今は伯爵令嬢だった時の礼儀作法も思い出せている。

王女らしくイライザをあしらってもいいのだけど、

ここはいつも通り罵っていてもらうことにした。



「いいこと!?あなたは王女かもしれないけれど、ハズレ王女なの!

 美しくないし、髪もぼさぼさ、骨みたいな身体で、何一つ知識だってない。

 そんなあなたが女王になれると思っているわけ?

 なれるわけないじゃない!」


「……。」


そう言っているイライザが女王になれるとも思えないのだけど。

感情のままに怒っているイライザは醜く顔をゆがませている。

イライザのくすんだ栗色の髪と茶色の目は王族の色でもない。

ふっくらしているので、胸は大きく育つかもしれないけれど、

そんなことで有利になるとは思えない。


確かにソフィアはがりがりで髪もぱさぱさで白髪のようになっているが、

もとは銀髪で碧眼。お祖父様と同じ色を持っている。


これは王太子や第二王子でも同じ色ではなく、二人は金髪紫目だ。

どちらも亡くなったお祖母様に似たと聞いている。


じゃあ、栗色の髪と茶目の叔父はというと側妃に似ているそうだ。

その側妃も叔父を産んですぐに亡くなっているので、

お祖父様はそれ以来、妃を持たずに仕事ばかりしている。


本当ならイライザも孫として可愛がりたいだろうけれど、

イライザの態度を許していたら…大変なことになるだろうな。

報告を聞いてお祖父様はどうするつもりだろう…。


「ちょっと、聞いているの?」


ざばぁっと頭の上から水をかけられて、目が覚めた。

ぼーっとしていて、あまりイライザの話を聞いていなかった。


一枚しかないドレスがずぶぬれになって、床までびしょびしょになっている。

この部屋には絨毯が敷かれていないから濡れた床はそのままにしておけば乾くけど。


どうしよう。ドレスを洗濯するのは無理だよね。

洗濯場に持ち込んだら、盗んだのかと誤解されてしまう。



「冷たい…。」


「ふふっ。いい気味よ。」


「…今日、体調悪いって言ったから、

 後でレンキン先生が診察に来るかもしれないのに。」


「…っ!!そういうことは早く言いなさいよ!

 いい?これはあんたが自分でドジって水をかぶったんだからね!?

 言いつけるんじゃないわよ!わかったわね!」


そう言い残すと部屋から出て行った。

やれやれと思いながらドレスを脱いで、髪と身体を布で拭いて、

普段着ているよれよれの服に着替える。


言ってみただけでレンキン先生が来るわけないし、もう寝てしまおう。

濡れてしまったドレスのことは明日考えよう。



叔父夫妻も、レンキン先生が来るってイライザから聞いたら来ないだろう。

だって蹴飛ばした痕でも残って見られたらまずいもんね。


念のため、部屋に鍵をかけて寝台にもぐりこむ。

明日から…証拠が集まるまでどのくらいかかるか。

ある程度集まったら自分の身が守れるくらいの魔術は使ってもいいかしれない。


いろいろあって疲れていた身体は、今度もすぐに眠りに落ちた。


夢の中では高齢の身体がつらいと嘆いていた魔女時代で、

それに比べたら今の身体のほうがいいかと起きてから笑った。








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