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「ハイネス王子、言いたいことはそれだけか?」
「ええ。貴族たちへの発表は自分の口で言いたかったので。」
お祖父様が低い声で確認しているのに、ハイネス王子は満面の笑みで答えた。
そのことに頭が痛くなりそうだが、お祖父様はにやりと笑って、
ハイネス王子とイライザの結婚を祝福した。
「そうか。では、ユーギニス国王として、
ハイネス王子とハンベル公爵令嬢の婚姻を認めよう。
そして…夜会を騒がせた罰として、今すぐ夜会からの退出を命じる。
それと、ハイネス王子の留学許可は取り消すこととする。
ハンベル公爵令嬢を連れてココディアに即刻帰国するように。
ココディアの国王には書簡を送っておこう。」
「は?」
「え?」
きょとんとした顔のハイネス王子とイライザにかまわず、
お祖父様はそのまま広間にいる貴族たちに話を続けた。
「途中で邪魔が入ってしまったが、儂の話を続ける。
ここにいるソフィアがもうすぐ十六になる。
父親のダニエルが療養のため、今は王太子代理として務めているが、
十六になるとともに正式に王太子として指名する。」
うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁと広間中に歓声が広がる。
さきほどのハイネス王子の国王発言とは大違いで、
良かったこれで国は安泰だなどと好意的な声ばかりだった。
「そして、ソフィアは女王になるため、王配を持つことになる。
紹介しよう。ソフィアの婚約者のクリスとカイルだ。
二人はフリッツの養子になっているため、今の時点でも王族である。
王配として護衛騎士として側近としてソフィアに仕えることになる。
クリス、カイル、ソフィアが女王として立つときに隣で支えてくれ。」
「「はっ。」」
名前を呼ばれたクリスとカイルがお祖父様に騎士礼をする。
さらりと流れる銀髪に光が当たり、令嬢たちから歓声があがった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。いったい何を言っているんだ!」
「そうよ!どうしてソフィアが王太子になんてなるの!?」
おとなしく聞いていると思ったら、
急に騒ぎ始めたハイネス王子とイライザにため息が出る。
ここでまたお祖父様の話をさえぎってしまったら、
どれだけ処罰が重くなるかわからないというのに。
仕方なくわかりやすようにゆっくりと説明する。
「ハイネス王子、イライザ、どうして二人が国王と王妃になれるなんて思うの?
二人が結婚したからといって、そんなことにはならないのに。
イライザは前からお祖父様に言われていたわよね?
エドガー叔父様が公爵になった時点でもう王族じゃないって。
イライザは公爵令嬢であって、ハイネス王子と結婚したからといって、
この国の王族になれるわけないじゃない。」
「は?イライザが王族じゃない??」
どうやらハイネス王子はイライザに騙されていたのか、
王族じゃないことを知らなかったようだ。
「そんなのどうにでもなるわよ!
ハズレ姫のソフィアよりも私のほうが王女としてふさわしいのだから!
おなじお祖父様の孫なんだから、優秀なほうが継ぐのが当然じゃない!」
「まだそんなことを言っているの?」
これでは九歳だったころのイライザと変わらない。
まだそんなことが通用すると思っているのだろうか。
呆れてしまっていたら、あちこちから声が上がる。
「ソフィア様はハズレ姫なんかじゃありません!」
「そうです!学園でも次席で魔術演習も免除になるくらい優秀なんです!」
「イライザ嬢はB教室でも後ろのほうの席じゃないか!
魔術もへたくそだし、授業はさぼってばかりだし、
なんで自分のほうがソフィア様より優秀だなんて思ってるんだ!」
「そうだ!父親の公爵よりかはましだが、
ソフィア様とは比べ物にならないぞ!」
あちこちから声が飛び交う。
王宮に勤めている文官、学園に通う令嬢令息。
領主として要望書を提出してくる貴族たち、皆が私のことを助けようと声をあげる。
「………信じられない。
私はイライザ姫なのよ。お祖父様に愛され、国民を愛する優しいイライザ姫…。
ソフィアはハズレで役立たずで…何も持っていないかわいそうな…。」
「まだ言ってんのか。姫様が役立たずなわけないだろう。」
「国民を愛するってあんた何したって言うんだよ。
親にわがまま言うだけで自分じゃ何もしてないだろう。」
怒りのあまり震え出したイライザに、カイルとクリスまで冷たくあしらう。
「…わかった。イライザとは別れる。ソフィアと結婚すればいいんだろう?」