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「ところで、女官長を排除したのはどうしてだ?」
「あぁ…それも監視してもらえるとわかると思いますが、
私への嫌がらせを直接指示しているのは女官長です。」
「なんだと?」
記憶が戻ってから、誰がこの状況を作り出したのか考えていた。
黒幕がいるとしても、王宮内で権力を持っている者が協力者だと。
今までされてきたことを思い出し、それが女官長だと思い当たった。
「そうじゃないとおかしいです。
私、一応は唯一の王女なのに、西宮の端の部屋に住んでいます。
本来なら、本宮に住むはずですよね?」
「あ、ああ!なぜ西宮などに。
あんな場所、お前が住むようなところではない。」
それもよく知ってる。
もうほとんど使われていない西宮の、しかも端の部屋。
あんな場所に王女がいるなんて、誰も思っていないだろう。
しかも私の近くには一部の使用人しか来れないようになっているようだ。
古参の、意地の悪い使用人だけ…それも女官長の指示に素直に従うような。
「私の部屋を移動させるような権限がなければ無理です。
それに…一介の使用人たちが私に嫌がらせするって…命がけじゃないですか?
王女にこんな真似して、見つかったら死罪になりかねませんよ。
よほど権力ある人が指示していなければ、こうなりません。」
「それがすべて女官長の仕業だと?」
「あ、いいえ。女官長に命令しているのは叔父様です。
私をこういう状況にしているのは、エドガー叔父様とイライザです。
女官長は叔父様の愛人の一人なので指示に従っているのでしょう…。」
「それは…どうしてそれを知っている?」
女官長が叔父様の愛人だというのは知っているのかな。
お祖父様の反応はそんな感じだった。
子どもの私がなぜ知っているのかって驚いているんだろう。
「シーツや服を洗濯する時に聞こえてくるんです。
使用人たちの噂話が…いろいろと見ているようで。
叔父様が手を出した女官と侍女、二十人以上知ってますよ?」
「はぁぁぁ…そういうことか。」
洗濯をする使用人は、王宮の中でも下級の使用人たちだ。
その分口も軽く、噂話ばかりしている。
部屋の後片付けや洗濯をするということは、情事の跡も見ることになる。
誰が手を付けられた、愛人同士で争っていた、なんて話はよくある話題だった。
ボロボロの私服を着て洗濯しに行ってる私は、使用人の子どもだと思われている。
機嫌が悪い時には邪魔にされて嫌がらせもされるが、
普段はいても気にされないために噂を聞くのに困らない。
だからこそ、この状況を客観的に見れているのかもしれない。
「わかった。証明しなければ処罰できないというのも納得した。
だが、本当に無理はしないでほしい。
監視だけでなく護衛もすぐにつける。
困ったら助けてと言いなさい。姿を現すように言っておくから。」
「わかりました。ありがとうございます。
あぁ、おそらく女官長が戻ってきたらしつこく聞かれると思います。
抱っこしたら眠そうにしてたから部屋に戻したとでも言ってください。
まともな話はしなかったと。」
「…わかった。では、気を付けて戻りなさい。」
「はい。」
ぺこりと礼をして謁見室から出る。
私の周りに今までなかった気配を感じる。これは監視と護衛かな。
ありがたいことに複数人つけてくれたようだ。
ちょうど女官長が戻ってくるのが遠目に見えたから、
会わないように違う道へと方向を変えて帰った。
監視がついたのなら女官長と会って罵られてもいいとは思ったが、
すぐに揉めるのもめんどくさい。
さすがにこの身体は疲れやすい…もうくたくたで、帰って眠りたかった。
夕方にはまた食事会で呼び出されるだろうから、少しだけでも休みたい。