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「わかった…だが、監視をつける前に説明してくれ。
何が起きている?」
同情するような目で聞いてくる陛下に、一応は愛情があったのかと思う。
ここでどうでもいいという反応をするのなら、
すぐにでも王宮から出る許可をもらおうと考えていた。
だが、この反応ならば…改善するかどうか試してみてもいい。
ダメだったら、その時に出ればいいのだから。
「まず、私の普段の生活は知っていますか?」
「もう七歳だから、王女教育を受けているだろう?
お前が五歳の時に教師をつけたはずだ。」
「いいえ。王女教育は受けていません。
教師は三日でいなくなりました。」
「…それは…全員か?」
「ええ、全員です。」
語学、歴史、地理、王政、礼儀作法やダンス、楽器までありとあらゆる教師が用意されていた。
だが、教えてもらえたのは三日だけ。
その後は「ハズレ王女に教師など税の無駄使いだ」と辞めさせられていた。
「では、普段は何をして過ごしていた?」
「掃除と洗濯とかですね。」
「は?」
「使用人が来ないので、部屋の掃除や洗濯だけでなく、
浴室や手洗いに使う水も自分で汲みに行ってました。」
「水瓶の水までか!?」
「ええ。最初は水だけは用意されていたんですけどね。
一週間に一度くらいでしたけど。
でも、浴室の水は湯あみ用なのに冷たいままでしたので、
入浴しても身体を洗うのにも困るような状況で…。
それすらなくなったので、水汲みに行くところから自分でやっています。
今でも湯を沸かすことができず、布を浸して絞ったもので身体を拭いています。」
「「「……。」」」
「このドレスは謁見用のものが一枚しかないので、普段着ることはできません。
他の服は無いので、いなくなった使用人が置いていった私服を着ています。
辞めさせられた侍女とかが着ていた古い私服とかですね。
シーツも一枚しかないので、汚れたと思ったら洗濯して干すのですが、
乾くまで見ていないと濡らされたり泥がついていたり、
床に落とされていたりするので…それだけで一日終わります。」
「痩せているのは労働のせいか?」
「それは食事のせいですね。
食事は一日一度、野菜の葉クズが少し入ったスープと、
乾いて固くなったパンが一つ。
この食事ですら出てこない日もあります。」
「…まさか…まさか、そんな目に遭っていたとは。
いつからだ。ひどい目に遭っていたのは。」
「おそらく…生まれてからずっとじゃないでしょうか?」
「…っ!!」
驚きと怒りの表情で顔色が赤黒くなっていく陛下に、
身体は大丈夫かと心配になる。
興奮しすぎて倒れたりしたら、私が殺したことになりかねない。
「あとは、いろいろと問題はありますが、
人が関わっているものは証拠が無いと話せません。
私がそう言ったからといって簡単に処罰できないでしょうから。
だから私を監視してほしいのです。
ひと月様子を見て、改善できるかどうか判断してもらえますか?」
「お前は…そんな状態でひと月も我慢できるのか?」
「…?今さらじゃないですか?」
「……そうか。
儂との食事会の時は食べてないようだが、あれは好き嫌いではなかったのか?」
そういえば、それもあったか。
陛下との面会の日は必ず食事会が行われる。
陛下と王太子と王太子妃、公爵である第三王子とその妻、そしてイライザも来る。
私の席は必ず陛下から一番遠い席にされ、隣はイライザだ。
豪華な食事が並ぶ中、私が一口でも食べることは無い。なぜなら…。
「あれは食べられるものではありません。すべてが腐っていました。」
「お前のものだけ別なものが出ているということか?」
「そうでしょうね。
わざわざ緑や黄色になった肉を用意するのも大変だと思いますが、
私のものだけ別に作ってあるのでしょう。
粗末なモノだったり、虫が入ってたりするのは食べられるからいいのですが、
さすがにあれは食べられません。
寝込んでも誰も面倒を見てくれませんし、医師も呼んでもらえませんから。
自分の身を守るのは自分しかいません。」
「はぁぁぁぁ。わかった。すぐに監視をつける。
ひと月と言わず、証拠がそろったと思ったらすぐに言いなさい。
無理に今の生活を続けなくていいんだ…お前は儂の孫なんだ。
…抱っこと言われ、驚いたがうれしかった。
お祖父様と初めて呼ばれたのも…それが人払いをさせるための手段なのだとわかっているが、
できれば今後もお祖父様と呼んでくれないだろうか?」
「いいのですか?」
思わず首をかしげてしまうが、うれしそうに笑って頷いてくれる。
意外と…好かれているのかもしれない?
「ところで、女官長を排除したのはどうしてだ?」