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「ねぇ、ダグラス。本気でそうなると思っている?」
「ああ。何年かかっても説得する。」
「このままだと何年もたたずに、
ダグラスは他の令嬢と結婚することになると思うけど。」
「え?」
「ダグラス、二週間も逃げているの忘れていない?
きっと領地にいる侯爵夫妻にも連絡が行っているわ。
家令が報告しているだろうし、学園からも連絡が行くはずよ。
簡単に問題解決…なんてのは無理よ。」
テイラー侯爵夫妻は厳格な方だと聞いている。
領地経営のためにずっと領地にいるほど真面目な侯爵が、
ダグラスが女性のために逃げたと知ったらどう思うだろうか。
きっとその女性はダグラスのためにならないと考えるだろう。
子どもがいる、私の専属侍女になる予定だ、だけでは説得に応じないと思う。
「そ、それはそうかもしれないけど、でも…」
「こんなことになって、侯爵夫妻はこう思うでしょうね。
ダグラスを早く婚約させておけばよかった、と。
ちゃんとした婚約者がいたとしたら、エマが身ごもったとしても、
同じ行動はできなかったでしょう。」
「それは…。」
真面目なダグラスだから、自分に婚約者がいたとしたら、
その婚約者をないがしろにするようなことはできなかったはずだ。
エマのことを愛していたとしても、侯爵家や婚約者の家のことを考え、
どれだけ辛い思いをしたとしても離れることを選んだだろう。
だからこそ、この件が侯爵夫妻に知られたら。
説得に応じる前に婚約者を決められてしまうはずだ。
「ダグラスの婚約には、あなたの意思は必要ないの。
侯爵と相手の父親の署名があれば成立してしまうわ。
そして、あなたと婚約者が学園を卒業したと同時に結婚させられるでしょう。
三年後、エマが私の専属侍女になって侯爵を説得できたとして、
…ダグラスは、結婚相手を捨ててまでエマを選べるの?
もしかしたら、その時には結婚相手との子どもがいるかもしれないのよ?
妻と子を捨てて、エマたちを侯爵家に迎え入れる?無理よ。」
「……。だけど…俺は…。」
理解したのか、何かを言いかけてはやめる。
どうやっても無理だと気が付いただろう。
ダグラスは侯爵家を捨てられないし、侯爵夫妻に歯向かうことはできない。
…自分にできることはない。
エマをあきらめるしかない。だけど、あきらめたくない。
ダグラスの葛藤が目に見えるようだった。
さて、そろそろいいかな。ダグラスの説得を始めよう。
「もし…すべてがうまくいく方法があるとしたら、どうする?」
「すべてがうまく?」
「ええ。ダグラスはエマを妻として娶り、
産まれてくる子どもを侯爵家の跡継ぎにできる。」
「そんなことできるわけないだろう?」
「私の力でそうすることができると言ったら?」
「…それは無理だ。いくらソフィア様が王太子だからといっても、
無理やり命じるような真似はできないし、そんなことはお願いしたくない。
ソフィア様がこれまでどれだけ努力してきたか知っている。
俺のためにそんなことをしてしまえば、貴族たちから反感を買うことになる。
そんな真似はさせられない…。」
やっぱりダグラスはダグラスだなと笑いそうになる。
どれだけつらくて助けてほしくても、私の立場を考えてくれる。
そんなダグラスだからこそ、助けられる方法がある。
「無理に命じることがなければいいのよね?
侯爵夫妻も家令も説得できて、貴族社会も納得するようにすれば。」
「だから、無理だよ。」
「いいえ。無理じゃないわ。
ねぇ、ダグラス。私の王配になる気はない?」
「「「は?」」」
ダグラスだけじゃなく、クリスとカイルまで驚いている。
クリスとカイルは護衛のためにここについてきている。
私たちの話に口を挟む気はなかったようで、ずっと黙って聞いていた。
だけど、これに関しては黙っていられなかったようだ。
「どういうことだよ。姫さん、何を考えているんだ。
侯爵家の嫡男を王配にするのは無理だろう?」
「無理じゃないはずよ。ほら、法を思い出して?
貴族家の嫡男を王配にする時、
家を存続させるために妻を娶ることができるでしょ?」
私の言葉にクリスも思い出したのか、驚いた顔になる。
「あぁ!そうだ!そういえばそうじゃないか。
公妾となってしまうが、正式な妻として娶ることができる!」




