25話 ルカニ湖へ
ネルキアの町へと戻ってきた俺とリゼルは、夜明けを待って新たな地へと出発していた。
道を行く、俺の袖と手袋は綺麗に元通りになっている。
それも助けた町娘が一晩かけて直してくれたからだ。
しかも相当腕が良いのか、寸分違わず元通りに修繕されている。
もしかしたら、裁縫・上級のスキルでも持っているのかもしれない。
それぐらい完璧だった。
そんな彼女は既に家に送り届けてある。
ゲオルクが死亡した現場にいた彼女だが、殺害の疑いをかけられることもないと思ったのでそうした。
華奢な娘が大柄なゲオルクに立ち向かえるとは誰も思わないし、衛兵二人の証言もあるから問題には上がらないはずだ。
それに城は今、それどころではない騒ぎだと思う。
その事はさておき、
俺とリゼルが今、目指している場所は、ここより南方。マクナ山の麓にあるというルカニ湖だ。
大魔導師ライムントの遺骨がそこに投棄されているらしい。
マクナ山麓付近には大きな街道が走っており道のりは分かり易いが、辺りに広がる森から度々発生する濃霧が旅人を惑わせることが多々あり、通称、迷いの山麓とも呼ばれている。
マッパーをやっていた俺からしたら迷うことは無いと思うが、出来れば霧は出て欲しくないのが本音。
そんな事を思いながら道を進んでいると、前を行くリゼルから鼻歌のようなものが聞こえてくる。
「ふんふふんふーん♪ ふんふふんふーん♪」
「随分とご機嫌だな」
「だって、百ウン年振りの外の世界なんだよ? 久し振りに世界を冒険出来て嬉しくて仕方が無いんだもん」
「王都から出発した時も同じこと言ってたぞ」
「それくらい嬉しいってことだよ」
「そういうものか」
「そういうもの、そういうもの」
言いながら足取り……いや、浮遊も軽くなる。
「でも、アレが出来ないのが残念なんだよねー」
「なんだ? アレって」
「まず、食べ物が食べられないでしょ? ネルキアに美味しそうなものが一杯あったのにジルクと一緒に食べ歩きが出来ないなんて悔しすぎるぅぅ」
「それは仕方が無いことだろ。既に死んでいるんだから」
「そうだよね……仕方が無いよね……」
「……」
リゼルは寂しそうに俯く。
「なんだよ……そんなに分かり易く落ち込みやがって。食わせてやりたくても俺にはそんなこと出来ないし、どうしようもないだろ」
俺がそう言うと、リゼルはどういうわけかニヤリと笑みを浮かべる。
「ふーん」
「なんだよ……」
「〝食わせてやりたい〟って考えてくれてるんだと思って」
「な……」
「それだけでも嬉しいよ」
「……」
そこで見せた彼女の笑みは、これまでになく柔らかいものだった。
「俺はただ、お前が物凄く残念そうな顔をしているから、なんて食いしん坊な奴なんだと思ってだな……」
「あーはいはい」
「適当にあしらうな」
すると彼女は再び微笑む。
「こういう時にギュッってしてあげたくなっちゃうんだよね」
「は?」
「それが出来ないのが、もう一つの残念なとこ」
「……」
そういえばゲオルクを倒した時に突然抱きついてきて、そのまま擦り抜けてったな……。
すぐに感情が行動に出てしまうタイプなのか?
「それはそうと、ルカニ湖に行ったことはあるのか?」
「あ、うん。前にその周辺でファイアドラゴンが暴れて困ってるって言うんで討伐に行ったことがあるよ。その時の死体がまだ残ってるんじゃないかな?」
「なんだ、そんな上物が眠ってるならもっと早く言ってくれよ」
「ごめん、今思い出した」
「……」
リゼルは苦笑いを浮かべながら申し訳無さそうにしていた。
頼りになるのか、そうでないのか……。
ともかく、ドラゴンの死体なら相当強力なスキルを得ることが出来そうだ。
ライムントの遺骨と併せて大物が二つ。こいつはモチベーションが上がる。
「じゃあ、その二つをサクッと手に入れてしまおう」
「うん、でもドラゴンの方はいいとして、ライムントの骨はどうやって探すつもりなの? まさか……あの広い湖に潜って……?」
不安そうにしている彼女に対し、俺は口元を綻ばせる。
「それには、ちょっと考えがあるんだ」
「考えって……どんな?? むむ……」
そんな事を言い出した俺の頭の中をリゼルは真剣に考えるのだった。
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