20話 戦闘開始
「面白い」
ゲオルクは白い歯を覗かせた。
「どのみち、お前が生きていることをアルバン達が知ったら、皆同じ答えを出すと思うからな。殺す――と」
「……」
「いいぜ? 相手をしてやるよ。どこからでもかかってきな」
彼は余裕の態度で俺に手招きしてみせる。
特に構えは取らず、待ちの体勢。
それだけで俺に対する評価がどの程度なのかが伝わってくる。
自分が圧倒的な強者であると自惚れていてくれるならばそれでいい。
それだけ隙も出来やすくなる。
気を付けなければならないのは、そんな舐めた態度でも俺の命を確実に絶つつもりでいるということだ。
アルバン達にとって俺は邪魔な存在。そこは今も変わらないのだから。
「なんだ、こないのか? 散々息巻いといて怖じ気づいたのかよ」
分かり易く煽りを入れてくる。
だが、こちらはこちらのペースでやらせてもらう。
パーティの一員として、しばらく共に戦ってきたからこそ分かる相手の手の内。
それは所持しているスキルについても同じだ。
ゲオルクが持っているスキルは、
斧術・超級(武芸スキル)
身体能力強化・上級(付与スキル)
無敗の盾(特殊スキル)
その三つ。
中でも特殊スキルである無敗の盾は、あらゆる物理攻撃を無効化するチート級のスキルだ。
そのスキルによってゲオルクはパーティの盾となり、アルバン達は安心して攻撃に専念することが出来ていた。
まさにゲオルクがゲオルクたらしめている象徴が無敗の盾だった。
だからこそ、このスキルを攻略することがゲオルクを討ち取るに等しい。
他に注意すべき点は超級にまで達している斧術だ。
超級とは上級の上位に位置するランク。
ギルニア王国中を探しても超級ランクのスキルを持っている者は数人のレベルだ。
ちなみにアルバンや他のメンバーも超級スキルの所持者。
だからこそ、青鈍のベンダークを倒せたとも言える。
ゲオルクの大斧から繰り出される攻撃は豪快且つ、繊細。
圧倒的なパワーを持ちながらも、針の穴を通すような細かい手業を繰り出してくる。
絶対的な防御力だけに留まらない力を持ち合わせている。
身体能力強化は俺と同等のスキル。
奴はこの三つしかスキルを持っていない。
数の上では俺の方が圧倒的に多くのスキル持っているが……。
「そっちがそういうつもりなら、こっちからいくぜ?」
痺れを切らしたのかゲオルクが先に動いた。
「そのまま世界の隅っこで大人しくしてりゃ生き長らえたのに。わざわざ殺されにのこのこ出てくるなんて――」
得意の斧を使わず、拳で殴りかかってくる。
俺程度の人間は、その豪腕さえあれば素手でも殴り殺せると思っているのだろう。
「ほんと馬鹿だよな!」
空気を切り裂くような拳が放たれる。
その刹那、俺は意識の中で呟く。
――スキル、瞬迅、見切り。
次の瞬間、奴の拳が頭の横を掠めて行く。
「何っ!?」
ゲオルクの表情が驚きの色に変わる。
確実に捉えたと思っていたものが空を切ったのだから、そうもなるだろう。
彼は立て続けに拳を繰り出すが、それを俺が悉く避けるので確信したようだ。
「見切りのスキルか! それにもう一つ……何か別のスキルが重なっているようにも見える。お前……いつの間にそんなスキルを……?」
さすがは腐っても一流の冒険者。すぐの俺のスキルを見破った。
だが、俺が何も返さないと見るや、彼は更なる行動に出る。
「なら、こいつはどうだ! 身体能力強化・右腕!」
途端、ゲオルクの拳にキレと速度、そしてパワーが増す。
不意の強化に回避が追いつかなくなる。
ならば、こちらも……。
――身体能力強化・左腕! そして、強靱化・左腕!
「なっ……!?」
次の瞬間、俺はゲオルクの拳を素手で掴み取っていた。
奴の瞳が見開かれる。
「まさか……身体能力強化だと!? それとこれは……強靱化スキルか!! 一体……いくつのスキルを……!?」
次々に繰り出される俺のスキルに、ゲオルクは戸惑っているようだった。
そんな中、俺は掴んでいる拳に力を込める。
「っ……!」
嫌な感じを察知したのかゲオルクは焦ったように手を振り解く。
「チッ……」
舌打ちすると、仕切り直しとばかりに一旦距離を取る。
そして彼の目から俺に対する侮蔑の色が消えた。
代わりに魔物に挑む時と同じ、戦士の表情に切り替わる。
ようは本気にさせてしまったというわけだ。
「どうやら甘く見過ぎていたようだ。ここからは本気で仕留めさせてもらう」
ゲオルクは右手を宙にかざし、叫ぶ。
「来い、魔戦斧!」
すると空中に裂け目が現れる。
それは今ここにいる場所とは別の空間。
ゲオルクは、その裂け目に腕を突っ込むと、中から身長よりも巨大な斧を取り出す。
禍々しい様相のそれは、武器全体から瘴気のようなものを発している。
それもそのはず。
その斧は、彼が魔界の暗黒闘士と戦い、勝利した際に戦利品として奪ったものだった。
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