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ワスレナグサが枯れたから

作者: 雪 里 枝


 夫は死んだ


 多分。




 海外赴任からの帰国で夫が乗った旅客機が、海の上で消息を絶った。


 遺体は勿論、消えた機体の欠片すら見つかっていない……





 私に残されたのは…お腹に宿る、彼の忘れ形見だけだった……




 ……この子が全て…今の私にとっては…… 


 ……愛を……そそごう…… 私の全てを擲(なげう

)ってでも……





 ……そして……… この子も死んだ……




 心臓発作を起こした車が、私達の車の後部座席を押し潰した。


 ………即死だった……




 …私には……何も……失くなった……… 見上げる煙突から立ち上る煙は……曇天どんてんに紛れて、消えて行く様だった……





 家に戻っても…私は一人……


 ………ふと…ポケットに延ばした指が…… 袋に触れた……

 この袋に入った塩を振るわなければ…… まだあの子は側に…… 居て……くれるのかな………



 私はそっと、その袋を靴箱の上に置き…… 疲れた身体からだを横たえた………




 翌朝……鏡を見て……驚いた。


 私の背に、半透明のあの子がいた。



 名前を呼び掛けると、困った様な曖昧な笑顔を浮かべ、相づちを返してくれた。



 ……私はまだ………一人じゃなかったんだ…… まだこの子と一緒に、暮らして行ける……





 ……そうはうまくは…行かなかった……



 私の身体は…幽霊と生きるには脆弱だった……



 この子に分け与える、命の力…………


 一日…一日と……体力の限界が、少しずつ短くなって行くのを感じた………




 もうあまり、時間が無い。




 私は取れるだけの有給を取った。


 表向きは子どもと別れる時間の為。


 ほんとは子どもと、これからも過ごすため……




 ずは、滝に打たれた。

 体力の無くなる前に……



 そして、修験の山を登った。

 だ足腰の動く内に……



 それから護摩業を行った。

 火の前に座って居られる内に……



 写経は後までとっておいた。

 失われた体力でも、まだ挑めるから……





 そして………磨り減り続けていった力が…… 下げ止まった………





 ………良かった…… 本当に良かった…………



 ………これで……私の命の続く限りは………


 この子と一緒に……


 末長く生きてける……





 ある日、中学からの親友から連絡が来た。


  ……随分と心配させていたらしい……



 ………うん………今の身体なら…… 大丈夫かな……


 久しぶりに彼女と会う約束を交わした。




 ……彼女は顔を合わせるなり、驚いた様な表情を浮かべた。そして


 「ねぇちょっと後ろ向いて」


 不意に言われたその言葉に、特に疑問も無く従った。


 その背中に……



 パサリと………



 砂を掛けられた様な感触………



 「もう大丈夫。あなた幽霊に取り憑かれてたわよ」




 ………えっ……まさか今の………塩………?




 …鳥肌が走った…… 私は慌ててウィンドウガラスを探した。 そこに写る私の姿を見るために。


 ……そして…私の背に……… あの子はいなかった………




 私を驚かせようと、ちょっといたずらで隠れているだけ………


 ……そんな淡い期待にすがってもみた……… けれど…もうそれっきり……あの子が表れる事は無かった………




 そうして私は健康な身体を取り戻した。



 …………けれども私は親友を、殺したいほど憎んでる。


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― 新着の感想 ―
[一言] 何が幸せなのか。 それは本人以外にはわからないことなんですよね。 よかれと思ってやったことで、まさかここまで憎まれているとは親友は夢にも思わないことでしょう。 家族との別れを繰り返し、親…
[良い点] 我が子との別離を二回も経験した母親の無念と悲しみが、ひしひしと伝わってきます。 除霊した友人には悪意が一切無い点が、ラストの遣り切れなさを一層に際立たせていますね。 [一言] 霊能力者にな…
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