乱獲無双してると、欲を出す奴が出て来るんだよな
サーベルラビットやマギアフーンを相手の攻撃圏外から一撃で射殺したという話が村で広まると、革職人は喜々として街に卸せないロックボアの端切れを巻いた弓を地元価格で村人に勧めていた。
が、弓を扱える人数はそんなに多くはない。
試してもらって、引ける者に売るといった形の販売で売りさばいたらしい。
そして、次の狩りの日にはその弓を持った者が6人、新たに参加している。
「サーベルラビットでもマギアフーンでも何でも来い!」
なんて、目の色を変えているが、こんな僻地で大量に獲っても後が困る事を考えているんだろうか?
などと思いながら、狩りへと向かう。
ちなみに、ドリス姐さんも弓が引けたらしい。
その日の狩りは持ち帰りを考えて半日で終了してしまった。獲り過ぎである。
「スゲェな。鹿やサーベルラビットを矢が貫通しやがるぞ。人の近くじゃ使えないな」
などと話しながらワイワイ帰途についた。
あまりに大量なのでみんなニコニコだ。
ずいぶん気も緩んでいる。
「ガエル。これだけ牙があれば私たちも一つぐらい貰ってもいいんじゃない?」
リーアもニコニコそんな事を言ってくる。確かにそうだな。
そんな和気あいあいと帰っていると、ドリス姐さんが立ち止まった。
「どうしたんだ?」
俺が暢気に声を掛ける。
「オカシイ。さっきから妙に静かじゃないか。何が来てるんだ?」
そう言って周りを警戒している。
ふと、二ホンの知識を思い出して、目と耳に集中してみた。
僅かに羽音が聞こえる。静かすぎて良く分からない程度だが、明らかに音がしている。
そして、音のする方向へと目を向け、集中した。
「居た。アレだ」
俺が指し示した場所には何も見えない。
「何言ってんだ?」
周りからそんな声が聞こえるが、どうやら俺と同じことをしたらしいリーアとドリスは気が付いている様だ。
「さすがにあんなものが出て来るとは、困ったもんだね」
男らしくドリスがそう言う。
「え?何あれ」
リーアは事態がよく呑み込めていないが、ソレは見えている。
そこには透き通ったナニカが見えている。虫のようにも見えるソレ。
「ヴィントリべレ、羽根が鋭い刃物になってる魔物さ。さて、逃げおおせるかね」
ドリスがどこか獰猛にそう言っている。
「おい、風の狩人だと?マジかよ」
ヴィントリべレ。風の狩人の異名を持つソレは、それと知られることなく襲って来る厄介な奴だ。一応、教えられてはいるが、見たことは無い。と言うか、普通は見る事が出来ない。
俺はスッと弓を構えて矢を放った。
まだ少し遠いだろうか。しかし届かないとは思わない。
「あ、見えた」
1人がそう言う。
見えたのではない。矢が命中して倒したんだ。
「やるね」
そう言ったドリスやリーアも矢を放ってヴィントリべレに命中させていく。
事態を察して他の弓持ちにもドリスが指示を飛ばして幾人か見えるようになったらしい。
「ちっ、すばしっこいな」
そう、最初の数匹は簡単に墜ちたが、その後の命中は中々得られなくてコワかった。
「ヴィントリべレが12匹とか、どうすんだよコレ」
何とか群れていたヴィントリべレを退散して、落ちたヴィントリべレに近づいた俺たちは唖然とした。
墜落途中に木を引っかけたのだろう、周囲がきれいさっぱり伐採されてしまった光景には驚くしかない。
「話だけは聞いたけど、コイツの羽根ってスゲェんだな」
驚くしかない光景だった。
「コイツの羽根なら大半のモノが切れるらしいからね。なぜか、コイツの甲羅だけは切れないが」
そう言って一人が器用にもぎ取った羽をヴィントリべレの体に当てている。
放置する訳にも行かないので何人かを村へと人を呼びに行かせ、俺たちは慎重に解体していった。
「6枚羽のトンボって事か。真ん中の羽には刃が無いみたいだし」
解体しながらそう感心していた。
前後の羽は剣や槍先にでも使うんだろうか。中央の羽根はどう使うんだろう?
呼んだ村人にも手伝ってもらって解体した有用な部位を持ち帰る。
村の職人は大騒ぎだが、羽根の加工はこんな僻地の職人では無理との事で、街へ持って行くしかないらしい。
数日後、街へ革や羽根を売りに行く集団が出発していった。
これから4,5日かけて街へ行くそうだ。
俺たちはいつものようにヒツジやヤギの世話をしたり、のんびりしたりしている。
「おい、ロックボアを狩りに行った奴らが失敗して村の近くま・・・・・・、取り込み中悪いが、頼めるか?」
そう言ってロイクがが家へと駆け込んできた。ちょうど、リーアの鎧を調節してやっていたところだったんだ。
「ああ、構わないが」
ちょっと気まずい。
「何やってんだ!ガエルは?」
ドリス姐さんもやって来た。そして、俺とリーアを見てから
「ガエル、30秒で支度しな。もうすぐ村にロックボアが来ちまうよ!」
まあ、リーアは既に準備出来ているし、問題ないが、30秒!?
言うなり飛び出していくドリス姐さんとそれを追いかけるロイク。
俺も急いで支度して、30秒は無理だったが、かなり素早く到着したと思う。
「おいおい、何やってんだよアイツら・・・・・・」
村の入り口出来るとすでに見えている。
放牧地をこちらへと走る人の姿と追いかけるロックボア。
「あ、ヤられた?」
誰かがそう言う。走っていたうちの一人が跳ね飛ばされた様だ。
「グズグズしてたら村まで壊されるよ。さっさと倒しちまいな」
ドリス根さんがそう言うので、俺たちも逃げる連中を助ける事よりもロックボア討伐を優先する。
何人かが矢を放つが弾かれる。
「ちっ、ロックボア弓なのに!」
そう言うが仕方が無いだろう。二ホンの知識によると、被弾経始とかいうヤツだ。硬い相手の、それも傾斜面や局面に弾かれてるんだ。
「まあ、そんな事もあろうかと」
そう言って俺が獲り出したのは、リーアがせがんだサーベルラビットの牙を加工した矢じりを着けた矢だ。
リーアも同じものを番えて射る。
「やった!」
リーアの声の通り、後ろ脚に矢が刺さり、引きずるようにしている。俺も矢を射る。
「ちっ、腹じゃ意味ないじゃねぇか」
自分の放った矢だが、当たり所は悪かった。
「いや、そうでもないかも。ほら」
どうやら、その矢で速度を落としたらしいロックボア。
「二人だけの取られないようにアタシらも行くよ!」
ドリス姐さんの掛け声でロックボアに掛けていく数人の集団。
うち一人が、よろめくロックボアの頭に槍を突き立てて仕留めた。