etivnI 話2第
先程から足音が絶えず聞こえていた。
使用人が俺に何か伝えづらいことでもあって部屋に入ることを躊躇しているのか。
いや、そうだとしてもこんなに往来することはない。
いつまでも入って来る素振りはなかったので、仕方ないと俺は椅子から立ち上がり扉の方へ歩いていった。
ガチャリと扉を開けてから視界に入ってきた姿は、背中の半分程まである茶色の髪をした女性だった。
あぁ、俺の妻かと合点がいく。
きっと、入っていいのか戸惑っていたのだろう。遠慮せず扉を叩けば良かったものを。
「先ほどから足音が聞こえていたが、俺に何か用か。」
声をかけるとティミリアは振り返る。
そして、茶色の瞳で俺をじっと見つめた。
「あ、あの、あの、わたしっ。」
急に声をかけたことで驚いたのか、上手く言葉を口に出来ていなかった。
そう焦らずとも伝えるべきことがあるのならば聞く。
俺はジッと彼女の言いたい言葉が出て来るまで待った。
「わ、わたしっ、あの、夕食を一緒に!!」
突如、声音が大きくなり彼女がひとつの提案を俺に投げかけてきた。
予想外の提案に俺は目を見開いてしまった。
「どうかと、思いまして……。」
それから小さく付け加えられた言葉が聞こえて来る。
夕食を共にするという考えは全く思いつかなかった。
なぜなら、彼女と俺の生活パターンが異なっているからだ。
俺は仕事が遅くまでかかるため、彼女が取る時間よりも2時間は遅い。朝食も昼食も仕事をしながら取るためダイニングまでは出向かない。
彼女を俺の都合に合わせさせることはどうなのだろう、と思い食事を共にすることはしなかった。
「ふむ……。」
俺は顎に手を当てながら少し考え込む。
確かに結婚してから1度も食事を共にしたことがないというのは如何なものか。
俺も思慮に欠けていた、彼女がそれを望むのならば叶えるのが夫の務めというものではないだろうか?
「食事か、それも良いな。では、本日は共にするとしよう。」
俺は彼女にそう告げてから扉をパタリと閉める。
それにしても彼女は大きな声を出せるのか。
いつも小さな声だったので、大きな声は出せないのだと勝手に決め付けていた。
ふむ、決めつけは良くないな。
俺は再び椅子に座り、書類に目を落とす。それから書類の片付けに没頭していると、トントンと扉が叩かれて人が入って来た。
ジェラルだ。
ニコニコとこの上ない笑顔を浮かべている。
「何がそんなに嬉しそうなんだ、ジェラル。」
「聞きましたよ、アレクセン様! 奥さまと食事を共にされると!」
パァッと明るい笑顔で嬉々としながらジェラルは俺に言う。
「あぁ、ティミリアが誘ってくれたんだ。共に食事をするという発想が俺にはなかったが、まあ夫婦なのに一度も食事の席を共にしていないのはおかしいと思ってな。」
俺の言葉にジェラルは「そうですか、そうですか。」と理由なんて何でも良いというように適当に相槌を打ちながらも嬉しそうな表情は少しも崩さなかった。
なぜジェラルが1番嬉しそうなのか、俺にはよくわからなかったが、まあ嬉しそうなら良いかと放っておくことにした。