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公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?  作者: みるくコーヒー


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第17話 Rescue

 バンッ! と扉が開く音が聞こえた。

 その音が私には絶望に差し込んだ光のようで、ひたすらにそれが助けであることを祈る。


 ネイト侯爵は私にナイフを向けたまま、扉の方を見た。そして目を見開き、ぐしゃりと顔を歪ませる。


 先ほどまでの勝ち誇ったような笑みとは全く違う。


「そこまでだ。」


 聞こえてきたのは私が待ち焦がれていた声。助けに来て欲しいと願い、そして彼は来てくれた。


 恐怖ではなく安堵から涙が溢れる。

 まだ安全ではないというのに、アレク様が来てくれたというただそれだけでこんなにも私を安心させる。


「なぜだ、こんなに早く見つかるはずが……。」


 ネイト侯爵の目が泳ぐ。

 その隙を狙って、私は彼の足をガッ!と蹴った。反動で椅子ごとガタンと倒れる。


 それからナイフが落ちる音とバタバタ!と人が走る音、ネイト侯爵の喚き声などが聞こえてきた。

 だけれど、椅子に縛られたままで実際にどうなっているのかを見ることは出来ず、状況を把握できない。


 ネイト侯爵は拘束された?

 私はこれで助かる?


 完全には安堵できない時間が私にはとてつもなく長く感じた。


 そして、突然に椅子を起こされる。

 視界に入ったのは焦る表情をしたアレク様だった。


「アレク様……。」

「ティミリア、怪我はしていないか?」


 アレク様は問いかけながら、私を縛っている縄を解いていく。


「とにかく、無事で良かった。」


 安堵の表情を浮かべるアレク様に、私は恐怖から解放された安心感と迷惑をかけてしまった申し訳なさでいっぱいなる。


 だけれど、助けに来てくれた嬉しさが何よりもあって、私はアレク様にギュッと抱きついた。


「私、アレク様に助けに来て欲しいって、願ってたんです。」


 アレク様は、ギュッと私を抱きしめ返してくれる。私を心配してくれていたんだ、ということが伝わる。


「外に馬車を待たせてある。家に帰る前に必ず病院へ行ってくれ。それから……話をしよう、俺たちの家で。」


 真剣な表情に、私をコクリと頷いた。


 決心がつかなくて、向き合うことが出来なかった。ずっとずっと逃げてきた。


 だけれど、それも今日で終わりだ。

 私は彼と話さなければならない。


 私は歩き出したが、アレク様はじっと立ち止まり動かなかった。


「アレク様は、私と一緒には来てくれないのですか?」

「俺はまだ、やるべきことがある。」


 私の問いかけに、アレク様はネイト侯爵をチラリと見ながら答えた。


「……わかりました。」


 きっと、これからアレク様はネイト侯爵にたくさんのことを聞くのだろう。


 私はもうネイト侯爵と顔を合わせ続けたくはない。一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


 そうして歩き出すが、どうも足がズキズキする。縛られていなかったときには感じなかった痛み、それが歩き出してから感じるようになった。


 小屋の外に出ると、馬車が一台止まっていた。私はそれに乗る前に服の裾を上げて足を見てみると、見事に血だらけだった。


 傷を確認すると、急に痛みが増す。

 私は騎士たちの力を借りてどうにか馬車に乗り込んだ。


「ご機嫌よう。」

「わっ!」


 馬車に乗り込むとき、足の痛みに気を取られすぎて中に人がいることに気付けなかった。

 そのため、突然に声をかけられて私は驚いてしまう。


 それと同時にガタンと馬車が揺れ、動き出したのだと理解した。


「かなり足を痛めているようね。まぁ、何はともあれ無事で良かったわ。」


 この綺麗な女性は一体誰だろう。

 一体アレク様とはどういう関係?


 いや、何だか見覚えがあるような気がする。顔じゃなくて、髪の色とか長さとか雰囲気が……あの夜会の時にアレク様といた女性に。


「あらやだ、そんな怖い顔しないで頂戴。」


 対面している女性は、何だか面白そうにクスクスと笑う。


「初めまして、私はラン・ネメリム・ホーンベールよ。」

「……ラン?」


 名乗られ、そして私は名前を呟く。

 その名前には聞き覚えがあった、アレク様の友人の名前だ。


 だけれど、アレク様の友人は男性のはずでは……いや、彼は一度もランさんを男性だとは言わなかった。


 じゃあ、私の完全な勘違い?

 だけどあの時キスをしていたのは?それは何?


「あの、アルメリア公爵家の夜会で、アレク様と話をしていました、よね?」

「あら! 見てたのね! えぇ、そうよ。本当は貴方に会いたかったけれど、帰らなければいけなかったの。」


 ランさんは申し訳なさそうに眉を下げる。


「じゃあ、えっと……あの時、キスをしていませんでしたか?」


 少し聞くべきかどうか悩んだ末、意を決して発した言葉に、ランさんは目をまん丸にして、それからケラケラと笑い出した。


「私が? アレクセンと? あり得ない! あんな男と口づけなんて絶対に出来ない!」


 豪快に笑いながら言った後、ハッと我に返って「あら、ごめんなさいね。」と謝罪を口にする。


 妻の前で旦那の悪口を言う人とは中々出会わないが、ロビンズさんがランさんのことを"性格が悪い"と評していたのを思い出す。


 きっと、思ったことを口にしてしまうからなのだろう、何だかアレク様と少し似ている気もするが。


 結局、あの夜会での出来事は完全に私の勘違いだったのだ。

 私が勝手に憤慨し、アレク様の言葉に耳を傾けず下を向いて沈み続けた。


 もしも私がもっと早くにアレク様と話をしていれば、今回の状況にはならなかったかもしれない。


「それで……どうしてランさんがここに?」

「アレクセンから連絡があったのよ。まぁ、厳密にいうと私の旦那にだけど。」


 旦那、ということはホーンベール伯爵か。何だか聞いたことがある名前のような気がする。数多いる貴族の中で聞いたことがある、ということは重要な役職についているのだろうか。


 正直、先ほどまでの出来事が衝撃的で且つ足も痛むので全然頭が回らない。


「どうして、ホーンベール伯爵に?」


 ランさんは知らないのか、という目を私に向ける。


「騎士団の総司令官なのよ。ホーンベール家は代々騎士を輩出していて、彼もずっと有望視されていたわ。半年ほど前に晴れて総司令官に任命されたけれど、ここ最近ずっと体調が悪いの、ストレスかしら?」


 アレク様はネイト侯爵を捕らえるために、総司令官の力を借りようとしたのだ。


 その結果、ランさんもこうして付いてきた。ただ、本当にアレク様とは友人であるだけで何もないのか、と少し疑りの目を向けてしまう。


 どうしても、すんなりと納得は出来なかった。それならば、どうしてアレク様は私に愛人を作っても良いと言ったのか。


「ネイト侯爵は裏社会の人間と繋がりがあった。騎士団はずっとその証拠を調べていて、彼を捕らえる機会を伺っていたわ。」


 ランさんは、淡々と話を続ける。

 私の視線に気づいてながら、それについては心底どうでも良さそうだった。


「だから連絡が来た時、騎士団にとってもタイミングが良かったのでしょうね。」


 ランさんが何を言いたいのかよくわからない。


「私、自分から貴方を迎えに行かせて欲しいと頼んだの。アレクセンに頼まれたわけではないわ。ティミリア・ロベルタ公爵夫人、貴方とお話がしたくて。」


 私はぴんと背筋を伸ばしてかしこまる。ランさんがとても真剣に、そして公的な場であるかのように私の名を呼ぶからだ。


 一体何の話をさせるのだろう。

 アレク様とランさん、2人の関係? それともアレク様の秘密?


 そんなことを考えていると、ランさんがくすくすと笑い出した。


「そんなにかしこまらないで! 難しい話をしたいわけではないの。」


 私はそう言われて、ぐっと肩に入れていた力を抜く。


「私は、アレクセンが結婚したと聞いてからずっとティミリアさんのことを心配していたわ。」

「私のことを、心配?」


 驚いて繰り返した私の言葉に、ランさんは「えぇ。」と頷く。


「アレクセンがどれだけ不器用で、それでいて暗くて深い闇を彷徨っているか、貴方もよくわかったはずよね?」


 私は、今までのことを思い返してゆっくりと首を縦に振る。


 だけれど、私は結局のところ彼を理解していなかった。私自身が壁を作って真に歩み寄ろうとはしていなかった。


 本当に彼を理解しようとしていた?

 私は彼の心の中を見ようとしていた?


 いいえ、私は自分が傷つくのが嫌で彼の心の奥底には触れようとはしなかった。


 妻として彼に寄り添うべきだったのに、自分の気持ちばかり押し付けた。


 傷つけられた、と自分をどこまでも悲観して結局のところ私は彼を傷つけていたんだ。


「そんな泣きそうな顔をしないで! 何も責めてるわけじゃないのよ。ただ、私が言いたいのは……そ、相談相手が必要なんじゃないかってことなの!!」


 私は予想外の言葉に目をパチクリさせる。ランさんの顔は真っ赤で、言ってしまった! という気持ちが表情に現れていた。


「1人で抱え込んでしまうことは良くないことよ! だから、私に話せば楽になることもあるかもしれないし、アレクセンのことも分かっているから、きっと的確なアドバイスが出来ると思うの。」


 次から次へと出てくる言葉に、何か言い訳をしているように感じられたが、顔を見る限り完全な照れ隠しで、私はふふっと笑ってしまう。


 さっきまであんなにも余裕だったランさんが突然こんなにも慌てているのだから、笑ってしまっても仕方ないだろう。


「ちょっと、何笑ってるのよ。」

「いえ、悪い意味ではないんです、ふふっ。」


 ムッと口を尖らせるランさんに、私は笑いながらも言葉を返す。


 それから心の中で罪悪感を抱いた。

 ランさんが本当に私たちを心配してくれているんだということが伝わって、本当はアレク様と密かに関係を持っているのではないかと疑ったことに申し訳ないと感じる。


 それと同時にアレク様に謝らなければいけない、という気持ちが強くなる。

 今すぐにでも"ごめんなさい"と謝って、もう一度夫婦としてやり直したい。


 きっと今度こそ私たちはうまくいく。

そんな気がするのだ。


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