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公爵様、地味で気弱な私ですが愛してくれますか?  作者: みるくコーヒー


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klaT 話31第


 俺は、ティミリアに全てを伝える決意をして彼女の部屋の前に立った。

 コンコン、とノックをして彼女が出てくるのを待つ。


 出てきたティミリアは、訝しげにこちらを見ていた。


「話がある。」


 そう言うと、ティミリアは「えっと。」と困惑しながらもそれに応じ、コクリと頷いた。


「……どうぞ。」


 ティミリアは俺を部屋に招き入れ、椅子へと誘導した。俺がその椅子に座ると、ティミリアが対面に座った。


 彼女の顔がよく見える。

 だけれど、彼女は下を向いたままで視線は合わなかった。以前の彼女に戻ったみたいだ。


 俺は使用人に部屋から出るように命じる。この部屋には彼女と俺の2人だけ。


「話とは、何でしょうか?」


 先に口を開いたのはティミリアだった。相変わらず下を向いたまま、俺に問いかけてきた。


「ティミリア、もうネイト侯爵と会うのはよしてくれないか?」


 率直に要件を話した。


「なぜ、そんなことを言われないとならないのですか?」


 聞いたこともない冷たく低い声に俺は目をぱちくりさせる。


 素直に聞いてくれれば良い、くらいに思っていたが、こんなにも明らかに反発されると面食らってしまう。


「彼は裏組織と繋がっているのだ。彼と一緒にいると君に危害が及ぶかもしれない。」

「そんな、そんなのは、嘘です。」


 ティミリアは首を振って俺の言葉を否定した。


 俺のことよりもネイト侯爵を信じるのか! そうキツく言ってしまいたかったけれど、言葉を飲み込む。


「本当だ、信じて欲しい。君のことが心配なんだ。」


 優しい声音でそう言うと、ティミリアは何も言わなかった。


「ネイト侯爵が君に近づくのも、俺を陥れるためなんだ。」

「嘘よ!!」


 何も言わなかったことので続けて言うと、ティミリアは声を荒げた。


 そうして、キッとこちらを睨む。


「ネイト侯爵は、私を気遣ってくれた。私を肯定してくれた。だけど、貴方は? 私をどれだけ苦しめたと思う?」


 その言葉と共に彼女の瞳から涙が溢れ出した。涙だけじゃない、彼女の感情も溢れていた。


 彼女の溜め込んでいたもの全てが解き放たれたように思えた。


 俺は、彼女を苦しめていたのかずっと? 彼女を支えていたのはネイト侯爵だと?


「貴方は最初から私を見ていなかった。初めて貴方と食事を共にしたあの日、私に何を言ったか覚えていますか? 覚えていないでしょうね。私は、あの言葉に今までずっと苦しめられてきた。忘れたくても忘れられない。」


 ティミリアから「ははッ」と渇いた笑いが零れた。


 俺の、言葉。


 "俺は、君が他の男性に心を向け愛人を作ろうと責め立てるつもりはない。先に伝えておくが、俺は君に愛情を求められても返すことはできないだろう。"


 蘇ってきたのは彼女ためを思った言った言葉だ。本当に? 本当に彼女のためだった?


 俺は、ただ逃げていたんじゃないか?

 欠陥人間である自分を否定されたくなくて予防線を張って逃げたんだ。


 それが、彼女を傷つけた。苦しめた。


「ティミリア。」


 俺は、目の前の女性の名前を呼びながら手を伸ばして彼女に触れようとする。


 触れた瞬間に、パシン! と手を叩かれた。


「触らないで。」


 彼女から向けられたことない、明らかな敵意の視線を向けられる。俺は、大人しくその手を引くことしか出来なかった。


 彼女からの明確な拒絶が、俺が思う以上に俺の心を抉った。


「貴方には愛人がいるのに、私に何かを言う資格があるの?」

「一体、何の……。」


 "愛人"の言葉に思い当たることがなくて、彼女に言い返すと「惚けないで!」と怒鳴られた。


「アルメリア公爵家のパーティーで、ランさんを探すといって愛人の女性とバルコニーで会っていた! キスまでしていたじゃない!」


 俺は「違う。」と言うことしか出来なかった。ランを探していたんだ。愛人の女性なんていない。バルコニーでランに会っていたんだ。キスなんかしていない。

 言いたいことがたくさんありすぎて、何を言って良いかわからなくて、頭がぐるぐると回る。


 ティミリアがバッと立ち上がった。


「実家に帰ります。」


 そう言って、ティミリアは扉に歩き出す。


「待ってくれ、ティミリア。待って!」


 彼女を追いかけて、抱きとめたい。

 全部の誤解を解いて、俺を信じて欲しい。


 そう思っているのに上手く足が動かない。


 俺は、また間違えたんだ。

 失敗した。違う、ずっと失敗し続けていた。


 確かに最初は興味がなかった。

 何だって良かった。


 だけど、途中から彼女を大切だと思い始めた。そして、今、俺はそれを失った。


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