gninnigeB ehT 話1第
「用がないのなら、さっさと失せろ。」
俺はそう言いながら書類に目を通し続けた。
俺の妻であるティミリアが突如訪ねてきたのだが、何も言わずに黙りこくっているのでそう言い放ったのだ。
小さな声で謝罪の言葉が聞こえ、その後バタンと扉が閉まり彼女は出ていった。
正直、結婚したが彼女のことはよく分からない。
俺は両親が早く他界したことから18歳という若さで公爵となった。しかし、誰かの傀儡になることなく公爵として全う出来ているのは、生前両親が公爵として必要な全てを教えてくれていたことに加え、元来の俺の性格が起因しているだろう。
そうして現在25歳。
そろそろ結婚すべきだと使用人や周囲の友人から口酸っぱく言われ続けてきた。
正直、俺は特に恋愛ごとには興味がなかった。
不能ではないし、女性との経験は少ない訳ではない。だが、特定の誰かと恋仲になったことは一度もなかった。必要性を感じない。
だがしかし、こうも煩く言われると流石の俺でも応えるものがあった。それに加え、確かに後継ぎのことを考えると一生独り身というわけにもいかない。最終手段として、養子でも取れば良いと考えていたことは一生誰にも言うまい。
率直に言うと、伴侶など誰でも良かった。
華やかな見た目の者は我儘が多いから目立たなく地味な容姿で、口煩く擦り寄って来るような女は嫌だから大人しい女性が良い。20歳くらいの結婚適齢期超え間近の女の方が断られにくいだろう。
そんな条件を出したところ従者が選択肢として挙げた女性は3人で、その中の1人がティミリアだった。
誰でも良かったが、従者のジェラルが彼女が良いのではないかと強く推していたことや、写真を見て直感的に彼女がいいのではないかと感じたことが決め手だった。
結婚式は挙げなかった。
特に挙げる必要性を感じなかった。
彼女にもそれを伝えたら頷いて納得していたので、彼女も式を挙げることを重要としていなかったらしい。
初夜は勿論、寝室を共にしたことはない。お互い好意を持って結婚した訳ではないのだから、初めから寝室を共にしてそのような行為をすることは如何なものかと判断したのだ。
幸い、彼女からは何も言われていないので俺の選択は間違っていなかったらしい。
それに、正直彼女は俺に苦手意識を感じているのだろう。いつも目を合わせず、小さくなっている。
「アレクセン様、先ほど奥様が足早に去られていましたが?」
ジェラルが執務室に入ってきて俺に問いかける。彼は、俺が公爵になる前からロベルタ家で雇っている従者だ。
「あぁ、突然訪問してきたのだが、何も言わず黙っているから出て行かせた。」
俺がそう言うと、はぁ、とジェラルがため息をついた。
「何故ため息をつく。」
「いえ、先が思いやられただけです。」
俺はジェラルの言っている意味がよく分からず、小さく首を傾げた。
「何故先が思いやられるのだ。」
「アレクセン様はいつも気にするところがズレていますよね。もっと他に気にすることがあると思うのですが。」
何を気にするべきなのだ、と更に問いただしてみようかと思ったが、ジェラルの視線が厳しかったことと、再び大きなため息を吐かれてしまうような気がして、俺は大人しく机の上の書類に目を落とした。
ティミリア視点→アレクセン視点と交互に展開しながら物語は進んでいきます。
明日からは昼の12:00と夕方の18:00に投稿します。よろしくお願いします。