最終決戦は『 』で
「それで何をするかだが……ん?」
急に、何だろう、風? のようなものが吹いた、ような。
「俺くん、何か来る」
「俺くんって言うな、何が来るんだ」
「わかんないけど気をつけて。裏側くんも」
「ああ」
風が強くなる。吹いて、吹いて、吹いて、
空間が裂ける。出てきたものは、
『――、――』
「なんかでかい刃物がついた機械……」
「ぼーっとしてる場合じゃないよ俺くん、逃げるよ」
「えっ逃げるの」
「逃げるでしょあんなの! ほら走って!」
表側に促され、俺は走り出す。
逃げるっつったってあんなものから逃げ切れるのか?
っていうか『裏側』の地理とか知らないけどどこまで逃げたら逃げ切れるんだ?
……あれ。
「俺くん!?」
「裏側は……」
「裏側くん!? そういえばいない! 何してるんだあいつ!」
背後で轟音が響く。
機械が追ってきたのかと思った、しかしそれは、
「うわ俺くん、裏側くん戦っちゃってるよ!」
「戦ってるのか、あれと!?」
足を止め、振り返る。
裏側がどこから出したのか大きな斧を構え、機械に応戦していた。
「裏側……」
「足止めちゃ駄目だよ、逃げないと」
「逃げるのか……」
「僕たち戦闘能力ないでしょ。あんなのと戦ったら死ぬよ。裏側くんが止めてくれてる間に逃げないと」
「……」
「俺くん?」
『――のに』
『言ったのに』
『用済みだって、言った――』
『の――』
「裏側……表側……俺は……」
光。
◆
「来たか」
「ああ」
「倒すぞ」
「わかってる」
剣を、構える。
中空から出てきた剣、『裏側』に眠っていた剣。
輝く。
選ばれしそれは役目を終えてもなお選ばれたままだった。
『用済、』
「俺は用済みなんかじゃない……」
『言った――』
「スクラップは黙ってろよ」
『――のに』
「お前の言葉は聞かねえ、お前たちの言葉は」
「主、右だ」
右から振り下ろされた刃を、避け。
だが左からも来ている。これをどうするか、それは、
剣で受けるのが定石。
「……」
と、弾く音。
「……?」
「話を聞かないのは裏側くんも俺くんも一緒だね、ほんと困るよ君たちほんと」
「表側……」
「ぼーっとしてないで、やっつけるんでしょあれ」
「うん」
「行くよ、勇者」
「わかってる、魔王」
「魔王は二人いるんだから表側って呼んで」
「相変わらず気が抜けるなお前……」
「行くよってば!」
「はいはい」
戦闘、轟音、天高く跳び上がり、振り下ろし、光の剣が刃を破り、『それ』を両断した。
◆
「やっぱ勇者が覚醒すると強いねー!」
「俺はもう勇者じゃないんだが」
「でも世界は勇者が欲しいんでしょ」
「そうらしいな……」
「腹立つよねえ。勝手に君を用済みにしたくせに都合のいいときだけ欲しがるの」
「そうは言っても仕方ないだろ、勇者なんてそんなもんなんだから」
「わざわざ自分のトラウマと戦わせて再起できるようにしてさあ。手が込みすぎてるんだよ」
「でも魔王、お前が怒る必要ないだろ」
「魔王は二人いるんだから表側って呼んでって言ったのに」
「表側の言う通りだ主」
「ま……裏側」
「我は裏側」
「二人いたときはどっちも魔王で俺は倒せばいいだけだったから区別とかしてなかった……のが今になって効いてくるとか嫌な話だな」
「別にいいでしょ、今は今の名前がある」
「じゃあお前も俺のこと勇者って呼ぶのやめろよ」
「えー。じゃあ何て呼べばいいの」
「え……」
「俺くんでいい?」
「え」
呼び名。改めて考えると俺の名は、あった、が、なくなって、
失われたものは戻らない。
俺の名前は、無い、無、名前のない者は……
「特に希望がないなら俺くんって呼ぶね!」
「えっ」
「けってーい」
「おい」
「主に拒否権なし!」
素性バレしても関係性変わらないのかよ!
「主、次はどこへ行く」
「そうだな……なんで世界が俺を必要としてるのかとかわからないけど」
「……」
「聞きに行くか……」
「お、楽しそうじゃん! ついてくついてく! けってーい!」
「逆についてこないつもりだったのかよ」
「いや? ついてくつもりだったよ」
「我もだ」
「そうかよ……」
ちょっと嬉しかったのは秘密だ。
そして日常は終わり。
冒険が始まる。
それはまた、別の話。