まもりぼしの大切なたからもの
むかしむかし、お月さまはピカピカ光る小さな星と一緒に青い星のそばに住んでいました。お月さまはその小さな光る星を「ピカリ」と呼んでとてもかわいがっていたのです。
ピカリはコロコロ転がりながらお月さまの周りをくるくる回ります。ピカリの大きさはお月さまの半分よりもずっと小さい大きさ。短いシッポをフリフリしながらお月さまを見つめて、コロコロ笑うのです。
「今日はどうしたんだい?」
コロコロ笑うピカリにお月さまは尋ねます。
「だって、お月さまの後ろブツブツなんだもん」
「ははは。そうだね」
そうなのです。ピカリはお月さまの周りをくるくる回るのでお月さまが見えない場所まで見てくることが出来るのです。そして、そのピカリの言うブツブツは、おそらく小さな星くずがぶつかって出来た傷跡なのです。
お月さまはいつもその小さな星くずがやっぱり小さなピカリにぶつからないように気をつけていました。
おそらく、そんな小さな星くずでもピカリに当たってしまっては大変なことになってしまいます。だけど、お月さまはそんなことは何も言いません。ただ、にこにこしながら言うのです。
「ピカリは良い子だね。教えてくれてありがとう」と。
青い星の向こうには赤い星。そして、お月さまの向こうとなりには金色に光る星が並んでいます。それもピカリが教えてくれたのです。
「お月さまのおとなりには青くて綺麗なお星さまがあってね、反対のおとなりには金色に光るやっぱりおおきくてピカピカのお星さまがあるんだよ」
「へぇ。そうなのかい?」
「うん」
ピカリは得意げ。
「ピカリはものしりだね」
ピカリはやっぱりコロコロ笑います。
そんなピカリを見ているとお月さまはとっても幸せになるのです。
ところがある日、突風がお月さまをおそったのです。それはいつもよりも強い風でした。もちろんお月さまはピカリをまもるためにその背中で突風を受け止めます。だけど、風に飛ばされたいくつかの星くずがピカリをはさんで向こうにある青い星にまで落ちていってしまうほどの風でした。背中にポツポツ当たる星くずと頭を越えてやってくる星くずに思わず目をつぶってしまったお月さまは、小さな声を聞きました。
「わぁ」
ピカリの声です。
その声に慌てて目を開けたお月さまでしたが、もうピカリの姿が遠くなってしまっていました。
ピカリはお月さまの頭を越えてやってきた突風に吹かれて、青い星にほんの少しだけ倒れてしまったのです。その瞬間、ぐぃーとピカリの体は青い星に向かって引き寄せられてしまったのです。ピカリの力ではどうにも出来ません。
お月さまは慌てて手を伸ばしましたが、わずかに残ったピカリのシッポの先っちょが手の中からこぼれていくのが分かりました。
お月さまは大きな声でピカリを叫びます。涙がどんどん溢れます。その涙がどんどん青い星に向かって落ちていきます。涙で見えなくなったのか、それとも本当にピカリが見えなくなったのか、ピカリを叫んだその声を最後にピカリの姿はお月さまには見えなくなってしまっていました。
その日、青い星は未だかつてないオーロラに包まれ、渦巻いた黒い雲からは雷が何度も生まれ、大地を水で満たしてしまいました。
ピカリはその水の中、お月さまの夢を見ながら沈んでいきます。水の中はお月さまと一緒にいた時と同じように温かく、ほんわりとしていて、気持ちの良いものでした。
「あ、おつきさま」
ピカリがその水の中から見上げた空にはピカピカに光って見えるお月さまがゆらゆら揺れて見えました。
「おつきさま、きれい」
それからピカリは水の中をコロコロ転がって過ごしました。それはお月さまのそばにいる時と同じでした。お月さまはそばにいませんが、見上げるといつもお月さまがピカリのそばにいるようで、ピカリはお月さまにお話をします。
「あのね、おつきさま、ここは変なところだよ」
うにょうにょしてて、ピカリとおんなじようにこの水の中をゆらゆらしてるのがいるよ。
あのね、にゅるっとしたのがピカリに絡まってくるんだよ。
あのね、最近ピカリを突っつくヤツがいるんだよ。とってもこそばゆい。
あのね、時々ピカリにぶつかってくるヤツがいてね、
あのね、ピカリ、ちょっと小さくなってきたんだ。
あのね、あれ?
あのね……。
…………。
ピカリが落ちた青い星はたくさんの生き物が住む星になりました。いつしかそこは「地球」と呼ばれるようになり、空に浮かぶ特別な星のことを「おつきさま」と呼ぶようになりました。
お月さまは優しく光りながら、地球に生まれた生き物たちを見つめていました。
彼らはとても弱い存在でした。
そして、たくさんの建物を作るようになりました。
建物はどんどん高くなりました。
いつか、本当にお月さまに届くほど。
「あのね、お月さまって地球の周りをくるくる回ってるんだよ」
「へぇ、そうなのかい?」
「うん。学校で教えてもらったの」
ベランダでお月さまを見上げた親子が語らいます。
「あのね、えいせいって言うんだよ」
「ちゃんと勉強して、えらいなぁ」
子どもがお月さまに手を振ります。
「おーい、お月さまー」
「衛る星で衛星って言うんだよ」
「へぇ……あ、お月さま笑った。じゃあ、お月さま、ぼくたちのこと見てるんだね」
子どもがお父さんを見上げました。
「そうかもしれないね」
お月さまは今も優しく見守りながら、地球の周りを回っています。それはやっと見つけたさがしものを見守るために、もう見失わないようになのかもしれません。
お読みくださりありがとうございました。
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