表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンテニューから始める最弱勇者  作者: 霜月刹那
一章
6/10

蘇り

目を覚ます。目の前にはここ1ヶ月で見慣れた天井。カイトは勢いよく身体を起こして自身の身体を確認する。何せ記憶の最後にあるのは自分が瀕死の場面。あの状況で自分が生きているとも思えないのだった。一通り自分の身体を見てみるが、マンティコアにやられた傷どころか身体の至る所にあったはずの殴られた痣なんかも綺麗さっぱりに消えていたのだ。

不思議な出来事に困惑していると部屋の扉が開く。


「っ?!ぶ、無事か?!カイト!! 」


扉を開けてカイトが起きていることに驚き、モルダンが飛びつく。


「え、えぇ。まぁ、大…丈夫ですけど……」


そういうとモルダンは安心して近くの椅子に腰をかける。


「いやぁ、良かったよお前が無事で。あの時、お前がマンティコアの目に剣ぶっ刺して牽制してくれたお陰で、何とか討伐もできたんだ。お前以外には重傷者はいないし、本当に助かったよ」


どうやら被害は俺だけに済んだようで良かった。一応、肉壁としての機能はしていたようで何よりだ。だが、ダンジョンに赴いたが結局職業は覚醒しなかったので無意味だったわけなんだが。

と、そんなことを思っているとモルダンは先程までとは違った真剣な表情でカイトに話を持ち出す。


「実はなお前に聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと……ですか?」


「あぁ。本来マンティコアの攻撃を食らって五体満足で生きているやつなんて居ない。ましてや、そいつが無職なら尚更な。だが、お前は生きている。なぜだか、わかるか?」


単純に運が良かったという話では確かに納得できないことはある。確かにあの時確実に腹には大きな穴を開けられていて、血の量も半端じゃなかった。なのにその傷も完璧に修復されており、身体中の痣もなくなっているのだ。今の状況を説明するために1番納得が行くものは……。

そう思いカイトはステータスオープンと呟く。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

橘 廻斗 17歳 男

職業:転生者

固有スキル:【輪廻還り】

EXスキル:【転生の刃】

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


目の前に展開されたホログラムにはしっかりと職業が記載されていた。


「転……生者?」


やっとの事で覚醒した職業なので、嬉しいのだが今まで読んできたラノベやアニメのなかで転生者という名前の職業は一度も見た事がない。


「俺もそんな職業は聞いたこともないな。詳細を教えてくれ」


カイトは覚醒した職業の能力に不安と期待を抱きながらも職業についての詳細を見る。この職業の固有スキルである【輪廻還り】はどうやら死ぬとありとあらゆる状態異常や傷や欠損などを完全修復し、生き返る能力らしい。

ここだけ聞けばチート能力ではあるが、もちろんリスクが無い訳では無い。生き返る度に自身の『記憶』を消去して復活するらしい。もちろん何のどんな記憶を無くしたかなんて分かるわけないのだが、生き返るのにはある程度の制限があるということだ。


「記憶が………無くなる……?」


言われてみれば何か大切なもの、カイトにとってとても重要で大切な”何か”が無いような気がする。もちろん思い出せないし、そんなものは単なる気のせいかもしれないが。


「まぁ、よっぽどの事が無い限り死ぬことは無い。安心しろ」


記憶を無くすということに動揺を隠しきれなかったカイトを安心させるようにモルダンが声をかける。

確かに今までのカイトであれば即死はあったが、今では職業が覚醒しているので殆ど死ぬことは無い。そう思いさらに職業についての詳細を見る。

EXスキルの【転生の刃】は自身の思い描く刃を発現させることができ、その刃を用いて殺害した魔物や人物のEXスキルを習得することができるというものだった。


「なるほど、これはかなり強いスキルだな」


このスキルを使えばそこら辺の魔物のスキルはもちろんのこと、優秀なスキルを持っている人物を殺害することで盗むことだって可能なのだ。まぁ、殺人はしないが。

職業の詳細をある程度把握するとモルダンは手を叩き立ち上がった。


「よし!そうとなれば早速実戦訓練だ」


「え?」


「これから近くの雑魚モンスターが集まるところに行く。そんで、今のお前のスキルがどこまでできるのかを把握しておく。もちろん、来るよな?」


モルダンは手を差し出す。今まで無職でなんの力も持たなかったが1度死ぬことによって力を手に入れた。それは使い方によれば強力だが、結構地味。だが、そんなことは今のカイトには関係なかった。職業が覚醒し、この世界での自分の存在価値を見出すことができたのだ。

カイトは差し出された手を強く握ってベットから立ち上がり、勢いよく返事をした。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


涼しい風が吹き抜ける草原。どことなく雰囲気が田舎にいた頃のお気に入りの場所に似ている。王宮から馬車で約一時間のところにあり、野生馬が草原を駆け回っている。


「いいだろ、ここ。結構俺のお気に入りなんだ」


「そう……ですね………」


草の匂い。吹き抜ける風。やはりあの丘の場所に似ている。いつも1人でそこから町を見下ろしたり、昼寝をしたり友達と遊んだり……。田舎にいた頃の思い出は?と聞かれたらまっさきに思い浮かぶそこはカイトにとってとても思い出深い場所である。だが、何か重要な何かが足りないような気がする。思い出そうにも思い出せない。思い出せないと言うよりかは元々その”何か”は存在していないはずなのにいるような気がする。そんな違和感に気持ち悪さを覚える。


「ここは俺の嫁と娘とよく遊んでいた公園に雰囲気が似てるんだよなぁ」


「へぇ、………お元気なんですか、娘さん」


「……あぁ、元気だよ。俺に似てかなりやんちゃなんだよ」


そう語るモルダンの方を見ると、ダンジョンでモルダン達が対峙していたマンティコアがつけていた首飾りを強く握り締めている。その表情は娘との楽しい思い出話を語る父親の顔ではなく、酷く憎しみに満ちた表情だった。

さすがの陰キャボッチでもこれ以上深堀するのはNGということはわかるので凄く気になるがこれ以上は言及しないでおく。

そんな話をしていると目の前にスライムが湧き出た。


「おっと、思い出話にふけてる場合ではないな。カイト、試しにあのスライムを倒してみろ」


「はい」


初めてのスキルの使用。正直どうやればいいのか分からないのでとりあえず心のなかでスキルの名前を呟いてみる(口にだして言うのは恥ずかしいので)。すると身体の中心から右手にかけて力のようなものが流れる。それは青く発光し徐々に右手の中で形作っていく。青色に発光したそれはマンティコアに一撃与えた短剣の形に酷似しており、エネルギー兵器のように常に青く発光している。

こちらの存在に気づいたのかスライムはキュキュっと鳴き声を上げながらこちらに近づいてくる。小ぶりなスライムなので一撃、スライムの身体目掛けて短剣を突き刺すと断末魔を上げながら弾けた。弾けたスライムの破片からは青い蒸気のようなものが立ち上がり、吸い込まれるようにカイトの身体の中に入っていく。

身体が宙に浮くような不思議な感覚に襲われ、力が漲って来るように感じる。すると胸に刻まれた文字が青く浮かび上がりホログラムを投影した。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


EXスキル【捕食】を獲得しました


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


まるでゲームのような表示が現れ、カイトはすぐに手に入れたスキルの詳細を確認する。

【捕食】は自身の触れているものを瞬時に異空間へと収納することが出来るというものだった。収納できるものには制限があるらしく、使用者の質量分しか収納できなく、生き物や魔法などを収納することはできないようだ。


「どんなものを手に入れたんだ?」


興味津々な表情でモルダンが近づいてくる。カイトは手に入れたスキルの詳細を話し、試しに実践してみることにする。

試しに近くにあった小石に対して【捕食】を使うとどこかへに消えるのと同時に頭の中に異空間のようなイメージが広がり、その中に先程の小石が現れた。次にその小石を取り出すイメージをすると手のひらへと小石が現れた。


「おぉ、コイツはかなり便利だな。よし、この調子でどんどん狩っていこうか!」


何故かモルダンはカイトよりもはしゃいでいるが、カイトはそんなことは気にせず魔物狩りに勤しんだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


一通り魔物を狩ってわかったのは入手できるスキルは取捨ができるということと【転生の刃】は他の武器に付与(エンチャント)することができるようだ。

手に入れたスキルを眺めながら自室に戻ると部屋の前でノックしようかどうしようかと悩んでいる湊さんが見えた。


「えっと……なにしてるの?」


「ひゃぃっ?!」


急に声をかけられてビックリしたのか変な声を上げながらこちらに向いた。


「あ、橘くん。あの……その、えっと………」


湊さんは何か言いづらそうな感じでモジモジしている。丸ぶち眼鏡の奥に見える瞳は何かに怯えているように見える。


「湊さん………?」


「ご、ごめんなさい!!」


湊さんは急に頭を下げて謝りだした。


「私のせいで橘くんが大怪我しちゃったし、それに……それに……」


カイトは自身が死んだ理由が湊さんを庇ったことによるものということを思い出す。

どうやら湊さんはカイトが瀕死の重傷を負ったことを自分のせいだと思っており、それに対してカイトが怒っていると思っているようだ。


「だ、大丈夫だよ!ほら、怪我だって治ってるしそれに職業だって覚醒したし」


あの場での庇いは当然のことだと思っている。もしもあそこで庇えてなかったら俺は海渡達どころかクラスメイトの全員からいじめられることになる。無職として肉壁は当然の役割だ。


「ほ、本当に?本当に、大丈夫?」


「ほ、本当だよ」


「そっか……えっと、じゃあ………」


「ん?」


「た、助けてくれて……ありがとう……」


湊さんはそういうと足早に帰って行ってしまった。その時の彼女の表情はとても可愛らしく、心の底から彼女を助けて良かったと思えるほどであった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


深夜にて、カイトは今頃になって職業が覚醒したという実感が湧いていた。そのせいで今は眠れないのでいたのだ。さすがに実践訓練での疲れはあるので早めに休みたいのだが、どうにも意識が覚醒してしまう。

一度も気分を変えるために外に散歩へと出かけると道中で完全武装をしたモルダンを見つけた。気になり後をつけてみるとどうやら大広間に武器を構えながら入っていく。

こんな夜中に大広間で何をしているんだと思いながらさらに近くによろうとすると、近くの鎧立てに躓いてしまいモルダンにバレてしまう。


「誰だっ?!」


「あー、えっと……俺なんすけど………」


そう言いながら両手を上に挙げ降参ポーズでモルダンに近づいていくと


「っ?!来るなッ━━━━━!!」


突然視界が床に崩れていった。何が何だかわからずに動揺していると、それは目の前に倒れてきた。見慣れた部屋着を着ているが、首から先が無く断面からは夥しい量の血を流している。


「ぇ━━━━━━」


それは紛れもなく先程まで自分で動かしていたが、今では別々になってしまった自分の身体が転がっていた。



モチベーションに繋がるのでブクマよろしくお願い致します。

また、気軽にコメントも書き込んでください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ