ニュートンの戦場
例の集団がゲームに細工をして1年後までにクリアできなければタイムオーバーと同時に全員が死ぬことになる。
それを回避するためにみんなレベル上げに勤しみ始めた。
当然、フローラルとテスタもあの日から2日後に南の門からモンスターの出現する森エリアに入った。
この1層目でもかなり広いが、そこからあたりのダンジョンを見つけるのを10回繰り返す。
これは控えめに言ってもかなり大変な作業になるだろう。
しかも、プレイ人口が1万人しかいないものダンジョンが見つからない可能性を上げる。
「そんな地獄のゲームか。私は楽しくてしょうがないね」
変人フローラルは狂人の目でニヤリと笑ってそう言った。
それを見てもテスタは引くことがなかった。
「とりあえず、まずはクエストを受注したから達成しながらレベル上げましょう。装備も用意しないと勝てませんから」
テスタがそう言っていると、その横で静かにフローラルが小石を武器にして撃って目標の虎のモンスターを退治していた。
「何か言った?」
「いえ、そんなチートみたいな人にはレベル上げは必要ないかなと言いました」
怖すぎる変人に真顔でテスタはそう返した。
その反応にフローラルは大笑いした。
「それにしても、みんなそんなに生きたいのかね?」
クエストのビッグタイガーの皮をドロップしてるか確認しながらフローラルはそう呟いた。
それにテスタは答えた。
「そりゃあ、人間誰でも生きようとしますよ。フローラルさんもそうでしょ?」
「私は楽しそうだから戦うだけ。死ぬ時は死ぬから抗おうとはしないよ」
「あっさりしてますね。それなのに誰かのために動こうとはするなんて変ですね」
テスタがそう言うと、フローラルは皮を拾ってる途中でピクッとしてから固まった。
それからすぐに元に戻って皮をボックスに収納した。
それからフローラルはテスタの目を真っ直ぐ見つめて言った。
「私が変人な理由はわからないけど、誰かを助けるのは私の使命だと思ってる。一度死にかけた時に移植でもらった命は、私のためじゃなくて誰かのために使いたいと思ってるんだ」
この真剣な目を見てテスタはこれが本音だと知った。
それで今までの戦闘狂の最低変人という評価を改めた。
「よかったよ。スキルも僕も選ぶ相手を間違ってなかった。改めてこれからよろしく」
そう言われて差し出された手をフローラルは真剣な眼差しで取った。
そこで少しの間握手を交わしてから2人揃ってクエスト達成を報告するために戻っていった。
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街に戻ってあの広場の近くにあるクエストの受付所に2人が姿を表すと、いろんなパーティーがこのパーティーを観察していた。
出来そうなら仲間にして攻略に行くつもりなのだろう。
そんな愚かな連中を無視してフローラルは受付嬢に皮を渡した。
それから振り返ると、テスタが2人のパーティーの印が入った旗を掲げて大声であの集団に宣言していた。
「みなさん!こんなところで待ってるんじゃ先に進めません!《ジャンヌ・ダルク》の名の下に宣言します!こんなところで向こうから来るのを待つようでは生きられないでしょう!助かりたければ突き進むのです!」
それを聞いた5つのパーティーはそれに感化されて行動を始めた。
その状況を離れてみていたフローラルには異常なじょうきょうにみえた。
なにせそのパーティー達のリーダーがテスタの下につきたいと言い始めてるから。
それを見守っていたフローラルは仕方なくテスタのそばに近づいた。受付嬢から報酬を受け取ってから。
「かっこよかったよね。私の仲間は」
そう言いながらフローラルが近づくと空気が凍りつくのを感じた。
それでも5人のリーダー達はフローラルに仲間にしてくれと言ってきたのでキッパリと言った。
「私は仲間にする相手を選ぶの。あんた達はフレンド程度が限界だね。でも、テスタが必要だと言ったらすぐに声をかけるよ。これでどうかな?」
クールにツインテールを揺らしてフローラルはそう言ってやった。
それに渋々彼らはうなずいて我慢した。
そしてフレンド登録をするとテスタに言われたように彼らは突き進むためにダンジョン探しに向かって、5つのパーティーは《ジャンヌ教団》というパーティーに合併した。
「そこまでの流れを見てたけど、そんなに戦力が必要なの?」
「〈聖女の導き〉と〈聖女の軍勢〉で集めないといけないほどにはですね。なにせ、1層目はすでに1名のプレイヤーが挑んでリタイアしたそうですから」
そのプレイヤーというのは実力者の10本の指に数えられるほどの人だから、そこそこの実力程度では突破できないだろう。
「それはそれは、困ったことになってるね。でも、安心しなよ。私がこの命に盾にして助けてあげるから」
その言葉に驚いて150cmのテスタが見上げると、その目はまた真剣な優しさを持っていた。
時々こんな目や顔をしてるから余計に変人扱いされるだろうなと思ってテスタはありがとうという気持ちを込めて腕を捕まえた。
「助かるなら2人ともですよ。僕の大切なリーダーさん」
この短期間で2人はとても仲良くなった。
互いの弱い部分を見せることで互いに助けたいと思うようになったせいだろう。
それでも、いつかはこの関係が崩れるのだろうけれど。