ニュートンの登場
気温が低い年末。
あるゲームを花咲香は買って上機嫌だった。
「ふん、ふふん」
鼻歌まじりにスキップして帰るその姿は、周りから見れば変人に見えないことはない。
なにせ、ゲームの本体を振って歩く薄着の女の子なのだから。
いや、なぜ彼女は12月にそんなことをしてしまったのだろう。
家に帰るとすぐに準備をしてゲームを起動した。
一人暮らしだからかなり自由にできる。
結局薄着だけど。
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「誰に言われたわけでもない。私がやりたいだけだ!」
そう言うと設定をすぐに終わらせて初期の街に姿を現した。
このLegendary Life Onlineは偉人とかそういうやつの力を使う系のゲームだ。
最初にたどり着く街では多くのプレイヤーが行き来していた。
そんなプレイヤー達の目的はほとんどない。
自由に戦って成長するのがこのゲームなのだ。
まぁ、小さな目標としてクエストは存在するが、大きな目的として定期的に行われるイベントがあるらしい。
そのイベントでその人専用のレア装備が賞品として出されるそうだ。
ちなみに後々次の階層が解放されるようになるらしい。それにはだも知らない解放条件があるらしい。
そんな初期スポーン地点でプレイヤーネーム〈フローラル〉がまずは自分が手に入れた力を確認した。
「ステータス!」
そう言うとステータス画面が現れて、そこにフローラルの手にした偉人か英雄の力と振った能力値が表示されている。
「手に入れたのは《ニュートン》か。多分重力操作系かな」
そう言うと、初期のシャツとスカートと靴の装備でツインテールを揺らして街を見て周りに出かけた。
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その途中で数人の危険そうなプレイヤーに目をつけた。
見て回ってるうちに危機回避のための作業を終えてフローラルは一安心していた。
そのまま歩いてこの街にある4つの門の内の1つに向かった。
「敵の実力は見れたけど、つけられるのはいい気分じゃないね」
南の門に向かってる途中でフローラルは誰かにつけられているのを感じた。
だから、相手するために路地裏に入った。
すると、つけていた相手はまんまと引っかかって待ち伏せをしていたフローラルと対面してしまった。
「なっ!」
フローラルをつけていたフードの人物は路地裏で対面すると驚いて一歩引いてしまった。
その行動をフローラルは見逃さなかった。
そして、一本取ってやったと思ってニヤリと笑った。
「悪いね。私って変人だからそういうのに気づくんだ。気配を殺してみたいだけどごめんね」
常人とは思えない手際のフローラルはそのまま殺気を相手に向けた。
おまけに異常殺人鬼のような狂った目を向けたので相手はたじろいでしまった。
その行動と状態を見てフローラルは手を出すほどの相手じゃないと考え直してその場を離れようとした。
「それだとやれそうにないね。悪いけど私は変人でもやる気のない敵は相手にしないことにしてるんだ。だからバイバイ」
そう言ってフローラルは回れ右して背を向けた。
その瞬間、フードの人物は殺気立って目を本気の状態にした。
そこからフローラルの背中めがけてナイフを突き刺しに走った。
「へぇ、演技だったんだ。やるじゃん」
後ろを見ずにフローラルはそう言うと《ニュートン》関連のものとして重力場を支配した。
それの範囲を5メートルに広げて、範囲内にあったレンガを浮かべた。
それを相手の脇腹に重力の中心点を与えることでまっすぐに引き寄せらせた。
そうすることでレンガは触れずに相手を吹き飛ばしてくれた。
横からの一撃と進行方向の関係的に斜めに転ばされて地に伏した。
「あっ、殺してないよね。街中でのプレイヤーキルは処罰対象だからやってたら困る」
急にそのことを思い出してフローラルは心配になった。
それで振り返って飛ばした方向を見ると、フードの人物は壁により掛かって立ち上がっていた。
ただ、脇腹は骨も折れて痛そうな見た目になっている。
その痛みに耐えながらその人物はフードを取った。
「ワァオ」
フローラルはその素顔を見てその言葉を発した。
その理由は金色の短髪に女の子っぽい綺麗な顔をしてたからだ。
それを気に入ったフローラルは助けることにした。
「あんた、気に入ったから助けてあげる」
近づきながらそう言うと、その子はどの面下げて言ってるんだという目を向けてきた。
その目すら気に入ったフローラルは間近まで顔を近づけて聞いてみた。
「大人しく助けられてくれればつけてきたことを通報しないであげる。そっちに利があると思うんだけど、受け入れてみる?」
至近距離でこの申し出をしてみるとあっさりと首を縦に振ってくれた。
何が目的だか分からないけれど、ここで受け入れるのはあちらに大きな利益があるようだ。
それが受け入れられてすぐにその子は意識を無くして倒れそうになった。
その体を170cmのフローラルがキャッチすると、そのままおんぶをして問題を起こした場所から立ち去った。