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序幕 夢にまでみたエンドロール

 これは、輪舞曲--!

 

 聞こえるメロディーにあたしはちょっとだけゲンナリした。

 いや、だってロンドなんですよ、ロンド。

 メインの旋律があって、別のメロディーを挟んだりしながら、延々と同じ旋律が繰り返される曲のこと。

 うろ覚えだからあれだけど、ちょっと前まで習ってたピアノ教室の先生がそんなようなことを言ってました!

 つまり、終わると見せかけて、また再び同じフレーズが流れるわけで………。

 

 うう、終わらないよー、スタッフロール!

 

 この素晴らしい乙女ゲーム「プレシャス・モーメント-聖なる乙女と瞬く翼-」(略してプレモ)を作り上げた方々には感謝しているともさ!

 でも、でもね。

 あたしはその一人一人の名前を覚えて、崇め奉るタイプのプレーヤーじゃないんだよ。

 せめて、スタッフロールの背景がスチルなら正座で鑑賞するけど、哀しいかな背景は白一色。しかも、このゲームはすべてのエンディングで、スタッフロールのスキップ機能がついていないと来た。完全に八方塞がりだ。

 なら、諦めて席を立てばいいじゃない。

 けど、そうは問屋が卸さない。

 プレモは、スタッフロールの後にエンディングスチルが出る仕様になっている。

 つまり、高難易度マジックスキルのスクロールよろしくに、すべて読み上げないと真のエンディングが発動しないのだ。

 一瞬席を立った途端に、エンディングが始まってしまっては元も子もない。

 

 今度こそ。今度こそ。

 協賛ってことは、これは終わりが近いんじゃないの?

 あっ、制作ってことは……。


「「「「「アンジェリカ」」」」」

 美しい五重奏がヒロインの名を紡ぐ。

 右からフレデリック様(王子)、リカルドくん(宰相見習い)、ゲオルグさん(騎士)、オールちゃん(元魔王)、ケイン(パン屋の幼なじみ)と、攻略キャラがスチルに勢揃いしている。

 そう、これは大団円なハーレムエンド。

 あたしはついにここまでやり遂げたのだ。隠しキャラであるケインを攻略して初めて発生するこのルートを終えれば、完全クリアになる。

「わたしたちは決めたよ。君は誰か一人のものではない。でも、わたしたちは君だけを愛し続けるよ。だから、君はわたしたちを平等に愛してくれるね」

 代表して、金髪碧眼のフレデリック様が問う。彼は心の熱いタイプで、戦隊ものならば赤色リーダーと噂されている。

「ええ、もちろんです!」

 初期を思えば、まとまりのなかった五人が、こうして揃っているだけで感動ものなのに、ヒロインのことを思って、こんな態度になるなんて本当に涙を誘う。

 ヒロインって八方美人すぎやしないか、なんて考えは蚊帳の外。

 さりげなく肩を抱くフレデリック様に、反対側から腰を抱いているケイン。頭を撫でるのはゲオルグさんで、オールちゃんは子どもサイズなので膨らんだスカートに抱きついている。リカルドはというと、ツンデレ属性なので後ろからスカートをちょっとつまんで、そっぽを向いている。

 五人五様にヒロインへの愛情を示しているのが、ファンとしてはたまらない。 

「よかったね、アンジェリカ。これで僕は天界に戻れるよ」

 宙に浮かんでいるのは、聖獣のユニコーンだ。マスカットという名前に合わせて、緑色の玉の首飾りをしている。スチルに割り込むにはリアル馬っぽい本体だと描ききれなかったのだろう、エンディングだというのにミニキャラのままだ。

「お別れなの、マスカット?」

「ごめんね、今まで黙ってて。君と離れるのはすごく寂しい。でも遠くからずっと、君たちのことを見守っているから!」

「うん、私もっ。私も、あなたのこと忘れないから!」

 アンジェリカは、マスカットが見えなくなるまで力一杯に手を振った。

 手を、振った。

 手。

 てててててててててて、手!

 視界に映る自分の手に視線が釘付けになる。

 イベントスチルに不必要な主人公の手が映り込むことなんてあり得ない。

 指を一本、二本と動かして、自分の意思通りに動くことを確認する。

 主人公のしおらしい表情を浮かべながら、内心は冷や汗でびっしょりだ。

 もしかして、これって夢にまで見たエンドロール--じゃなくて、現実に起きているエンドロール!?

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