第90話
フェルナンドが放った黒いモヤモヤに飲み込まれて意識を失い、目が覚めたら私はこうして夢の世界に来ていたという事であった。
この夢は多分、アンジュとリンクしている。
私は、この夢で鳥籠から女神様を出す事がアンジュを救う事になるんだと思った。
アンジュの気持ちも知らずに恋愛してごめん。何の役にも立たなかったね・・・。それでもアンジュは私を心配して戻ってきてくれたんだわ。
ぐすっ・・・
泣いてる場合じゃないわ。今私がこうしてここで動けているんだもの、私にしか出来ないことなんだ。私がやらなきゃ駄目なんだ。
フェルナンド・・・。他の攻略対象者はあなたみたいにこの世界に拘ったりしてなかったわ。あなたもまた、自我を持っていて自分の意思で動いていたわよね?
そして貴方はアンジュを愛しているのね。だからこそ、不変を望んだ。
でも、それでいいの?貴方が好きなのは自我の無いアンジュなの?自我のあるアンジュは好きじゃないの?
私はこの世界に来て初めて心から人を好きになれた。アンジュには引け目があるが、プレアデスを好きになった事は後悔していない。
アンジュ、いつかあなたも・・・。その為なら私は・・・。
ふわっ・・・
なぜだか知らないけど、その時プレアデスに抱きしめられている様な気がした。鼻をくすぐるプレアデスの匂い・・・。
うん、わかってる。頑張るよ。私は一人じゃないんだ。プレアデスが居る。アマルシスが居る。アンジェロだって居る。私達はきっと、アンジュを救う為に集まったんだ。私はそう思いたい。だってアンジュは私達の事を“救世主”と言ったもん。
私達はAdorer un angeによってこの世界に来たんだ!
その頃現実世界ではプレアデスとアマルシスが戻りの遅いジゼルを心配して探していたところ、人気の無い裏庭の一角で地面に倒れたジゼルとアンジュ、その場に立ち尽くしていたフェルナンドを見つけたのだった。
「おい、お前!ジゼルとアンジュに何をした!?」
「・・・裏切り者とモブか・・・」
「・・・!?アマルシス!アルド達を連れて来い!」
「わ、わかった!!」
プレアデスはフェルナンドがいつもの穏やかなフェルナンドでは無く鋭い目つきで様子がおかしいことに気付き、咄嗟にアマルシスをその場から離れさせた。
そしてプレアデスはアンジュとジゼルを庇う様にフェルナンドの前に立ちふさがった。
「フザケてるわけじゃねぇんだよな?フェルナンド。事と次第によっちゃタダじゃ済まねぇぞ?」
「はは・・・。プレアデス、いつから君はそんな野蛮な男になったのだろうね?」
「意味わかんねぇ事言ってんじゃねぇぞ?俺は生まれた時から俺だ!!」
「・・・プレアデス。君はどうしてアンジュじゃなくてこっちのアンジュの引き立て役を選んだ?」
「てめぇ・・・!ジゼルが引き立て役だとぉ・・・?」
「ジゼルはアンジュを彩るタダの駒。その役割以上の事をするなんて言語道断だよ。この世界はアンジュの為にあるのに・・・。この世界では自我なんて持ってちゃいけないんだ・・・僕を含め」
「何を言って・・・」
「プレアデス!!なんだ、これは?一体どうなってる?」
「アルドか!俺にもサッパリわかんねぇよ」
アマルシスが呼びに行った、アルドとスティードが駆け付けた。
「ジゼル嬢!?それにアンジュ様まで・・・」
スティードが倒れた二人に駆け寄った。
「フェルナンド、貴様は何がしたいんだ?」
アルドがフェルナンドに問う。
「この世界の浄化だよ。あるべき世界に戻すんだ」
「な?コイツの言ってる事意味不明で一つも噛み合わねぇんだよ」
「貴様の言うあるべき世界とは何だ?」
「おい、俺様を無視すんな!」
「誰もがアンジュを、アンジュだけを好きになる世界、今まで通りこれからも変わらない世界」
「つまり、俺達がジゼルの事を好きになったのが間違いだと言いたいのか?」
「さすがアルドはプレアデスとは違って物分りがいいね」
「う、うるせー!!」
アルドはジゼルとアンジュをチラリと見てからゆっくりとフェルナンドを見据え、揺らぎの無い口調でハッキリと自分の意志を伝えた。
「そう思っているのは貴様だけなんだが。つまり、この世界においての異分子は貴様の方だが?」
「な、何故だ・・・!?君達だって不変を望んでるんだろう?」
「貴様、何か勘違いしていないか?俺達やアンジュだって誰の意思でもなく己の意思で思うがままに行動したとして、貴様にどんな不都合が生じると言うのだ?」
「あ、アンジュが・・・、アンジュがエンディングを迎えないとこの世界は終わってしまう・・・」
フェルナンドの身体から黒いモヤモヤが大量に放出された。
「なっ・・・!これは・・・」
「うわぁぁぁ、やべぇ!ジゼルッ!」
プレアデスは咄嗟にジゼルの身体を抱き締めてモヤモヤがジゼルに触れないように庇った。
・・・はぁ、はぁ。どうしよう。鍵が見つからない。本当にここに落ちているのかしら?
花畑には時々棘のついたものもあり、指先がボロボロになっていた。
ふふ、こんなになるのはみんなにプレゼントする為にハンカチに刺繍した時以来ね。
この世界に転生してから沢山の思い出が出来た。人を思いやる気持ちも、誰かが誰かの為に行動する事も、決して無駄な事なんかじゃない。
私は鳥籠の方へ向かった。鳥籠へ近付くと、目を疑う様な光景を目の当たりにした。
「なに、これ・・・」
鳥籠全体が黒いモヤモヤで覆われていた。これは、フェルナンドの仕業なの?
「ジゼル、私の事はもう良いので早く目を覚ましてこの夢の中から逃げてください」
「そんな・・・。貴女を置いて帰れないわよ!」
私は鳥籠の鍵を落ちていた石で叩いた。しかし、鍵はビクともしない。それどころか、鍵を支えていた手の方に衝撃が走った。・・・いたた。やっぱりこんなんじゃダメか。
「ジゼル!無理しないでください!早く、早く逃げて!」
「女神様・・・。いいえ、アンジュ。鍵が見つからないなら私は貴女の側に居るわ。決して貴女を一人にはしない」
「ジゼル・・・」
その時だった。私の胸元が光った。え・・・これは・・・。私は胸元から光の正体を取り出した。
それは私の手帳の鍵だった。肌身離さずにずっと身につけていた大切な手帳の鍵。アンジュの為の・・・。
私はその鍵を鳥籠につけられた鍵の鍵穴に差し込んで捻った。
カチリッ
開いた!!
鳥籠の入口が開いた。私は鳥籠の中に入ってアンジュを思い切り抱き締めた。
「ジゼ・・・ル」
「アンジュ!アンジュ!一緒に帰ろう?皆が居る世界に帰ろう?」
「ジゼル・・・、ジゼル!ジゼル!うわぁぁぁぁぁん!!」
アンジュは私の背中に腕を回して赤ちゃんみたいに大声で泣いた。気付けば鳥籠は姿形も無くなっていた。
「・・・でも、帰るってどうやって・・・?」
私はひとしきり泣いてようやく落ち着いたアンジュの顔を見つめて問いかけた。
「ふふ、祈りましょう!」
「そうね。二人で祈ればきっと帰れるわ」
私達は手を取り合っておでこをつけて祈った。
“み ん な の 元 へ 帰 ろ う”
暖かい光に包まれていく・・・。フェルナンド、貴方もこの光に包まれたらきっと救われるわ。
オマケ程度だけどついでにフェルナンドの事を祈った。
“ジゼル・・・僕は間違ってなかった。僕は僕の思う通りに行動しただけ。この世界を守る為・・・アンジュを守る為。・・・でももし、僕にも君みたいに自分で運命を変える勇気が持てたなら・・・・・・”
フェルナンドの声が遠くから聞こえた気がした。
ここまでお読みくださいましてありがとうございました┏○))ペコッ
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次回更新は5月2日(木)頃を予定しておりますが、もっと早く更新できたら更新しますね。
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