第9話
・・・すっかり徹夜してしまったわ。調子に乗りすぎた感はあるけど、とても満たされた気分よ。しかし、私ってば、こないだから食べるものも食べず、寝る間も惜しむ・・・って、杏の頃の生活まんまじゃない!!
あんまり自堕落になってはいけないわね。気をつけなくちゃ。
私は、妄想ノートを鍵付きの机の引き出しに仕舞い、学園の制服に着替えて部屋を後にした。
「おはようございます。お嬢様、夕べはお楽しみでしたね」
えぇ、何この宿屋に泊まった次の日の朝みたいなセリフは。
「おはよう、ユミル。少し・・・ね。ねぇユミル、貴女は殿方同士のロマンスはアリだと思う?」
「え・・・、衆道・・・ですか?」
およ?少し顔を赤らめているわね。これは拒絶反応ではないと見た。素質は、ありそう!!それに衆道って言葉がある位だもの、この世界にも多少のBLはあるって事よね。
「あのね、ユミル。例えば・・・ごにょごにょ」
「ふぁっ!?そ、そんな・・・、そんなの尊すぎて凄く胸がトキメクではないですか!!」
「ふふ、アルド様やお兄様には決して秘密よ」
「わかりました!是非、後程お嬢様の作品を拝見させてください!!」
「もちろんよ、ユミル。これからは同志として情報交換などしましょう」
「はいっ!!」
私が昨日していた事の一部をユミルに話した所、彼女は顔を真っ赤にして賛同してくれた。ふふ、もう私は一人ではない・・・。後はボニーをどうやって堕とすか。まぁ、この辺は仲の良いユミルからもジワリと手を回してもらうとして。やだ、凄く楽しみ!仲間が居れば意見交換とかも出来るし、楽しくなりそうだわ♪
浮かれた気分で学園に着き、校門でアンジュを待ちアンジュが到着すると私はアンジュのお付きの人に金の日まで暫くの間私と帰るから迎えはいいと伝えた。
「ごめんなさいね、アンジュ。私の調べものに付き合ってもらって」
「いいのよ。ジゼルのお願いだもの。それに私だってお米というものに興味があるわ」
私はどうしても食べてみたい食べ物があるが、ここら辺には無いみたいだから一緒に文献を探して欲しいとアンジュに提案したのだ。アンジュは嫌な顔一つせずに快く承諾してくれた。くぅっ!なんていい娘!!
簡単には見つからないと思うので、これで暫くはアンジュと行動出来るし、ほばほぼ図書室に居るルシアン・ルークスと接点が出来るわ。
校舎内は翌月始めのダンスパーティーのペアを決めるイベントが金の日にせまっている為、女子も男子も浮き足立っていた。アルド様は勿論、スティードの周りもダンスパーティーの申し込みの女子が殺到していた。ふぅ、危ない危ない。昨日の内にアルド様にアンジュをお願いしておいて正解だったわね。
アルド様が、一人一人丁重にお断りをしているけど、数が多いから大変そう。断る際に“誰”と踊るかを言わないから食い下がっているんでしょうに。よし、ここは。
「アルド様、もうお相手決まっているんですよね?」
少し強引でもアルド様に言わせなくてはいけないわ。
「あ、あぁ。俺はアンジュと参加するから、その、みんなすまない」
これでよし。女子の落胆の声が聞こえると共に、女子の冷たい視線がアンジュに注がれた。見てなさいよ!アンタ達!アルド様とアンジュの華麗で美しいダンスを見れば、嫌でもお似合いの二人だって理解するでしょうよ。
後はダンスパーティーまでの間、私がアンジュをガッツリとガードをするまでよ。女子なんてのは一途な人も居れば、そうじゃない人も居るんだから。実際、アルド様との可能性がゼロになった途端にスティードの所に行った女子が数人居るし。このダンスパーティーってダンスうんぬんよりも、その前の段階の女子の資質を問うているんじゃないかしら。普段お淑やかな女子がギラギラしてるし。
「あ、あの、ジゼル。アルド様が私とだなんて・・・いいのかしら?」
アンジュが瞳をうるうるさせながら困った表情をしている。困った顔も可愛いんだから、こっちが困っちゃうわ。
「何言ってんのよ、アンジュ!いいに決まっているでしょう!!アルド様がアンジュと踊らなかったら一体誰と踊るっていうのよ」
「ジゼル・・・。それアルド様にも言ったの?」
「ん?言ってないけど、アンジュと踊ってくださいってお願いはしといたわよ」
「・・・・・・そう」
あれ?アンジュの表情が曇ってしまったわ!まさかアルド様と踊りたくないんじゃ?他の殿方が良かったとかーーー!?
「わっ!私余計な事をしてしまったかしら?だとしたらごめんなさい!アンジュの為に良かれと思って・・・」
「えっ?ジゼルが、私・・・の為に・・・?」
「ええ。私アンジュには絶対素晴らしい殿方と恋をして、幸せになってもらいたいの」
「いいえ、いいえ。ジゼルありがとう。ジゼルが私の事を想ってしてくれたのでしたらこんな嬉しい事はないわ。迷惑なんてとんでもないですっ」
「そう?なら良かった」
「ジゼル、私もあなたに幸せになってもらいたいです。私だってその為ならなんでもします!」
「まぁぁぁ!アンジュ。私達まるで両想いみたいね!」
「ふふっ。ならば私はジゼルと踊りたかったです」
「もーぅ!アンジュったらぁ!私が殿方だったら絶対放っておかない位可愛いわ!!」
「私は殿方じゃなくてもジゼルとだったら構いませんけど」
あれ?アンジュってこんな冗談言うタイプだったっけ?でも、こんなに可愛いアンジュに言われたのならば悪い気はしないわ。
「ジゼルは誰と参加するか決まってるんですか?」
「あー、私は参加しないかな。特に気になる殿方も居ないし・・・っ」
そこまで言った時、私の頭の中に昨日出逢ったプレアデスが浮かんできた。ヤバい。思い出したらまた顔が赤くなってしまう!
「ジゼル?どうしました?」
心配そうに覗き込むアンジュの顔を見て、ハッとなった。そうだ、プレアデスはアンジュと結ばれるかもしれないのだ。プレアデスのあの声が物語っている。決して聞き間違えたりなどしない私の大好きな声優さんの声ー。
「ううん、なんでもないですわ。お昼までもう少しですからお腹が空いたなぁって思って」
「まぁ!ジゼルったら、食いしん坊さんね。クスクス」
胸の奥がチクリと痛んだけど、これは親友の大切な人になるかもしれない人に恋をしそうになった罪悪感だ。
アンジュとプレアデスが出逢い、アンジュがプレアデスとの未来を望み、二人が結ばれようとした時に私は素直に応援が出来るだろうか?協力出来るだろうか?
そんなのは愚問だわ。私はこの世界においてイチサポートキャラ。つまりは脇役なのだから、立場をわきまえなくてはならないの。アンジュという花が華々しく咲く為にお手伝いをするのが私。何度そう心に誓えばわかるのか。ゲーム本編に於いても、ジゼルの恋のシナリオなんて無かったじゃない。だとしたら私のこの心のモヤモヤはバグなんだわ。異世界から私がジゼルに転生した事でバグが発生したのかもしれない。それに、昨日も恋なんてしてる場合では無いと自分で自分に言い聞かせたではないか。物わかりの悪い自分自身に苛立ちさえ感じてしまう。心に、蓋をせねば。そうすれば、やがて痛みもなくなる。
そうだ!!日の日はアンジュは必ず教会に礼拝に行く日。特に何もない日は一緒に行ったりしていたけど、私はそこから少し離れた場所にある滝に行こう。そこで滝に打たれて煩悩を捨て去った方がいいわね!
「アンジュ、日の日私も途中まで一緒に行くわね」
「途中まで?」
「えぇ、教会の先に用があるから、アンジュの礼拝が終わったら落ち合いましょう」
「え、えぇ。わかりました」
後で滝修行用の服を用意しなくては。
この時点での私は煩悩を断ち切るには最早滝修行しかない!!という残念な考え方しか出来ない位余裕が無かった。そして後々後悔をするハメになるのだった。
ここまで読んでくださいましてありがとうございました(^^)